2型糖尿病の有病率は増加の一途をたどっており、世界で最も重篤な代謝疾患の一つとして認識されています。多因子性疾患である2型糖尿病は、臓器間代謝情報連絡網の異常による発病の典型的な例の一つです。米国CDCによれば、米国では2,910万人が糖尿病に罹患しており、810万人は診断を受けていない可能性があります。成人10人につき1人以上が罹患しており、65歳以上のシニア世代における罹患率が最も高くなっています。この疾患で恐ろしいのは、その続発性合併症です。2型糖尿病患者の死因のトップは、アテローム性動脈硬化症と心筋症です。効果的な治療法の必要性は、全世界において健康の優先事項となっています。
膵島のβ細胞は、最も分化したタイプの哺乳類細胞であり、成人のβ細胞はほぼ休止状態にあります。これまでのβ細胞の増殖の研究は、一般的に細胞周期を開始させる機序に焦点を合わせて、休止状態にあるβ細胞を細胞分裂する状態に活性化させようとするものでした。残念ながら細胞周期に再度入ったβ細胞の大半は、調節シグナルに欠陥があるためそれを完了させることができません。ジョスリン糖尿病センターの研究者は、β細胞が分裂しない理由を理解しようとしました。この研究者たちは、以前にはインスリン/IGF-1受容体が欠乏するよう改変したβ細胞を使い、このような細胞が正常なβ細胞ほど効率よく分裂しないことを示しました。このようなβ細胞がなぜ分裂できないかを理解するため、著者たちはβ細胞内の成長因子シグナル伝達経路と有糸分裂チェックポイント間のリンクを解明しようとしました。
最近Cell Metabolismで発表した研究論文によると、研究者たちは染色体分離で大きな役割を果たすセントロメアタンパク質A (CENP-1) とPOLO-like kinase-1 (PLK-1) の2つの細胞周期タンパク質を研究しました。著者らは、インスリン受容体のないβ細胞では、正常なβ細胞と比べて、CENP-1とPLK-1の発現が有意に減少すると報告しています。さらにCENP-1欠損マウスは、適応的β細胞補充を必要とする生理学的状態(加齢、高脂肪食、妊娠など)に暴露されていると、インスリン抵抗性を発現しやすくなる傾向が認められました。また、有糸分裂β細胞の数も軽減していました。糖尿病患者由来のヒトβ細胞では、健常者のものと比べCENP-1とPLK-1タンパク質が減少していることも分かりました。一方、膵島の過形成のあるマウスではCENP-1とPLK-1の発現が増加していました。
β細胞増殖を支える、成長因子媒介性の機序に対する理解を深めるために、研究者らは、転写因子FOXM1が関与する経路についても調べました。FOXM1は、細胞を増殖させる遺伝子の転写を調節します。著者らは、マウスとヒトの両方のβ細胞において、FOXM1媒介性のPLK-1とCENP-1の調節には、インスリンシグナル伝達が大変重要であることを発見しました。しかしインスリンシグナル伝達に障害のあるβ細胞では、FOXM1結合がなくβ細胞のアポトーシスが起こっていました。これはβ細胞のみで見られる現象でした。
以上の所見は、細胞周期調節におけるインスリン/IGF-1シグナル伝達の役割に関して、新たな知見を提供しています。つまり、β細胞の喪失が、2型糖尿病における細胞周期調節の異常に続発するということが示唆されました。すなわちインスリン/IGF-1->FOXM1->PLK1->CENP-1系は、β細胞が適応し、2型糖尿病への進行を遅延および/または回避する重要な経路です。不十分なインスリン分泌そしてそれに続く糖尿病の要因となる生理学的および代謝のプロセスの欠陥についての理解を得ることは、新規の抗糖尿病治療薬の開発に欠かせません。
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