疾患の微小環境を理解することは重要です。腫瘍における細胞タイプの組合せによっては、がん標的治療が効果的でない場合があります。同様に、膵臓組織への免疫細胞の浸潤は、1型糖尿病の進行を示すことがあります。長年、この複雑なランドスケープは、フローサイトメトリーあるいは限られた組織染色による、単一細胞のスナップショットでしか目撃することができませんでした。イメージングマスサイトメトリー (IMC) は、このダイナミックな世界のパノラマを提供します。
IMCにより、細胞レベルと組織レベルの両方で、最大40種のタンパク質マーカーのイメージングが可能です。組織サンプルを、それぞれ異なる希土類金属同位体で標識した抗体でラベルします。次いで、サンプルをチャンバーに入れ、そこにレーザーを照射して抗体を分解することにより、装置に内蔵された飛行時間型マスサイトメーター (CyTOF) に放出されたイオン化した同位体を質量/電荷比を元に同定します。これらのデータをマーカーの種類と局在ごとに編集することで、多次元の組織プロファイルが得られます (図1)。
図1:Kris Hargraves氏によるマスサイトメトリーのプロセス。画像は、Noel de Miranda博士のご厚意によりご提供いただきました。
スイスチューリッヒ大学のCharlotte Giesen博士は、2014年、この方法を組織の解析法として初めて報告しました。IMCにより、乳がん組織のサンプルにおいて、32種のタンパク質とそれに関連する翻訳後修飾のイメージングが1 μmの細胞解像度で実現しました1。
これらのサンプルのIMCイメージングは、多くの場合、病理学者による従来の組織染色に基づく乳がんサブタイプの分類と相関しました。ただし例外として、腫瘍の不均一性がより高く示されました。少なくとも、ER、PRおよびHER2のトリプルネガティブに分類されたものが、HER2陽性細胞のサブポピュレーションを示した場合がありました。この結果からは、この患者ではHER2受容体に対する標的療法が実行可能な治療選択肢である可能性が示されます。
いくつかのマーカーについて共局在の検出が可能になることで、従来の免疫蛍光による組織染色の限界が大幅に引き上げられます。希土類金属同位体は自然には細胞内に存在しないため、本質的なバックグラウンドの懸念が排除されます。質量分析によるマーカーの検出は、蛍光スペクトルの重複が問題となる蛍光標識とは異なり、標的に対しより高い特異性ももたらします。
近年の共同研究において、ライデン大学医療センターのNoel de Miranda博士とFrits Koning博士は、IMCを使用してヒト胎児の腸内における外来抗原の曝露を検出しました2。
「これは、同じ組織において異なる細胞サブセット間の相互作用を調べるのに最適な技術です」と、de Miranda博士はCell Signaling Technologyに語りました。
この技術に課題がないわけではありません。現在多くの場合、レアメタル同位体で標識された抗体は市販されていません。加えて、適切な組織サンプルの調製において強固なシグナルが必要なことから、しばしば、研究者が独自の抗体パネルを作成することが求められます。
de Miranda博士は、「約40種の抗体のパネルを構築するのは、多くの時間と労力を要する、煩雑な作業です。」と話しています。「その多くを適切に機能させるには、徹底的に検証された抗体を使用するのが望ましいです。」
de Miranda博士は、CSTが提供する検証済みのキャリアフリー抗体などのツールが、IMCの作業に大きく貢献していると述べ (図2)、サンプルにおける一次抗体の標的特異性が実験の成功には不可欠であると強調しました。
de Miranda博士はCSTのサポートについて、「研究を進めるために根幹をなすものであり、我々は新しい技術的アプローチの開発に協力し続けています。」と述べました。IMCは、これまで隠れていた組織の微小環境の世界の鍵を開け続けます。