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神経変性疾患における神経炎症

筆者:Chris Sumner | Jun 23, 2021

神経炎症は中枢神経系 (CNS:脳と脊髄) における免疫応答の活性化であり、ミクログリアとアストロサイトによって引き起こされます。神経炎症は通常、CNSの損傷、感染、神経毒に応答して起こりますが、自己免疫の結果として引き起こされることもあります。一過性の神経炎症性シグナル伝達は、発生中や損傷後の組織修復において警護役を果たします。一方、慢性の神経炎症はアルツハイマー病、パーキンソン病、萎縮性側索硬化症、多発性硬化症などの神経変性疾患の進行に関与することが分かっています。神経変性に関与する病理的神経炎症は、主にCNSの常在免疫細胞であるミクログリアによって引き起こされます。

異常な折りたたみ構造をもつタンパク質の凝集は、多くの神経変性疾患にみられる特徴で、これが最終的に細胞死の原因となります。多くの場合、異常な折りたたみ構造を持つタンパク質は単純に本来の機能を失う訳ではなく、異常な機能を獲得するか、正常なタンパク質を阻害する機能 (ドミナントネガティブ効果) を獲得します。ミクログリアは異常な折りたたみ構造をもつタンパク質を感知して取り込み、これを除去する機能を持ちますが、神経変性疾患ではこのプロセスに異常が起こり、神経炎症の原因となります。

中枢神経系 (CNS) と免疫系の相互作用

アストロサイトとミクログリアはCNSで重要な免疫調節機能を果たします。特にミクログリアは環境変化の感知に重要な機能をもち、有害な刺激への応答、アポトーシスを起こしたニューロンや細胞小片の貪食を担います。また、ミクログリアはTリンパ球への抗原提示も担い、免疫系とCNSのクロストークを媒介する機能も果たします。神経炎症は可溶性因子によっても制御されており、ミクログリアのほかアストロサイトやニューロンも神経炎症を促進/抑制する可溶性因子を分泌します。

神経変性疾患におけるニューロン、アストロサイト、ミクログリアの役割

ニューロンは電気化学シグナルの処理に特化した細胞であり、CNSにおける活動電位の授受で中心的な役割を果たします。成熟したニューロンは、NSE (neuron-specific enolase) やMAP2 (microtubule-associated protein-2)、NeuN (neuron-specific nuclear protein) といったマーカータンパク質の発現を利用して特定することができます。神経炎症の度合いは、NeuNの発現低下をニューロンの欠落の指標とすることで判断することもできます。

関連リソース:Hallmarks of Neurodegeneration : 基礎となる生物学的プロセスの特定

アストロサイトやミクログリアといったグリア細胞は、免疫調節の役割をもち、アポトーシスを起こした細胞の除去を促進してシナプスの恒常性維持に寄与しています。

ミクログリアは脳に常在する免疫細胞であり、ionized calcium-binding adapter molecule-1 (IBA1)、integrin alpha M (ITGAM/CD11b)、CD68 (マウスではF4/80) を発現します。IBA1は神経炎症の環境下で発現が確認されており、ミクログリアを浸潤してきた単球と区別するのに利用することができます。

成熟したアストロサイトの特異的なマーカーとして、glial fibrillary acidic protein (GFAP) やS100βが利用されています。GFAPの発現の増加はアストロサイトの活性化を示唆しており、炎症反応の指標となります。

NeuN (D4G4O) XP® Rabbit mAb (緑) で染色したマウス海馬 (左)、大脳皮質 (中央)、小脳 (右) の共焦点免疫蛍光染色像。アクチンフィラメントをDyLight™ 554 Phalloidin #13054 (赤) で染色しました。DRAQ5® #4084を用いてDNAを染色し、青の疑似カラーで示しました。

CD11b/ITGAM (D6X1N) Rabbit mAb #49420を用いた、パラフィン包埋ヒト結腸がんの免疫組織化学解析。

神経変性におけるシグナル伝達

神経変性に関与する主要なパスウェイがいくつか見つかっており、これらの中には発生や加齢に関係したもの (エピジェネティクスやテロメア)、局所的な組織環境や血流に関係したもの (細胞接着や炎症)、細胞内機構によるもの (アポトーシスやミトコンドリアの機能障害) があります。

関連: インタラクティブなneudegenerationパスウェイの図

外傷や遺伝子異常が脳内の炎症シグナルの原因となります。これらによって常在免疫細胞 (アストロサイトやミクログリア) が活性化されると、TNFαIL-1βIL-6などのサイトカインを分泌し、炎症応答が引き起こされます。

triggering receptor expressed on myeloid cells 2 (TREM2) は、ミクログリアの活性化を制御する重要な分子です。TREM2はミクログリアの生存維持にも関与し、脳内の炎症反応の制御に大きな役割を果たします。健常時においてTREM2は、炎症性サイトカインのシグナル伝達を介し神経炎症を制御するなどして神経保護に寄与しています。炎症やアミロイドの貪食、プラークの封入、アポトーシスを起こした細胞の除去などにTREM2のシグナル伝達が関与することが分かっていますが、TREM2のどの機能が神経変性に最も深く関わっているかについてははっきりしていません。病態においては、TREM2の変異がADのリスクを上げることが分かっています。

インフラマソームは病原体関連分子パターン (PAMP) または危険関連分子パターン (DAMP) に晒されることで細胞質に形成されるマルチタンパク質複合体であり、自然免疫応答を引き起こします。この構造体は神経変性疾患に関与しており、特にNLRP3インフラマソームは、IL-1βとIL-18の活性化を介して神経炎症を誘導します。

TREM2陽性細胞 (THP-1、左) および陰性細胞 (HL-60、右) を、TREM2 (D8I4C) Rabbit mAb #91068 (緑) で染色した共焦点免疫蛍光染色像。アクチンフィラメントをDyLight™ 554 Phalloidin #13054 (赤) で染色しました。DRAQ5® #4084 を用いてDNAを染色し、青の疑似カラーで示しました。

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