固形がんの治療法は歴史的に、外科手術、化学療法または放射線治療、その他がんに特異的な治療の3者を中心に進歩してきました。さらに近年では免疫療法の開発が進み、この種のがんの治療法のパラダイムシフトの可能性が示されています。
抗体によるT細胞共抑制受容体PD-1 (programmed cell death protein 1) やCTLA-4 (cytotoxic T-lymphocyte-associated protein 4) の阻害などの免疫療法、すなわち免疫チェックポイントの阻害では、患者自身の免疫系を抑制から開放することでがんの根絶を目指しています。残念ながら、免疫療法の効果は腫瘍T細胞の浸潤や、免疫抑制性のがんの微小環境などの影響を受けるため、多くの患者がこの治療法の恩恵を享受できていません。このような「冷たいがん」が、免疫療法ががんの治療法として広く成功を収めるための障害となっています。
限定的ではあるものの、免疫チェックポイントの阻害が顕著な成功を収めたことから、最近の研究では免疫抑制性のがんの微小環境で免疫療法の効果を改善するための、新たな標的の特定に重点が置かれています。このような標的の1つにTIGIT (T cell immunoreceptor with Ig and ITIM domains) があります。
TIGITは共抑制性受容体で、制御性T細胞、活性型CD8+およびCD4+T細胞、ナチュラルキラー (NK) 細胞で発現します1。TIGITは樹状細胞 (DC) 上のCD155の結合に競合してIL-12やIL-10の産生を変化させることが示されています。また、T細胞やNK細胞の機能を直接阻害することができ、T細胞の増殖、NK細胞の細胞毒性、IFN-γの産生を抑制します2。また、TIGITはCD226の活性化を抑制すると考えられており、CD4+ T細胞においてT-bet の発現やIFN-γの産生が適切に制御されるために、この2つの発現のバランスが重要です2。TIGITには複数の免疫抑制機構があり、免疫療法を改善するための研究対象として非常に重要であると考えられます。
効果的な免疫療法のもう1つの障害になるものがT細胞の疲弊です。疲弊したT細胞には免疫療法の効果が低く、ここにもTIGITが関与している可能性があります。TIGITは、PD-1やCTLA-4、TIM-3 (T cell immunoglobulin and mucin domain-containing molecule-3)、LAG-3 (Lymphocyte activation gene 3) などの共抑制性受容体とともに、腫瘍内の最終的に疲弊したCD8+ T細胞サブセットで発現します。TIGITとその他共抑制性受容体が共発現することで、腫瘍抗原に特異的なCD8+ T細胞の増殖やサイトカイン産生が抑制されます3, 4。
TIGITの発現が高い疲弊したCD8+T細胞やCD4+ 制御性T細胞の蓄積は、免疫療法の効果が低い腫瘍のバイオマーカーとして利用できる可能性があります2,5。いくつかのタイプのがんで、TIGITとPD-1の両方を阻害することで、NK 細胞抗がん活性や、CD8+ T細胞増殖と機能が向上し、治療成績も改善することが示されています6。
免疫治療の研究において、TIGITの研究対象としての重要性が高まったことで、安定した、検証済みのTIGIT抗体が強く求められています。この需要にお応えするため、CSTはWB、IP、IF、IHCで完全に検証済みのTIGIT抗体を開発しました (IHCで検証済みである点にご注目ください)。これをご利用いただだくことで、信頼性が高く正確な組織解析が容易になります。これは特に、TIGITが関与する、あるいはTIGITを標的とする固形がんの免疫療法の効果を評価する研究で重要です。
このTIGIT抗体をその他免疫チェックポイント抗体と組み合わせることで、これらの経路の理解を深めて標的化し、操ることを目指す科学者を支援し、免疫療法の効果の改善や、固形がんなどにおけるT細胞の疲弊と戦うために役立てていただくことができます。
参考文献: