歴史的に、ISG15タンパク質の研究は精力的には行われてきませんでした。ISG15は細胞外でサイトカインとして機能し、炎症反応に関与することが分かっています。一方、細胞内ではISG15によるタンパク質の翻訳後修飾が起こり、これによってタンパク質の機能や活性が変化します。ISG15欠損症と呼ばれる希少遺伝性疾患において、ISG15が希少患者に深刻な影響を及ぼす可能性も指摘されています。しかし、最新の研究によって、現在進行中のCOVID-19との戦いにおいてISG15が標的となり得るという大きな可能性が示唆されました。
特に、研究論文である「Papain-like protease regulates SARS-CoV-2 viral spread and innate immunity」の公開は、ISG15の重要性を示しています。コロナウイルスはMain proteaseとPLpro (Papain-like protease) の2種類のプロテアーゼをもつことが分かっています。これらのプロテアーゼはともにウイルスの複製に必要で、ウイルスタンパク質のプロセシングを行って機能的なレプリカーゼ複合体を産生します。また、PLproは宿主タンパク質の翻訳後修飾の切断に関与し、宿主の抗ウイルス免疫応答の回避機構として機能することが示唆されています。
COVID19のSCoV2-PLproと、SARSのSCoV-PLproの配列は83%が一致しますが、宿主タンパク質への優先傾向が異なり、SCoV2-PLproはユビキチン様のISG15 (Interferon-stimulated gene 15 protein) を優先的に切断し、SCoV-PLproは主にユビキチン鎖を標的とします。感染時、SCoV2-PLproはIRF3 (Interferon responsive factor 3) からのISG15の切断に寄与し、Ⅰ型インターフェロン応答を減弱させます。
GRL-0617 (細胞透過性の有力な阻害剤) を用いてSCoV2-PLproを阻害することで、ウイルスによる細胞変性効果が損なわれ、抗ウイルス性インターフェロン経路が保持されます。これによって感染細胞におけるウイルスの複製が減少します。この知見から、SCoV2-PLproを標的とすることでSARS-CoV-2感染を抑制しつつ、抗ウイルス免疫全体を促進するという、二重の治療戦略の可能性が明らかになりました。
このデータは、SCoV2-PLproとSCoV-PLproの間にいくつかの違いがあることを示しており、これら2つのプロテアーゼのISG15への親和性の違いが抗ウイルス免疫にどのような影響を及ぼすかを示しています。これらの知見から、SCoV2がSCoVに比べてはるかに早く大幅に拡散している理由を説明できる可能性があります。また、将来的にこの知見を治療戦略として利用できる可能性もあります。ISG15とユビキチンはタンパク質を翻訳後修飾することができ、トリプシン処理でタンパク質を消化すると、K-ε-GGモチーフが残ります。
CSTのPTMScan® Ubiquitin Remnant Motif (K-ε-GG) Kit #5562を用い、ISG15化部位を同定する新たな戦略が実施されました。Radoshevich博士らは近年、ISGylation部位を特定するための新たなアプローチを発表しました2。この方法は、野生型のサンプル (ISG15レベル正常)、ISG15欠損サンプル (ISG15欠損)、変異USP18 (ISG15レベル増大) の比較に基づいています。USP18は、 現在までに確認されているISG15に特異的な唯一の脱修飾プロテアーゼです。
Cell Signalingは、in vivoでCovid-19の研究をしているRadoshevich研究室をサポートできることを誇りに思っています。もちろん、この分野では、より多くの研究が必要です。新しい、ISG15により修飾されたタンパク質を発見することは困難です。古典的な免疫沈降に質量分析を組み合わせた解析では、細胞内に存在する遊離型ISG15ばかりが回収されてしまいます。PTMScan® Ubiquitin Remnant Motif (K-ε-GG) Kit #5562を使用すれば、他のタンパク質に結合したISG15だけに集中できます。
*インターフェロンにより刺激された遺伝子15 (ISG15) は、17kDAの分泌タンパク質をコードしており、ヒトではISG15 遺伝子によりエンコードされています。ISG15は、タイプIのインターフェロン (IFN) により誘導され、幾つかの役割を果たしており、細胞外サイトカインおよび細胞内タンパク質修飾剤の両方として作用します。ISG15は、そのC末端のLRLRGGモチーフで、新たに合成されたタンパク質のリジン残基に共有結合しています。ISGylationと呼ばれるこのプロセスは、一連の共役酵素により触媒されます。