マラウイ科学技術大学 (MUST) の研究者は、常に緊急事態に備え、いつでも行動できるようにしています。アフリカのサハラ砂漠以南に位置するマラウイでは、近年ハリケーンやサイクロン、熱帯低気圧の襲来の頻度が増したことが主な原因となり、コレラの大流行が何度も発生しています。この国は内陸にありますが、嵐が襲来する際に、MUSTは総力を挙げて対応します。発展途上国における清潔な飲み水は脆弱な資源であり、気候変動がもたらす悪天候の増加により、汚染されていない水の確保は、より喫緊の課題となっています。
MUSTの上級講師で生物科学部部長であるGama Bandawe博士も、緊急事態には慣れています。2019年、熱帯性サイクロン「イダイ」がコレラの大流行を引き起こし、終息まで1年以上かかりました。2022年3月、熱帯低気圧「アナ」とサイクロン「ゴンベ」が相次いで発生し、豪雨や大洪水、土砂崩れをもたらしました。2023年には熱帯サイクロン「フレディ」が再び水源を汚染し、マラウイ史上最悪の死亡者数を記録しました。大流行の際には、Bandawe博士と彼のチームは、UNICEFやLIKA (ブラジルの免疫学研究所) などの様々な国際機関と協働し、最近ではルイビル大学と共に、感染を追跡して拡大を阻止するために、公共の井戸水や排水を迅速な試験を行っています。
MIST生物科学部のGama Bandawe博士。画像はSeeding Labsのご厚意により提供いただきました。
MUSTがこの重要な試験を実施できたのは、寄贈された研究用機器のおかげです。2019年、MUSTはイダイが襲来する数か月前に初めて、ボストンを拠点とする非営利団体Seeding Labsから5,000 lbs (約2.3トン) を超える機器を受け取りました。コレラ研究者の現地パートナーとして、Bandawe博士とチームはこれらの機器を用いてマラウイ中から集められたサンプルから汚染された水を迅速に特定し、感染拡大の抑制に貢献しました。
「すべての科学者が行う研究と同様に、私たちがMUSTで行う仕事は生死に関わります」と、Bandawe博士は今年初め、マサチューセッツ州ダンバースにあるCST本社での講演で語りました。「私たちのプログラムは、ますます増加する気候変動の影響からの回復 (クライメートレジリエンス) に関する課題に焦点を当てています。今回私たちに起こった出来事からも、もう時間の猶予はなく、今こそ行動すべき時であることが証明されました。」
研究者によるヒト疾患のより深い理解と根絶に役立つ抗体ツールを開発する科学者として、CSTは常に「他に、人々や地球にとって役立つことができないだろうか?」と考えています。
気候変動による各地の天候パターンの変化や海面上昇のため、マラウイなどの発展途上国は今まで以上に危険な疾患のリスクに晒されています。CSTは、Seeding Labsとのパートナーシップの一環として、古い研究用機器を埋立地に送るのではなく、できる限り発展途上国の研究者が必要なリソースを利用できるように役立てています。
CSTの研究室運営チームであるJoseph CiardielloとKeith Andersonが、出荷の準備として研究用機器を梱包しました。
Seeding LabsのCEOであるMelissa Wu博士は、「世界人口の80%以上がリソースへのアクセスが限られている国に住んでいるにもかかわらず、研究資金の80%以上がわずか10カ国に流れているのです」と述べます。「Seeding Labsはこの不平等さを変えるために存在しています」
この非営利団体は、高所得国から研究用機器を回収し、低所得国または中所得国へ再分配しています。同団体は2003年の正式な発足以来、41カ国、147機関を支援し、推定4,800万ドル相当の機器を提供してきました。年間27,000人以上の学生が、Seeding Labsのプログラムを通じて提供された機器を用いたトレーニングを受けています。
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Bandawe博士が次世代の科学者の育成を支援するMUSTなどの大学も、Seeding Labsから機器を受け取っています。「これらの機器がなければ、私たちはもっと異なる悲しい状況に陥っていたでしょう」と、Bandawe 博士はSeeding Labsに伝えました。「Seeding Labsは本当に、私たちを一気に何十年も先に押し進めてくれました」
さらに、MUSTは研究用機器のよりサステナブルな循環型経済を形成するだけでなく、Seeding Labsが支援する、各賞受賞者と支援団体間の科学者指導プログラムといった恩恵を受けています。
左:ゲスト科学者セミナーシリーズの一部として行われた講演の前に、Bandawe博士はCST本社のアトリウムを訪れました。右:マサチューセッツ州ダンバースにあるCST本社で、Bandawe博士とCSTの標識部門アソシエイトダイレクターのJeremy Fisherが、研究室用機器の使用と最適化について話し合いました。
科学者指導プログラムの一環として、今年初めにBandawe博士はCSTを訪れ、CSTの科学者から学び、MUSTで行われている重要なプログラムについて教えてくれました。
MUSTの気候変動対策やコレラ対策プログラムは、学内で開始された感染症や非伝染性の疾患を含む幅広い健康問題に取り組む多くの研究のうちの1つに過ぎません。この組織では、マラリアや結核、非マラリア熱、人獣共通感染症、漢方薬、環境衛生などの分野を研究しています。
MUSTとBanadawe博士の研究をいくつかご紹介します。
MUSTは、マウライにおける新型コロナウイルスのパンデミックへの対応で重要な役割を担いました。パンデミック対策としてSeeding Labsが提供したPCR装置と安全キャビネットを使用し、MUSTは現地で迅速に検査施設を立ち上げ、COVID-19に対応するための世界的な科学研究コミュニティの一員となりました。Bandawe博士のチームは、Mass General Brigham Center for COVID Innovation (MGBCCI) およびその他のグローバルパートナーと協働し、マラウイの新型コロナウイルスへの対応にあたり、他の発展途上国における対応策のための洞察とベストプラクティスを提供しました。
新型コロナウイルスのパンデミックの初期の、Full PPEを着用したMUSTの科学者たち。画像はSeeding Labsのご厚意により提供いただきました。
パンデミック初期の数か月間、現地での検査拠点の展開を支援しただけではなく、MUSTの研究は、実際の環境におけるPCR法と比較したラテラルフローアッセイの性能の評価に用いられました。具体的には、電力や水道へのアクセスが限られたアフリカの農村における検査精度と検査拠点の導入について調査を行いました1,2 。
マラリアの病因:すべての発熱患者がマラリアを有しているとは限らない
Bandawe博士の現在の研究は、マウライにおいて感染拡大している発熱性疾患、特にマラリア陽性の発熱性疾患の割合の特定に焦点を当てています。マラウイでの子どもの死亡率は高く、その主な原因は感染症であり、5歳未満の子どもにとって深刻な脅威を与えています。 一貫した検査へのアクセスが無ければ、マラウイではマラリアと推定される症例の多くが誤診され、その結果、誤った治療を受けてしまう可能性があります。
「私たちは長年にわたり発熱性疾患について研究してきましたが、多くの発熱患者が実はマラリアとは無関係であることがわかってきました」と、Bandawe博士はCSTでの講演で説明しました。「診断用抗体を用いることにより、これまで報告されていないものも含め、膨大な数の小児の呼吸器疾患を明らかにすることができます。私たちは、これらの発熱性疾患の原因が何かを特定し、治療に役立てるためのバイオマーカーを探しています2,3,4。」
現在、Bandawe博士は、カリフォルニア大学グローバルヘルス研究所のGloCalグローバルヘルスフェローシップの一環として、この研究を続けています。また、Chan Zuckerberg Biohubとのパートナーシップにより、このフェローシップはマラウイにメタゲノム配列決定技術をもたらし、小児熱性疾患の原因のより詳細な解析が進められています。
Bandawe博士の関心は、人獣共通感染症を引き起こす可能性のあるウイルスの研究にも及んでいます。「げっ歯類は、あらゆる種類のウイルスを保有しており、次なる伝染病やパンデミックの原因になり得ることが分かっています」と、CSTで行われた講演の参加者に説明しました。
マラウイ南部ではMbewaと呼ばれるげっ歯類の収集が始まり、初期サンプルの配列決定と分析が始まっています。「私たちは、収集した生物種に存在するウイルスのうち、人獣共通感染症を引き起こす可能性のあるウイルスの解析を試みています」と、Bandawe博士は説明します。
このプロジェクトには、さらなる研究室用機器が必要であり、Bandawe博士はSeedling Labsと提携してこれらを入手する予定です。また彼は、パンデミックへの備えと対応を強化するために、ウイルス学的手法で学生たちを訓練するマラウイ国立ウイルス学センターの開設も望んでいます。
CSTは、10年以上に渡りSeeding Labsに機器を寄贈しています。これは、科学研究の前進やサステナビリティの促進、世界規模での地域社会の支援というCSTの中核となる価値観に沿った貢献の一環です。Seeding Labsとの提携により、私たちは世界中の科学者たちが行っている素晴らしい仕事について学ぶことができます。
直近では、CSTは100台近いゲルシステムと200個以上の調整済みピペットを寄付し、今後世界中の研究室に配布される予定です。
再利用可能な機器をお持ちですか?もしその機器が生物学や化学の研究に関連するもので、使用可能な状態であれば、Seeding Labsへの寄付をぜひご検討ください。
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