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TR-FRETとは?洗浄が不要で感度の高い創薬用のハイスループットアッセイ

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創薬に携わる研究者は、失敗が許されない厳しいタイムラインの中で、大規模で高品質なデータを常に提供しなければならないプレッシャーにさらされています。そのため、ハイスループットスクリーニングやヒットトゥリード、リード化合物の最適化のすべてのステップにおいて、384ウェルまたは1536ウェルのプレートに適合する感度が高い確実なアッセイが求められます。

TR‑FRET (Time‑Resolved Fluorescence (TRF) Förster Resonance Energy Transfer) アッセイは、感度が高くてバックグラウンドノイズが極めて低く、洗浄が不要であり、混合して測定するだけの高い利便性を備えています。さらに、迅速な結果の取得 (1-2時間) や、インプット量が少ないサンプルの解析 (1枚の384ウェルフォーマットあたり約20 µL) を可能にする、創薬に不可欠なソリューションです。幅広いダイナミックレンジと自動化システムに対応したハイスループットスクリーニングにおいて信頼できる性能を示すTR-FRETは、データの品質を落とすことなくアッセイの規模を拡大できる切る強力な手法です。

CSTロゴマーク ブログ 顔写真Steven Mullenbrock, PhD
モレキュラーアッセイグループ、プリンシパルサイエンティスト
「一度信頼できるTR-FRETアッセイを確立してしまえば、あとは驚くほど簡単に実施できます。ただし、成功の真の鍵は、アッセイ開発の基盤となる、高品質な抗体ペアと標識抗体の柔軟なツールボックスを用意しておくことにあります。」 

本ブログ記事では、TR-FRETとは何かについてやその原理、ユーロピウムベースのTR-FRETアッセイが自動化されたハイスループットな創薬アッセイに最適な理由について解説します。

TR-FRETとは?その基本と原理

TR-FRETは、時間分解測定を可能にする長寿命の蛍光色素の強みとFRETの原理を組み合わせた技術です。FRETは、図1に示すように、励起されたドナーの蛍光色素が近接 (10-100 Å) したアクセプター蛍光色素にエネルギーを移行するプロセスを指します。2つの分子が極めて近接している場合にのみ生じる現象であるため、FRETは、同一タンパク質上の2つのエピトープの検出や受容体とリガンドの結合、標的タンパク質分解 (TPD) における標的-E3リガーゼ複合体などのタンパク質発現量の変動やタンパク質間相互作用、薬物とタンパク質の相互作用を正確に捉えることができます。

ユーロピウムと赤色アクセプターベースのTR-FRETアッセイにおける励起と蛍光の概要図。図1. ユーロピウム/赤色アクセプターを用いたTR-FRETアッセイにおける励起および発光の模式図を示しています。分子間相互作用が生じてFRETが起こると、ドナーからは約620 nm、アクセプターからは約665 nmの蛍光が放出されます。相互作用が起こらない場合は、ドナーの約620 nmの発光のみが検出されます。

TR-FRETと従来のFRETは、使用するドナーの種類とシグナルの測定方法が異なります:

  • ドナーには、従来の有機蛍光色素ではなく、一般的にユーロピウム (EuまたはEu3+) またはテルビウム (Tb) などのランタノイドといった長寿命の蛍光色素が用いられます。
  • ランタノイドドナーが放出する蛍光はミリ秒単位で持続するため、TR-FRET対応のプレートリーダーは、励起後にごく短時間のディレイ時間 (マイクロ秒) を設定できるようになっています。これにより、長寿命の目的シグナルのみを正確に測定できます。

時間分解測定法では、サンプルの自家蛍光による干渉や偶発光によるアクセプターの直接励起などの影響をより受けやすい短寿命の蛍光色素ではなく、長寿命のランタノイドおよびFRETに由来するアクセプターの発光を選択的に検出します。タイムゲートTR-FRET検出中に発生する事象を示す概要図グラフ

図2. 時間分解TR-FRETによる検出の流れをグラフで示しています。励起パルスの後にディレイ時間を設けて、バックグラウンド蛍光が減衰するのを待ちます。長寿命のドナーの発光とTR-FRET相互作用によるアクセプターの発光をあらかじめ設定された時間枠で測定することにより、シグナル対バックグラウンド比を向上させます。

 

Eu³⁺とTb³⁺のようなランタノイドイオンもまた、大きなストークスシフト (最大の励起波長と発光波長の差) を示すため、プレートリーダーでの測定時にドナーとアクセプターのシグナルを明確に分離できます。この大きなストークスシフトと時間分解測定法の相乗効果により、シグナル対バックグラウンド比 (S/B比) が劇的に向上し、均一系 (混合するだけ) の洗浄が不要なワークフローで複雑な生体サンプルを確実に測定できます。

「一度信頼できるTR-FRETアッセイを確立してしまえば、あとは驚くほど簡単に実施できます。」と、Steven Mullenbrock博士は説明します。「ただし、成功の真の鍵は、アッセイ開発の基盤となる高品質なマッチド抗体ペアと標識抗体の柔軟なツールボックスを用意しておくことにあります。」 

ドナー:ユーロピウムと他のランタノイドがTR-FRETを強化する理由

TR-FRETにおけるドナー分子は、一般的にランタノイドが標識された抗体やペプチド、タンパク質です。ランタノイド原子は、励起後の発光は長寿命ですが、エネルギーを効率よく吸収し、それをアクセプター蛍光色素へと移動させる能力に欠けています。そのため、ランタノイドは、一般的にクリプテートやキレートにより形成される「集光性ケージ」の中に組み込まれています。この構造がアンテナとして機能することで、励起および発光の効率が大幅に向上します。

クリプテート標識抗体は、広範なpHやアッセイ条件下においてキレート標識抗体よりも安定性が高く、金属イオンの解離が起きにくいことが知られています。この特性により、過酷なスクリーニング環境においても優れた性能を発揮できます1-4

「この安定性こそが、弊社のTR-FRETツールボックスがEu³⁺クリプテートベースのドナーに集中している理由です。弊社は、TR-FRETで検証されたEu³クリプテート標識抗体のカタログ製品を多数提供しています。」と、Mullenbrock博士は述べます。「もしもカタログ製品にない他の標識抗体が必要であれば、弊社の広範な製品ラインナップを基にEu3+キレート標識抗体、またはEu³⁺クリプテート標識抗体を作製できます。」

Eu³⁺クリプテート標識抗体は、320-340 nmのランプまたはレーザーで励起でき、615-620 nm付近に比較的シャープな発光スペクトルを示します。これは、図3に示すように、一般的なレッドシフト型アクセプター色素との併用に適しています。

図3. trFluorTMユーロピウムクリプテート励起 (点線) と発光 (実線) のスペクトルを示す蛍光スペクトルビューアー画像を示しています。

ユーロピウム標識

CSTが提供するユーロピウムクリプテート標識抗体のカタログ製品リストを探索してください。すべて、TR-FRETでの使用が試験されています。カタログにないEu3+標識抗体またはキレート標識抗体が必要な場合は、弊社のカスタム標識サービスをご活用ください。

 

アクセプター:適切なレッドシフトパートナーの選択

TR-FRETにおける発光アクセプター分子は、一般的に用いられている蛍光色素であり、ドナーの発光スペクトルとアクセプターの励起スペクトルの重複を考慮して選定され、ドナーではない方の抗体やペプチド、タンパク質に標識されます。ドナーとアクセプターが近接すると、ドナーの放出する発光エネルギーがアクセプターを励起し、その蛍光色素からより長波長のシグナルが放出されます。 

Eu³⁺標識ドナーを用いる場合は、アクセプターの色素はEu³⁺の発光ピーク (約620nm) 付近に励起帯を持ち、さらにドナーの発光から明確に分離できるレッドシフト特性を持つ必要があります。実際に、Eu³⁺ベースのTR‑FRETアッセイでは、Alexa Fluor® 647またはAPC (Allophycocyanin) などの赤色色素が用いられることが多々あります。

AlexaFlour® 647とAPCの標識抗体

アッセイ開発やスクリーニングでEu³⁺標識抗体と組み合わせることが可能な、Alexa Fluor® 647標識抗体およびAPC (Allophycocyanin) 標識抗体の製品ラインナップをご覧ください。これらの蛍光色素は、弊社のカスタム標識サービスを利用してお客様がお持ちの抗体にカスタム標識することもできます。

 

まとめ:TR-FRETアッセイはどのように機能するか

アッセイのタイプを問わず、TR-FRETの測定原理は共通しています。Eu³⁺クリプテート標識を標識したドナーと、蛍光色素を標識したアクセプターを混合します。ドナーを励起すると、両分子が極めて近接している場合にのみアクセプターへとエネルギーが移動します。Eu³⁺クリプテートを励起し、一定のディレイ時間の経過後にドナーとアクセプターの発光を同時に測定するには、TR-FRET対応のプレートリーダーが必要です。最終的に、ウェル間のばらつきや微量な液量の誤差を補正したシグナル比 (アクセプター/ドナー) が得られます。

すべての反応が溶液中で進行するため、TR-FRETは文字通り完全に均一系 (混合するだけ) のアッセイです。試薬とサンプルを混合し、インキュベートして測定するだけで完結し、未結合の成分を取り除くための洗浄を行う必要はありません。この均一な性質こそが、TR-FRETがハイスループットスかつ自動化に対応したワークフローに極めて適している最大の理由です。

 

参考文献
  1. Degorce F, Card A, Soh S, Trinquet E, Knapik GP, Xie B. HTRF: A technology tailored for drug discovery - a review of theoretical aspects and recent applications. Curr Chem Genomics. 2009;3:22-32. Published 2009 May 28. doi:10.2174/1875397300903010022

  2. Mathis G. Rare earth cryptates and homogeneous fluoroimmunoassays with human sera. Clin Chem. 1993;39(9):1953-1959.

  3. Maurel D, Comps-Agrar L, Brock C, et al. Cell-surface protein-protein interaction analysis with time-resolved FRET and snap-tag technologies: application to GPCR oligomerization. Nat Methods. 2008;5(6):561-567. doi:10.1038/nmeth.1213

  4. Nørskov-Lauritsen L, Thomsen AR, Bräuner-Osborne H. G protein-coupled receptor signaling analysis using homogenous time-resolved Förster resonance energy transfer (HTRF®) technology. Int J Mol Sci. 2014;15(2):2554-2572. Published 2014 Feb 13. doi:10.3390/ijms15022554

Alexa Fluorは、Life Technologies Corporationの登録商標です。 26-DDC-70501 
Jean Loebelenz
Jean Loebelenz
Jean Loebelenzは、CSTのこコンジュゲーション部門に属するアソシエートサイエンティストであり、高性能なアッセイや高度な研究アプリケーションをサポートする標識抗体の開発に携わっています。

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