アストロサイトは、中枢神経系 (CNS) における神経細胞への栄養の供給や酸化ストレスからの保護、損傷や感染後の炎症の調節といった重要な役割を担っています。CNSに外傷が生じると、アストロサイトはこれに反応して細胞を肥大成長および増大させて、炎症の制御や有害な副産物の中和、細胞ストレスの伝播の抑制といったアストログリオーシスと呼ばれる活性化プロセスを引き起こし、損傷していない組織を保護します。アストログリオーシスは、脳の損傷部位を隔離して回復をサポートする一方で、重度の損傷の場合は、炎症性損傷を悪化させたり、将来的な神経の修復と再生を阻害するグリア瘢痕を形成したりすることがあります1。
アストロサイトの活性化は、損傷に関連しているだけでなく、てんかんや多発性硬化症、アルツハイマー病などの神経変性疾患の特徴でもあります。その病態生理の理解は、外傷性脳損傷 (TBI) や脊髄損傷、脳卒中、神経変性疾患の治療法の向上につながる、神経科学研究における重要な領域です。
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本ブログ記事で取り上げた標的の一部に対応する試薬が含まれる、Astrocyte Markers Antibody Sampler Kit #50748をご覧ください。 |
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マルチプレックス免疫蛍光染色 (IF) は、アストロサイトの生物学を調査するための一般的な手法です。複数の細胞タイプマーカーを活用することにより、アストロサイトと神経細胞やミクログリア、他のグリア細胞集団との相互作用を解析できます。また、影響を受けた脳領域における、アストロサイトの細胞局在や形態に関する知見も明らかにできます。
IFだけでなく、ウェスタンブロッティング (WB) もまた、アストロサイト活性化を研究するための強力な補完的手法として用いられます。多くの研究者は、まずはWBを用いて、様々なサンプルや実験条件で目的のタンパク質をスクリーニングおよび定量し、その後、マーカーのサブセットを決定してマルチプレックスIFで詳細な解析を行います。
プロジェクトを効率的に進めるには、WBとIFの両方での使用が検証済みであり、関連するモデルシステムや組織タイプで有効であることが確認されている抗体を選択することが重要です。これにより、手法を問わず、信頼性が高く正確な検出を確実なものとし、再現性のある結果が取得できます。
本ブログ記事では、アストロサイトとグリア細胞の主要なマーカーの一部と、アストログリオーシスを確実に検出できる高度に検証されたCSTリコンビナントモノクローナル抗体を紹介します。
グリア細胞と反応性グリア細胞のマーカー
グリア細胞の密度やサイズ、分布は、中枢神経系の健康状態を示す有力な指標です。アストログリオーシスの研究で最も一般的に使用されるマーカーの一部を紹介します。
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#1. GFAPGFAP (Glial Fibrillary Acid Protein) は、グリア細胞の中で最も研究が進んでいるタンパク質です。このタンパク質は、グリア細胞に構造的な安定性を提供し、損傷が生じると線維芽細胞増殖因子 (FGF) により発現が亢進されます。GFAPは、アストログリオーシスと瘢痕形成の主要なマーカーです1。 |
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#2. ALDH1L1ALDH1L1 (Aldehyde Dehydrogenase 1 Family Member L1) は、葉酸代謝とヌクレオチド合成に関与するグリア細胞に特異的な酵素です。GFAPとは異なり、その発現は、中枢神経系損傷後も安定して維持されるため、細胞の状態にかかわらずアストロサイトの有用なマーカーとなります2。 |
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#3. VimentinVimentinは、活性化アストロサイトと神経前駆細胞に発現する中間径フィラメントタンパク質です。損傷後の細胞骨格変化時に生じる初期アストログリオーシスを同定するために、GFAPと併用されることが多々あります3。ミクログリアや樹状細胞の亜集団で観察されるF4/80などの他のマーカーとの共染色 (または二重染色) により、有用な情報が得られます。 |
輸送およびシグナル伝達タンパク質のマーカー
グリア細胞は、グルタミン酸濃度を調節し、ギャップ結合を介して迅速かつ同期的なシグナル伝達を行います。以下のタンパク質は、アストログリオーシスにおいて重要な役割を担います。
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#4. EAAT1/EAAT2興奮性アミノ酸輸送体 (EAAT1/EAAT2) は、グルタミン酸による興奮毒性から神経細胞を保護します。アストログリオーシスの際に発現が亢進していることが多く、反応性グリア細胞に関するさらなる知見を取得できる可能性があるため、潜在的な治療標的として研究が進められています4。 |
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#5. Cx43Connexin 43 (Cx43) は、43kDaのタンパク質であり、ギャップ結合チャネルを形成し、カルシウムなどの低分子の拡散を介してグリア細胞の広大なネットワークを連結しています。Cx43は、中枢神経系損傷に反応したアストロサイトで発現が亢進されており、死細胞から生じるカルシウムサージの影響を相殺する保護機構として機能する可能性があります。
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炎症マーカー
アストロサイトは、状況に応じて保護的な作用または有害な作用を示します。これらのマーカーは、病態生理学的な表現型を特定し、反応性アストログリアが炎症に関わるものか、あるいは修復に関わるものかを判断するのに役立ちます。
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#6. S100bカルシウム結合タンパク質であるS100bは、細胞周期の調節に関与し、血管を被覆するアストロサイトの特定の亜集団に発現しています。このタンパク質は、オートクリン (自己分泌) やパラクリン (傍分泌)、内分泌シグナル伝達を介して、終末糖化産物受容体RAGEと結合します。また、S100bは、損傷関連分子パターン (DAMP) タンパク質として脳の損傷後の神経炎症に関与します。このタンパク質の発現は、アストログリオーシスの進行時に増加します。血液や尿、血清中で検出可能なため、S100bはアストログリオーシスおよび神経変性疾患における非常に有効なバイオマーカーです5。 |
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#7. Toll様受容体Toll様受容体 (TLR) は、病原体関連分子パターン (PAMP) やDAMPのシグナル伝達に関与する免疫応答性タンパク質受容体ファミリーです。アストログリオーシスの状態の決定に用いられます。活性化されるTLRのサブタイプにより、アストロサイトの表現型を決定できます(TLR2とTLR4が活性化している場合は炎症性であり、TLR3が活性化している場合は抗炎症性です)。 Toll様受容体 (TLR) シグナル伝達経路をご覧になり、関連するCST製品を探索してください。 |
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TNF-α (D2D4) XP Rabbit mAb #11948
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#8. TNF-αTNF-α (Tumor Necrosis Factor-α) は、中枢神経系損傷後にアストロサイトによって発現が亢進される炎症促進性サイトカインです。このタンパク質は、アストロサイト活性化の初期のインジケーターであり、グリア瘢痕形成前に発現します6。 |
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#9. TGF-βTGF-β (Transforming growth factor β) は、TNF-α、IL-1β、NF-kβなどの炎症促進性シグナルを抑制することにより神経炎症の調節をサポートするサイトカインです。しかし、アストロサイトでは、TGF-βがGFAPとVimentinの発現を亢進させて、アストログリオーシスと瘢痕形成を引き起こします。TGF-βの経時的および空間的な発現パターンの解析は、神経変性やアストログリオーシスの研究に用いらます7。 |
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#10. Stat3Stat3 (Signal transducer and activation of transcription 3) は、TGF-βやIL-6などの損傷に応答するサイトカインや増殖長因子によって活性化される転写因子です。活性化型であるPhospho-Stat3は、アストログリオーシスと瘢痕形成を促進します8。 |
細胞外マトリックスマーカー
細胞外マトリックス (ECM) は、アストロサイトの機能や中枢神経系の修復、神経炎症において重要な役割を担います。これらのマーカーは、ECMリモデリングとそのアストログリオーシスへの影響を追跡するのに役立ちます:
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#11. マトリックスメタロプロテアーゼ (MMP)マトリックスメタロプロテアーゼ (MMP) は、創傷の修復、ECMリモデリング、細胞遊走、血管新生に関与するカルシウム依存性亜鉛ペプチダーゼのファミリーです。また、MMPは、神経炎症や創傷の治癒、がんなどの病態生理学的プロセスにも関与します。 |
CD11b/ITGAM (E6E1M) Rabbit mAb #17800
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#12. インテグリンインテグリン (αVβ3など) は、アストロサイトの細胞遊走や接着、シグナル伝達を調節する膜貫通型タンパク質です。炎症誘発性サイトカインは、インテグリンの発現を増加させて、アストロサイトの移動と活性化を促進します。αVβ3 Integrinサブタイプは、アストログリオーシスと特に関連性が深く、その過剰発現が炎症とグリア瘢痕形成の主要な因子であるCx43とNF-kβを活性化します11。 アストロサイト活性化の上流で、ミクログリア活性化が生じることがあります。CD11b/ITGAMの発現を調べることにより、アストログリオーシスでのミクログリアの役割に関するより多くの情報を取得できます。 |
アストログリオーシス研究のための抗体ツールキット
Cell Signaling Technologyは、これらのアストログリオーシスや神経炎症のマーカーに対する高品質な抗体と、お客様の研究に最適なパネル構築を支援する専門的なサポートを提供します。
また、CSTは、神経細胞およびグリア細胞の重要なマーカーに対する、マウスやウマ、ネコを宿主種とするキメラモノクローナル抗体の製品ラインナップを拡大中です。ラビットを親とするモノクローナル抗体は、WBとIFの両方で検証されており、キメラ抗体はマルチプレックスIF実験に使用できます。
マルチプレックスIF用の最新のCSTキメラモノクローナル抗体をご覧ください:
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