CSTブログ

Cell Signaling Technology (CST) の公式ブログでは、実験台に向かう時間に期待すること、ヒント、コツ、情報などを紹介しています。

ユビキチンを最大活用:標的タンパク質分解の原理

詳細を読む
投稿一覧

ユビキチンは、小さな分子ですが、ほぼすべての細胞シグナル伝達経路で機能する非常に強力なタンパク質であり、重要な細胞プロセスの制御に不可欠です。1つ、または複数のユビキチンタンパク質の付加 (ユビキチン化) は、標的タンパク質の分解を媒介するだけでなく、その活性や局在、相互作用を調節します。ユビキチンのこの能力は、タンパク質の品質管理やシグナル伝達、標的タンパク質分解 (TPD) などの創薬戦略の核となります。

ユビキチン化のシグナル伝達がどのように制御されているかの理解は、より効果の高い薬剤の開発や、これまで創薬不可能とされてきた標的の分解を可能にするTPD創薬を促進する上で非常に重要です。 

ユビキチン化の経路:どのようにしてタンパク質に分解のタグをつけるのか

ユビキチン化は、3ステップの酵素的プロセスにより活性化されます:

  • ユビキチンの活性化: まず、ユビキチンがE1酵素により活性化されて、E1酵素との間にチオエステル結合を形成します。

  • ユビキチンの受け渡し: 次に、活性化されたユビキチンは、E2結合酵素 (E2) に受け渡されます。

  • ユビキチンの付加:最後に、ユビキチンは、E3ユビキチンリガーゼを介してE2酵素から特定の基質に受け渡されます。

ユビキチン分子がどのように標的タンパク質に結合しているか (連結型や分岐の種類など) は、リン酸化などの翻訳後修飾 (PTM) などと同様に、ユビキチンの生物学的機能や基質タンパク質の運命に非常に大きな影響を及ぼします。タンパク質にユビキチンが付加される際は、モノユビキチン化またはポリユビキチン化のどちらも生じる可能性があります。ポリユビキチン鎖は、特定のリジン残基を介して形成されており、中でもK48連結型およびK63連結型が最も広く研究されています。また、直鎖状ユビキチン鎖形成複合体 (LUBAC) を介した頭尾結合により形成される場合もあります。

  • K48連結型ポリユビキチン化:プロテアソームにより認識され、通常はタンパク質分解を誘導します。
  • K63連結型および直線状ユビキチン化:エンドサイトーシス、DNA損傷制御、免疫応答に関連するタンパク質足場形成およびシグナル伝達経路を調節していることが多々あります。

K48やK63だけでなく、ユビキチンは他のリジン残基 (例:K11、K29、K33) にも鎖や混合鎖を形成することができ、これらのシグナルが細胞機能を多様に変化させます。 

連結パターンの違いは、異なる生物学的な結果 (例:分解とシグナル伝達の違い) を誘導するため、連結特異的抗体は、基質におけるユビキチン化の機能を推測するのに役立ちます。これらの連結特異的抗体は、特定の実験においてTUBEs (Tandem‑Repeated Ubiquitin‑Binding Entities) 試薬と組み合わせることにより、ポリユビキチン化基質の選択的濃縮や連結型を区別した検出の両方を可能にします。

連結特異的ポリユビキチン抗体とPan‑Branch TUBEs

ウェスタンブロットまたは他の免疫アッセイを用いた特定の連結型の検出に適した、連結特異的ユビキチン抗体を提供しています:

標的の存在量の少ないサンプルまたは複雑な鎖をもつサンプルを検出する際は、分子トラップとして機能するTUBEsをもちいて、遊離ユビキチンを排除しつつ、ポリユビキチン化されたタンパク質を選択的に濃縮できます。これらは、連結特異的抗体と組み合わせることが可能であり、ビーズベースのプルダウンやプレートベースのELISA様フォーマット、またはホモジニアスTR-FRETアッセイなどの手法に用いることにより、LC-MSを用いることなくユビキチン化を定量できます。

 

リン酸化を介したユビキチンの制御

ユビキチン自体も、リン酸化によって制御されます。これが、ユビキチン化の制御機構をより複雑にします。最もよく深く特性解析されているユビキチンSer65のリン酸化は、キナーゼPINK1に媒介されます。このリン酸化は、ミトコンドリア損傷時に、ミトコンドリアに局在するユビキチン化タンパク質をマイトファジーによる除去対象として認識させるための重要な役割を担います。このプロセスは、健全なミトコンドリアの維持に不可欠であり、機能不全になるとパーキンソン病などの疾患が引き起こされます。

未処理、またはカルボニルシアニド-3-クロロフェニルヒドラゾンで処理したPC-3細胞の抽出物を、リン酸化ユビキチン(Ser65) (E2J6T)ラビットモノクローナル抗体 #62802およびPINK1 (D8G3) Rabbit mAb #6946を用いてウェスタンブロット解析しました

 

Pan-branch Ubiquitin TUBE-UBQLN1 (trFluor™ Europium Cryptate Conjugate #75130 and custom conjugated Phospho-Ubiquitin (Ser65) (E2J6T) ラビットモノクローナル抗体 #62802 (Alexa Fluor® 647 Conjugate) を用い、バリノマイシンで処理した、または未処理の293ライセートのタイトレーションとともにTR-FRETを行いました。
未処理、またはCarbonyl cyanide 3-chlorophenylhydrazoneで処理したPC-3細胞の抽出物を、Phospho-Ubiquitin (Ser65) (E2J6T) Rabbit Monoclonal Antibody #62802 (上)、PINK1 (D8G3) Rabbit Monoclonal Antibody #6946 (中)、またはGAPDH (D16H11) Rabbit Monoclonal Antibody #5174 (下) を用いてウェスタンブロットで解析しました。




Valinomycinで処理した、または未処理の293細胞の段階希釈したライセートを、Pan-branch Ubiquitin TUBE-UBQLN1 (trFluor™ Europium Cryptate Conjugate #75130と、カスタム標識Phospho-Ubiquitin (Ser65) (E2J6T) Rabbit Monoclonal Antibody #62802 (Alexa Fluor® 647 Conjugate) を用いてTR-FRETを行いました。ライセートのタンパク質濃度と、TR-FRET比率間の相関を示しています。TR-FRETには、384ウェルホワイトプレートを使用し、BMG LABTECH社のPHERAstarレーザー (励起337 nm) で測定しました。

ユビキチンSer65のリン酸化は、PINK1–Parkin経路の活性化と密接につながっているため、マイトファジーマーカーとして広く使用されています。CSTのPhospho-Ubiquitin (Ser65) 試薬などの抗体は、ウェスタンブロットまたはELISA+アッセイに使用することができ、細胞モデルでPINK1‑Park経路に依存するマイトファジーの追跡や、ミトコンドリアの品質管理に関する指標の取得を可能にします。これらの試薬は、より複雑なプロテオミクスワークフローを必要とすることなく、重要なシグナル伝達イベントを正確にモニタリングできます。

ユビキチンSer65リン酸化の検出

リン酸化特異的抗体と、Ser65リン酸化ユビキチンを標的とするTUBEsにより、この重要なシグナル伝達イベントを正確にモニタリングできます。

以下の試薬は、ミトコンドリア損傷の度合いやPINK1の活性、Parkinを介したマイトファジーを、複雑なプロテオミクスワークフローを用いることなく、細胞モデルでの追跡を可能にします。

 

標的タンパク質分解:生物学を精密医療へ応用

ユビキチンによる分解は、現在では特定のタンパク質を分解対象とする治療法 (TPD) の開発に活用されています。この最新技術では、化学的に誘導された近接性 (CIP) を活用し、E3ユビキチンリガーゼを疾患関連標的タンパク質に結合させることでこれらの分解を誘導します。主な2つの戦略を紹介します:

  • PROTACs (proteolysis-targeting chimeras): PROTACsは、ドメインに2種類の化合物が結合している、2つの機能を持つ分子です。一方にPOI (Protein of interest) が、他方にE3ユビキチンリガーゼが結合しています。リガーゼと標的を近接させることにより、PROTACは細胞自身のユビキチン機構がPOIにプロテアソーム分解のためのタグを付けるように誘導します。

  • 分子糊型分解誘導化合物: 分子糊は、E3ユビキチンリガーゼとPOI (標的タンパク質)間の相互作用を安定化させる低分子を利用してユビキチン化と分解を誘導します。

E3リガーゼ、分子糊分解誘導化合物またはPROTAC、ユビキチン、プロテアソーム、分解した標的タンパク質を示す標的タンパク質分解図。

分子糊分解誘導化合物またはPROTACは、プロテアソームに認識および分解されるためのタグとして標的タンパク質をユビキチン化します

2026年初頭の現在、市販が承認されたこの手法を用いた薬物はありませんが、この分野は急速に進化しているため、有効性を高めた薬剤の開発や、創薬不可能と考えられていた弱い結合ポケットを持つ潜在的な薬剤標的の創出が期待されています。例えば、これまでは創薬不可能であったキナーゼ変異 (例:KRAS) や転写因子 (例:STAT3)、タンパク質のスキャフォールドや複合体などが、TPDにより薬理学的に創薬可能になりつつあります。前立腺がん治療のためのアンドロゲン受容体の分解誘導化合物などの、現在試験されている治療標的候補は、疾患関連タンパク質を単に阻害するのではなく排除することで、TPDが従来の低分子阻害剤を補完する新たなアプローチであることを実証しています。

創薬開発の全期間にわたる近接誘導型TPDに関する極めて重要な課題を解決するための、各プラットフォームに適合する、アプリケーションごとに検証済みの一連のツールが登場しています。直面している課題に応じて、ユビキチン化をプロファイリングするための様々なアッセイを組み合わせて利用することが可能です。これには、連結特異的交代またはリン酸化特異的抗体、TUBEs法による濃縮、プロテオームワイドK-ε-GG LC-MSワークフローなどが含まれ、それぞれがデータの質や網羅性、スループットにおいて異なる利点を提供します。 

K-ε-GGベースの濃縮法について注意すべき点は、トリプシン消化後にリジン残基に残るジグリシン残基を検出するため、部位特異的なユビキチン化を感度良くカバーできる一方で、モノユビキチン化とポリユビキチン化を区別できず、ユビキチン鎖の連結様式を同定することもできないことです。連結特異的抗体を用いればこれらの区別は可能ですが、標準的なユビキチン抗体で存在量が低い、あるいは一過性にユビキチン化された分子を効率的にプルダウンできない場合があります。UBQLN1やRAD23Aなどのユビキチン受容体に由来するTUBEsは、遊離ユビキチンを排除しつつ、ポリユビキチン化タンパク質を選択的に濃縮する『分子トラップ』として機能します。これにより、下流解析における回収率と特異性の両方を向上させることができます。

TPDのワークフロー (標的のユビキチン化のモニタリングや経路の活性化、オンターゲット/オフターゲット効果の確認など) にこれらのツールをどのように活用すべきかについては、アッセイの選択方法やTUBEを用いた検出法を解説した関連ブログ記事をご覧ください。

TPDに関するその他のリソース


参考文献
25-TPD-79850
Gary Kasof, PhD
Gary Kasof, PhD
Gary Kasof博士は、細胞生物学の製品デザイン&戦略部門のダイレクターであり、20年以上CSTで勤務しました。博士は、細胞死とオートファジーを中心に、複数の研究分野で1,000種類近くもの抗体の販売に貢献してきました。CST入社前は、1995年にコロンビア大学で博士課程を修め、ラトガース大学とアストラゼネカ社での勤務経験があります。

最近の投稿

Will PTMScan® Antibodies Work in My Species or Model Organism?

科学者から、このような質問を受けることが多々あります。“Which species do your PTMScan antibodies work in?”
Barry Zee 2026 年 5月 06 日

アッセイ開発を停滞させないマッチド抗体の選び方

Since the invention of the enzyme‑linked immunosorbent assay (ELISA) more than 50 years ago, the original...
Alexandra Foley Apr 29, 2026

試薬の再考:グリーンケミストリーが推進するCSTにおけるTriton X-100の置換

科学の厳密性を追求する際に、サステナビリティをおろそかにしてはいけません。環境への配慮が製品選びの...
Samantha Webster 2026年4月22日
Powered by Translations.com GlobalLink Web SoftwarePowered by GlobalLink Web