神経変性疾患領域の研究者は、信頼できるバイオマーカーを切実に必要としています。早期発見および早期診断方法の開発にしても、新たな治療法の有効性のモニタリングにしても、包括的な研究ツールが大きな発見へと導いてくれます。このような背景から、今、リキッドバイオプシー (液体生検) が注目されています。この生物流体を解析する手法は、元々はがんの検出用として開発されましたが、神経変性研究を劇的に変化させており、迅速かつ定量的な定量を可能にし、基礎研究の成果の臨床への移行を容易にします。
本ブログ記事では、アルツハイマー病 (AD) やパーキンソン病 (PD)、筋萎縮性側索硬化症 (ALS) などの神経変性状態における重要な生体液バイオマーカーをいくつか紹介します。これらにより、神経細胞の健康と機能不全に関する知見が得られます。
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アルツハイマー病は、折り畳み構造に異常があるタンパク質の蓄積を特徴とし、神経の機能不全や認知機能の低下を引き起こします。認知症の中で最も一般的な病態であるにもかかわらず、その正確な原因はまだ明らかになっていません。しかし、この疾患は、Amyloid β (Aβ) 斑と神経原線維変化 (NFT) といった2つの主な特徴を示すことが分かっています1 。
APPは、神経細胞の発生や伸長、生存、修復に不可欠な膜貫通型タンパク質です。APPがタンパク質分解により切断されると、Amyloid β (β-アミロイドとも呼ばれる) が生じます。
野生型 (左) またはアルツハイマー病のアミロイドモデルマウス (右) の凍結固定海馬組織を、APP (E4H1U) Rabbit mAb #76600 (緑)、TMEM119 (E4B9S) Mouse mAb #98778 (赤)、ProLong® Gold Antifade Reagent with DAPI #8961 (青) を用いて免疫蛍光染色して解析しました。
APPのリン酸化は、APPのプロセシングを変化させて、その機能と分解の両方に影響を及ぼします。APPにはいくつかのリン酸化部位があり、それぞれが異なる機能を担います。例えば、Thr668のリン酸化は、細胞周期の調節と神経分化に関連し、Ser655はタンパク質の分解の増加と凝集体の形成に関連しています2。
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APPとリン酸化APP用リコンビナントモノクローナル抗体: |
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正常な状態では、Amyloid β (Aβ) は神経細胞の健康と可塑性をサポートしますが、アルツハイマー病では、折り畳み構造に異常があるAβが凝集してプラーク (斑) を形成し、ミトコンドリアの機能不全、カルシウムの恒常性の破綻、最終的にはアポトーシスを誘導します。
Ready-to-use ELISAキットを用いてヒトCSFにおけるAβ42/40比を測定しました。PathScan® RP β-Amyloid (1-42) Sandwich ELISA Kit #27029、FastScan™ β-Amyloid (1-40) ELISA Kit #20882を使用しています。
Aβは様々なペプチド断片で構成されていますが、最も研究されているのはAβ42ペプチドとAβ40ペプチドです。どちらの断片も、APPのプロセシングから生じます。Aβ42アイソフォームは、Aβ40よりも凝集しやすく、Aβ42/40比はADの早期発見の潜在的なツールとして考えられています。Aβ42/40比が低いほど、脳内のアミロイドによる負荷が高く、AD発症のリスクが高くなります。
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CSTが提供する、免疫アッセイに適合するすべてのβ-Amyloidマッチド抗体ペアをご覧ください。 |
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Tauタンパク質は、微小管を安定化させますが、アルツハイマー病では高度にリン酸化されたTauは微小管から剥がれ落ち、神経変性に寄与するNFTを形成します。これらの変性したタンパク質は、生体液中で検出可能であるため、重要なバイオマーカーとなっています。
Tauは複数のリン酸化部位を持ちますが、常染色体顕性遺伝のAD患者ではスレオニン217のリン酸化 (p-tau217) が上昇することから、この部位のリン酸化は信頼できるバイオマーカーとなる可能性があります。また、P-Tau181などの部位も、バイオマーカーの候補として活発に研究されています。
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Tauおよびリン酸化Tauのマッチド抗体ペア: • Phospho-Tau (Thr217) Matched Antibody Pair II #51525 |
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パーキンソン病は、中脳黒質のドーパミン作動性神経細胞が徐々に失われることにより、運動機能やと協調性が緩やかに低下していく疾患です。その最大の原因の1つが、レビー小体です。これは、折り畳み構造に異常があるタンパク質が凝集したものであり、神経細胞内に蓄積して正常な機能を阻害し、最終的には細胞死を引き起こします。
通常、α-Synucleinはシナプス前小胞輸送の制御に役立っていますが、折り畳み構造に異常が生じるとレビー小体に凝集し、ミトコンドリアとシナプスの機能を阻害します。生体液中のβ-Synucleinとα-Synucleinの両方を測定することにより、パーキンソン病のバイオマーカーの発見と精度を向上させることができます。実際に、血液や髄液におけるα- Synucleinの検出は診断に用いられています。
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α-Synucleinおよびリン酸化α-Synucleinの関連製品: • Phospho-α-Synuclein (Ser129) (D1R1R) Rabbit mAb (BSA and Azide Free) #87281 |
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Glucocerebrosidase (GCase/GBA)
GBAは、リソソームの重要な構成要素です。GBAの欠損は、折り畳み構造に異常が生じたα-Synucleinなどのタンパク質のリソソームによる分解を阻害し、これらのタンパク質の蓄積と神経細胞ストレスにつながります。GBA遺伝子の変異は、PD発症に最も関連する遺伝的危険因子の1つとして知られています3。現在、遺伝子置換療法が新たな治療法として検討されており、すでに1件の臨床試験が進行中です (NCT04127578)4。
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GCase/GBA関連製品: |
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DDCは、ピリドキサール5リン酸 (PLP) 依存性の酵素であり、L-DOPAからドーパミンへ、L-5HTPからセロトニンへの脱炭酸反応を促進します。現在、パーキンソン病の有望な生体液バイオマーカーとして期待されています。
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DDC関連製品: |
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ALSでは、運動神経細胞の喪失が進行して筋力が低下し、最終的には麻痺に至ります。ALS患者の中には、前頭葉と側頭葉にも損傷が生じて認知機能障害を伴う場合があります。この障害は、前頭側頭型認知症 (FTD) として知られています。興味深いことに、ALSとFTDは重要なバイオマーカーを共有しているため、これらのバイオマーカーがこの2つの疾患に共通する病態の理解につながる可能性があります。
TDP-43は通常、遺伝子発現の制御や代謝に関わる転写抑制因子として機能します。しかし、ALSやFTDでは、遺伝子変異によりTDP-43が細胞質に移行して凝集し、その結果、ミトコンドリアと小胞体の機能が阻害されます5,6。
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TDP-43用の免疫アッセイに適合する製品: • Total TDP43 Matched Antibody Pair #93747 |
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ハンチントン病は、運動機能と認知機能を損なう進行性の遺伝性疾患です。Huntingtin遺伝子の最初のエクソンにあるCAGリピートが増加することにより、折り畳みに異常が生じた有害なHuntingtinタンパク質が誘導されます。大脳基底核と大脳皮質が大きな影響を受け、最も変性するのはGABA作動性中型有棘細胞です。
Huntingtinタンパク質は、ミトコンドリアタンパク質などの100種類以上の他のタンパク質と相互作用します。マイトファジーに関連していることから、この遺伝子の変異はミトコンドリアの融合と分裂を妨げ、細胞死を引き起こすと考えられています7。
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Huntingtinのリコンビナントモノクローナル抗体: • Huntingtin (D7F7) XP® Rabbit mAb #5656 • Huntingtin (D7F7) XP® Rabbit mAb (BSA and Azide Free) #31873 |
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神経炎症は、中枢神経系 (CNS) におけるミクログリアとアストロサイトによる免疫応答の活性化により生じます。神経炎症は通常、CNSへの損傷、感染症、毒性物質への曝露、あるいは自己免疫疾患などが原因で引き起こされます。一過性の神経炎症のシグナルは、発達過程や組織損傷後の修復過程で保護的に働きますが、慢性的な神経炎症は神経変性疾患の進行に関与することが分かっています。
神経炎症では、ミクログリアが過剰に活性化してIL-6、IL-8、TNFαといった炎症性サイトカインを過剰に放出します。これらのサイトカインは、血漿中で測定可能であるため、神経炎症のバイオマーカーとして期待されています8。
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IL-6、IL-8、TNFαのリコンビナントモノクローナル抗体: • IL-6 (D5W4V) XP® Rabbit mAb (BSA and Azide Free) #65145 |
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TREM2は、活性化したミクログリアが発現する膜タンパク質であり、抗炎症作用と組織の修復に関与しています。大脳基底核におけるTREM2の発現量と認知機能低下には相関が見られ、同様の関連性はアルツハイマー病患者でも確認されています9,10。
PathScan® RP TREM2 (Extracellular Amino-terminal Antigen) Sandwich ELISA Kit #90595を用いて、ヒトiPSC由来の野生型 (WT) ミクログリア細胞の培養液中に放出されたTREM2タンパク質を検出しました。TREM2ノックアウト (KO) ミクログリア細胞の培養液中では、TREM2は検出されませんでした。
神経炎症が起こると、TREM2は切断され、可溶性のTREM2が放出されます。この可溶性TREM2は、生体液中で検出できます。TREM2の細胞膜からの脱落は、細胞外のH157/S158部位で切断されることで生じ、N末端の遊離断片とC末端の膜結合断片が生成されます。アルツハイマー病モデルマウスの研究では、TREM2の欠損や機能不全が、ミクログリアの応答異常を引き起こし、その結果としてAβの蓄積を増加させる可能性が示されています。この結果は、アルツハイマー病の病理学的変化がみられるヒトの脳領域 (白質や海馬、新皮質など) におけるTREM2の分布と一致しており、その重要性を示唆しています。さらに、アミロイド斑の形成は、TREM2の発現を促し、ミクログリアによるアミロイドの貪食を促進することも明らかになっています。
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TREM2関連製品: • TREM2 (E4J7A) Rabbit mAb #55739 • TREM2 (E4F5G) Mouse mAb #29715 • PathScan® RP TREM2 (Extracellular Amino-terminal Antigen) Sandwich ELISA Kit #90595 |
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疾患特異的なマーカーだけでなく、神経細胞の健全性とシナプスの完全性をモニタリングすることも重要です。以下のマーカーを用いることにより、コントロールとして機能するだけでなく、疾患の進行と治療応答に関する知見も取得できます。
GAP43は、神経細胞の伸長やシナプスの健全性、そして神経可塑性のマーカーです。パーキンソン病患者では、黒質のドーパミン作動性神経細胞におけるGAP43の量が減少しており、これらの神経細胞では再生する能力を失いつつある可能性を示唆しています11 。
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GAP43のリコンビナントモノクローナル抗体: |
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Neurograninは、神経細胞の樹状突起に存在するCalmodulin結合タンパク質であり、長期増強に関与しています。脳脊髄液 (CSF) 中で検出可能であり、認知機能低下の早期バイオマーカーとしての可能性が研究で示唆されています12。
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Neurogranin関連製品: |
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神経変性疾患は、複雑な分子レベルの変化により生じるため、1つのバイオマーカーだけでなく複数のバイオマーカーに目を向けることが重要です。マッチド抗体ペアとELISAキットは、疾患の進行やタンパク質の折り畳み構造の異常、神経炎症、シナプスの機能不全といった病態のより完全な理解をサポートします。
CSTは、アッセイの質は開発に使用する抗体の質に依存することを理解しています。そのため、弊社はサンドイッチELISAを用いて、弊社が提供するすべてのマッチド抗体ペアの包括的な検証試験を実施しています。各抗体ペアは、プレートベースのELISAを用いて検証されているため、今日広く使用されている最新の免疫アッセイプラットフォーム技術の基礎となる機能アッセイにおいて確実に機能します。
以下の表を活用し、お客様の研究に役立つELISAキット、マッチド抗体ペア、検証済みの検出ツールを探索してください。
標的 |
製品 |
交差性 |
Ready-to-Use ELISAキット |
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α-Synuclein |
PathScan® Total α-Synuclein Sandwich ELISA Kit #54269 |
M, R |
Aβ42 |
H |
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Aβ40 |
H |
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LRRK2 |
H, M |
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TREM2 |
PathScan® RP TREM2 (Extracellular Amino-terminal Antigen) Sandwich ELISA Kit #90595 |
H |
マッチド抗体ペア |
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Aβ |
H |
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Aβ42 |
H |
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Aβ40 |
H |
|
Aβ43 |
H |
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α-Synuclein |
M, R |
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Tau (GT-38) |
H |
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リン酸化Tau (Thr181) |
H, M, R |
|
リン酸化Tau (Thr217) |
H, M, R |
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TDP-43 |
H, M |
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モノクローナル抗体 |
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APP |
H, M, R | |
Phospho-APP |
H, M, R | |
Phospho-α-Synuclein (Ser129) |
Phospho-α-Synuclein (Ser129) (D1R1R) Rabbit mAb (BSA and Azide Free) #87281 |
H, M, R |
GCase/GBA |
H, M, R |
|
DDC |
H, M, R |
|
Huntingtin |
• Huntingtin (D7F7) XP® Rabbit mAb #5656 • Huntingtin (D7F7) XP® Rabbit mAb (BSA and Azide Free) #31873 |
H, M, R |
IL-6 |
M |
|
TNF-α |
M |
|
TPD43 |
H, M, R |
|
TREM2 |
H, M |
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関連するSamplerキット |
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リソームマーカー |
H, M |