リンパ腫は免疫系の主要な構成要素であるリンパ系のがんです。主にTリンパ球 (T細胞) とBリンパ球 (B細胞) などのリンパ球から発生します。リンパ腫には数十種類の病型があり、さらにホジキンリンパ腫と非ホジキンリンパ腫 (NHL) に大別されます。リンパ腫の種類によって、治療法や患者の予後が異なります1-2。
B細胞リンパ腫は、米国における非ホジキンリンパ腫の約85%を占めています。B細胞リンパ腫の3例に1例が、B細胞性NHLの中でもより悪性度の高い、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫 (DLBCL) に分類されます1-3 。
現在、DLBCLの標準的な治療にはモノクローナル抗体であるRituximabと、化学療法剤であるCyclophosphamideやDoxorubicin、Vincristine、ステロイドであるPrednisoneを組み合わせたR-CHOP療法が用いられています。この治療法により多くの患者でDLBCLを排除することができますが、患者のうち40%はR-CHOP療法に対する抵抗性を示し、再発又は難治性DLBCLとなります。この場合、患者の予後は不良であり、全生存期間の中央値は6.3ヶ月となります。したがって、再発又は難治性DLBCL患者に対する早期治療、または再発時に有効な治療法の開発が喫緊の課題となっています4 。
DLBCLの大半は恒常的なB細胞受容体シグナル伝達の活性化を必要としているため、このシグナル伝達経路の構成因子を標的とした阻害剤の開発が期待されています。さらに、潜在的な治療標的として、Bcl-2やIRAK4、PI3K、NF-kB経路に含まれる分子などの調節不全が調べられています4 。
Btk阻害剤であるIbrutinibなどは当初、臨床試験において難治性のDLBCLに対し優れた治療効果を示しましたが、Btkキナーゼドメインの変異に起因すると思われる抵抗性を獲得することがあります。そのため、現在はIbrutinibとBcl-2阻害剤のVenetoclaxやPI3K阻害剤のBuparlisibなどの他の標的治療薬との併用療法が検討されています。また、Btk阻害剤はPembrolizumabのような免疫療法との併用も検討されています4。しかしながら、Btkキナーゼ阻害剤は、Btkキナーゼ非依存性のDLBCLの進行や抵抗性の獲得に対しては効果がありません。
Btkの活性の阻害ではなく、Btkを特異的に分解するPROTAC (タンパク質分解誘導キメラ : PROteolysis TArgeting Chimera) を使う方法もあります。これは、キナーゼ依存性およびキナーゼ非依存性のBtkの活性の両方に効果があり、前臨床試験においてIbrutinibよりも良好な結果を示しています。また、IRAK4やBCL6といったDLBCLの他の治療標的に対しても、タンパク質分解を誘導する技術が研究されています5。
多くのB細胞リンパ腫ではCD19やCD20、CD22などのB細胞マーカーが恒常的に発現しているため、CAR-T細胞療法の標的とすることができます。現在、再発または難治性DLBCLの治療法としてCD19特異的CAR-T療法が承認されています。また、CD19特異的CAR-T療法後にCD19抗原の変異または発現低下が見られるDLBCL患者への追加療法として、他の抗原も検討されています。CD20、CD22、CD30、CD37、CD38などがCAR-T療法の標的となるかもしれません。最後に、複数の抗原を標的にする二重特異性CAR-T細胞が新たな治療法として期待されています。CD19とCD20に対して二重特異性を持つCAR-T細胞は、両方の腫瘍抗原を認識して結合するように合成されているため、腫瘍免疫回避を防ぐことができる二重の機能を有する治療法となります6-7。
パラフィン包埋ヒトB細胞リンパ腫組織を、Btk (D3H5) Rabbit mAb #8547を用いてIHCで解析しました。
参考文献