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m6A:細胞に秘められた遺伝子調節シグナル

筆者:Gina Lee, PhD | Sep 28, 2022

ご寄稿いただいたGina Lee博士は、カリフォルニア大学アーバイン校およびチャオファミリー総合がんセンターで、微生物学および分子遺伝学の助教を務めています。本ブログでは、カリフォルニア大学アーバイン校のGina Leeの研究室による最新の総説:m6A in the Signal Transduction Networkに関する知見をご紹介します

細胞は、正常な発達と機能を守るために高度な調節機構を築き上げてきました。詳細な研究により、細胞内イベントの調節が遺伝子の転写レベルで解明されつつありますが、RNAの化学修飾などの遺伝子調節については、未だ多くの謎が残されています。

N6-メチルアデノシン (m6A) は、真核生物で最も多く観察されるmRNA修飾です。3つの主要な構成因子 (ライターやリーダー、イレイサー) が連携して、mRNAのm6A修飾を調節します。METTL3-METTL14メチルトランスフェラーゼと、アダプタータンパク質であるWTAPで構成されるm6Aライター複合体は、合成中のmRNA転写産物に含まれるアデノシンのN6位をメチル化します。ヒストンのエピジェネティックな修飾と同様に、m6Aのメチル化は可逆的なプロセスであり、ALKBH5やFTOなどのm6Aイレイサータンパク質が、アデノシンからメチル基を除去します。m6Aのメチル化と脱メチル化は、細胞の状態や、幹細胞の分化または母性-胚性転移の間に生じる細胞外シグナルだけでなく、熱ショックや酸化ストレスによって動的に調節されます。

m6A修飾はどのような影響をもたらすのでしょうか?m6Aそのものは、電荷や大きな化学基を持たないため正常なmRNAの構造に顕著な影響を与えません。m6Aリーダーが、最終的にRNA代謝酵素の会合を惹起し、mRNAの運命を決定します。例えば、m6Aのリーダータンパク質であるYTHDF2は、CCR4-NOT脱アデニル化酵素複合体を動員し、m6A修飾されたmRNAの分解を誘導します。

m6A依存性のmRNAの分解は、細胞が特定の転写産物を短時間で除去する必要がある場合に、特に役立ちます。例えば、細胞分化の際には自己複製能を停止し分化因子の発現を開始するため、NANOGなどの多能性遺伝子の転写物を素早く分解する必要があります。では、どのようにして特定の転写産物にm6Aマークを付加し、分化の際にそれらを除去しているのでしょうか?その方法として、細胞が多能性遺伝子の転写を誘導するシグナル伝達経路を利用していることが判明しました。TGF-βシグナル伝達が活性化されると、SMAD2/3転写因子がリン酸化され、多能性遺伝子の発現が誘導されます。これまで、科学者たちは主にSMAD2/3依存性の転写に焦点を当てて研究していました。しかし、細胞は新しく合成された多能性遺伝子の転写産物にm6A修飾するために行うm6Aのライターの動員にも、リン酸化されたSMAD2/3を利用します。これにより、合成と同時に、分化の際に行われるmRNA分解の準備ができます。実に賢い仕組みだと思いませんか?

この、秘められたシグナルであるm6A依存性遺伝子調節プログラムを利用するその他のシグナル伝達経路の詳細は、カリフォルニア大学アーバイン校のGina Leeの研究室による最新の総説m6A in the Signal Transduction Networkをご覧ください。

また、Cell Signaling Technologyのウェブサイトに、RNA修飾やシグナル伝達による遺伝子調節のメカニズムの探索に役立つツールもご用意しています。

 

 

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