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2023年前途有望な黒人科学者賞エッセイコンテスト受賞者の紹介

筆者:Alexandra Foley | 2023年2月16日

​第3回前途有望な黒人科学者の受賞者をご紹介します。Cell Signaling Technology、Cell Press社、およびElsevier財団が主催するこのエッセイコンテストは、若手かつ才能とやる気にあふれるアフリカ系アメリカ人科学者を支援するために設立されました。今年も、応募していただいた科学者の熱意や知的さ、そして革新性に圧倒されました。これまでの経験がいかに重要な仕事を成し遂げる原動力となっているかを伝える彼らのエッセイに、深く心を打たれました。

今年は、さらに特別な年となりました。主催者にElsevier財団が加わったことにより、受賞者の数が2名増えて合計4名となりました。これにより、ライフサイエンス、物理学、地球学、環境学、データサイエンスの分野で活躍する優秀な学生も対象となります。CSTはライフサイエンスに特化した会社ですが、サステナビリティとグリーンサイエンスにも積極的に取り組んでいます。環境保全という重要な仕事を担う前途有望な若手科学者の話はとても有意義であり、この分野が受賞対象になったことを大変嬉しく思います。  

今年の受賞者と、彼らのエッセイの抜粋をご紹介します。

大学院生/ポスドク:Christine Wilkinson博士 (カリフォルニア大学バークレー校)

エッセイタイトル:鏡の中のコヨーテ:ヒトと野生動物の相互関係を改善する、異種性の尊重

Christine Wilkinson博士は、カリフォルニア大学バークレー校の卒業生です。学際的マッピング、ヒトと野生動物の対立、肉食動物の移動生態学、一般参加型アプローチを研究対象としています。受賞エッセイを読むと、「都会の野生動物を追いかける、白人と黒人両方のルーツをもつクィアの若者」としての生い立ちが、Christine博士が現在行っている自然保護科学者としての仕事に大きな影響を与えていることが分かります。ケニアでヒトと野生動物の対立の研究に携わった経験から、自然保護の複雑さと、地域社会と連携して公平で持続可能なソリューションを見出すことの重要性を学びました。 

本エッセイでは、Christine博士自身の「西洋科学という既成概念」に適応できない苦悩と、ハイエナなどの野生動物が環境に適応するために発達させた行動によりヒトから悪者扱いされてきたこととの共通点を鋭く突いています。研究対象である野生動物への共感は、自然保護活動家としての仕事における貴重な教訓となっています。Christine博士はこう述べています。  

「私の研究から、応用生態学や一般参加型生態学が広く普及し、さらに人々の公衆衛生と暮らしが真に優先されれば、これまで野生動物保護に関心が少なかった地域社会が、個人の経験や必要性に基づき、生態学的に正しく影響力のある判断ができるようになることがわかっています。私は今後、One Health (ワンヘルス:ヒトと動物、生態系の健康はつながっているという考え方) の枠組みを用いて、ヒトと野生動物、生態系の健康と幸福をより良くする研究を進めます。これにより、ヒトと野生動物がより良好な関係を築きながら、互いに異なる人々をつなげていくことができるでしょう。」

弊社と同じく、本エッセイに感銘を受けた方はTwitterの@ScrapNaturalistを検索し、Christine博士の旅の様子や仕事に関する詳細をご覧ください。

大学院生/ポスドク:Elijah Malik Persad-Paisley氏 (ブラウン大学医学部)

エッセイタイトル:包括性を介した多様性と公平性の実現

Elijah Malik Persad-Paisley氏 (@elijahpp_) は、ブラウン大学医学部脳神経外科の大学院生です。Elijah氏のエッセイは、医療分野ではあまり表に出てこない話です。Elijah氏は、父親がアフリカ系アメリカ人であることから、インド人である実の家族から差別を受け、10歳で養子に出されました。時が経ち医学生となってからも、Elijah氏は人種差別を目の当たりにし続けます。144人のクラスメートのうち黒人はわずか3人であり、彼はそのうちの1人でした。 

Elijah氏は、この経験を糧にし、研究だけではなく多様性、公平性、包括性 (DEI) への取り組みに活かしています。Elijah氏はこう述べています。 

「DEIに焦点を当てた奨学金と研究は、私の個人的な経験の延長線上にあります。私は医学生の研究者として、医学生や研修医における全米規模の人種や性別による格差の研究を開始しました。これは、いわゆるマイノリティの患者に否定的かつ不当な影響を与えるものにもかかわらず、議論されることすら少ない分野です。人種が異なる医師の治療を受けた白人以外の患者は、外科手術後の死亡率が高く1、入院期間がより長くてコストがかかり2,3、脳腫瘍の最良の治療を受けられない4ことがわかっています。このような状況は、私が将来担当することになる患者にとって不利益となります。彼らを診る医師の数が増えることにより、患者の間のこのような不平等も解消されるでしょう5-9。」

Elijah氏はすでに、このテーマや類似のテーマに関する論文を多数発表しています。ResearchGateでご覧ください。Elijah氏の、今後の活躍が楽しみです。 

大学生:Admirabilis (Bilis) Kalolella氏 (コネチカット大学)

エッセイタイトル:私のクリスマス休暇

Admirabilis (Bilis) 氏は、コネチカット大学で生化学を専攻する学部学生です。Bilis氏のエッセイには、クリスマス休暇中に訪れた、出身地であるタンザニアのムゲタ村のことが記されていました。毎年、彼の父親は小さな医療クリニックを開き、近辺からだけでなく遠方からも多くの人が訪れます。この経験から、Bilis氏は社会へ還元することの重要性を学びました。コネチカット大学に戻った後も、「どうすれば自分の知識を地域社会の役に立てられるだろうか?」という疑問が消えることはありませんでした。 

Bilis氏は大学3年生の時、南アフリカのケープタウンを訪れ、Drug Discovery and Development Centre (H3D) で勤務しました。H3Dでは、化合物AZD0156のマラリア治療薬としての転用・再開発に取り組みました。AZD0156は、マラリア寄生虫のライフサイクルにおける重要な薬剤標的であるPfPI4Kキナーゼの活性化部位を阻害します。Bilis氏は、この経験についてこう述べています。 

「ムゲタからニューロンドン、そしてケープタウンに住んで気付いたのは、黒人が概して社会のヒエラルキーの一番下にいるということです。これは科学の世界でも同じことが言えます。黒人の研究者や医師だけでなく、臨床研究に参加する黒人も不足しています。私は患者を治療するだけでなく、疾患の根底にある機構を理解し、より良い薬を開発する医師・科学者になりたいと考えています。私が開発する薬が、世界中の多くの人々に役立ってほしいと思います。」

Bilis氏は、出身国であるタンザニアなどの国で多大な影響を与えている感染症などの、顧みられない熱帯病の治療薬を開発したいと考えています。弊社は、Bilis氏のエッセイに大いに感動しました。この重要な分野におけるBilis氏の今後の活躍に期待しています。 

大学生:Camryn Carter氏 (リッチモンド大学)

エッセイ題名: 心の底からもっと笑顔に

Camryn Carter氏は、リッチモンド大学でコンピューターサイエンスと化学を専攻する学部学生です。エッセイでは、クラスで唯一の有色人種であったため幼い頃から疎外感を抱えていたことが綴られています。しかし、科学の世界で活躍する若い女性や有色人種の人々と接することにより、自分の能力が最も活かせる分野に気付くことができました。コンピューターの前で行う、計算化学の研究です。 

COVID-19パンデミックもまた、Camryn氏の研究に計り知れない影響を及ぼしました。これまでにCamryn氏は、SARS-CoV-2に関する論文を2本発表しており、そのいずれにおいても計算科学に関する専門知識が駆使されています。Camryn氏はこう述べています。 

「これまでの研究の経験から、計算化学は危機にすぐに対応するための迅速かつ効率的なソリューションを提供できる、価値あるツールであることを実感しています。私は、気候変動の人類学的な要因や、軽視されている地域社会が今でも直面し続けている環境不正義の問題について学びました。気候変動の余波を受けながらも、それに対するソリューションを生み出している女性たちに感銘を受けました。私の目標は、計算化学を用いて気候危機に対するソリューションを開発する研究を行うことです。気候変動が強まるにつれ、感染症も拡大し、前面に立たされる地域社会が医薬品やワクチンを入手することがより困難になります。新たな疾患だけでなく、既存の疾患の効果的なソリューションも短期間で提供できる、計算化学による医薬品のデザインに興味があります。」

差し迫った気候危機に対抗し、明るい未来をもたらすことができるのはCamryn氏のような科学者たちです。熱意を持って計算化学と気候正義を組み合わせることは、高尚かつ重要な探求であり、Camryn氏のこれまでの功績に感動しました。 

受賞者の皆さん、おめでとうございます!今後のさらなる活躍を楽しみにしています。

前途有望な黒人科学者の表彰制度とは? 

前途有望な黒人科学者の表彰を行うエッセイコンテストは、才能とやる気にあふれるアフリカ系アメリカ人科学者のキャリアを支援するために設立されました。部門別に、4名の受賞者と4名の特別賞が選ばれます。 

  • 受賞者:学部学生2名と大学院生/ポスドク2名
  • 特別賞:学部学生2名と大学院生/ポスドク2名 

受賞者には、10,000ドルの賞金と500ドルの交通費が授与されます。特別賞は500ドルが授与されます。詳細はCell Press社のウェブサイトをご覧ください。

参考文献: 

  1. Curry WT Jr, Carter BS, Barker FG 2nd. Racial, ethnic, and socioeconomic disparities in patient outcomes after craniotomy for tumor in adult patients in the United States, 1988-2004. Neurosurgery. 2010;66(3):427-438. doi:10.1227/01.NEU.0000365265.10141.8E

  2. Khalafallah AM, Jimenez AE, Patel P, Huq S, Azmeh O, Mukherjee D. A novel online calculator predicting short-term postoperative outcomes in patients with metastatic brain tumors. J Neurooncol. 2020;149(3):429-436. doi:10.1007/s11060-020-03626-1

  3. Lad SP, Bagley JH, Kenney KT, et al. Racial disparities in outcomes of spinal surgery for lumbar stenosis. Spine (Phila Pa 1976). 2013;38(11):927-935. doi:10.1097/BRS.0b013e31828165f9

  4. Bhambhvani HP, Rodrigues AJ, Medress ZA, Hayden Gephart M. Racial and socioeconomic correlates of treatment and survival among patients with meningioma: a population-based study. J Neurooncol. 2020;147(2):495-501. doi:10.1007/s11060-020-03455-2

  5. Moy E, Bartman BA. Physician race and care of minority and medically indigent patients. JAMA. 1995;273(19):1515-1520.

  6. Cantor JC, Miles EL, Baker LC, Barker DC. Physician service to the underserved: implications for affirmative action in medical education. Inquiry. 1996;33(2):167-180.

  7. Komaromy M, Grumbach K, Drake M, et al. The role of black and Hispanic physicians in providing health care for underserved populations. N Engl J Med. 1996;334(20):1305-1310. doi:10.1056/NEJM199605163342006

  8. Cooper-Patrick L, Gallo JJ, Gonzales JJ, et al. Race, gender, and partnership in the patient-physician relationship. JAMA. 1999;282(6):583-589. doi:10.1001/jama.282.6.583

  9. Cooper LA, Roter DL, Johnson RL, Ford DE, Steinwachs DM, Powe NR. Patient-centered communication, ratings of care, and concordance of patient and physician race. Ann Intern Med. 2003;139(11):907-915. doi:10.7326/0003-4819-139-11-200312020-00009

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