CSTは、PD研究を前進させるためにMichael J. Foxパーキンソン病財団 (MJFF) とパートナーシップを締結したことを大変嬉しく思います。本パートナーシップの詳細をご覧になり、PDのリソースを探索してください。
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パーキンソン病 (PD) は、中脳黒質のドーパミン作動性ニューロンの欠落が特徴の神経変性疾患です。劣性遺伝型の家族性PDの原因として、ユビキチンリガーゼ PARK2/Parkinをコードする遺伝子の変異が知られています1。Parkinはミトコンドリアのホメオスタシスに関与しており、マイトファジーと呼ばれる特殊なオートファジーを制御しています。マイトファジーは、リソソームを介して機能不全あるいは損傷したミトコンドリアを除去する機構です2。
現在のところ、これには不明な部分が多く、細胞自律的な効果や因子が神経細胞の生存に関与する可能性と、非細胞自律的な作用である可能性があります3。例えば、α-Synuclein (α-Syn) の蓄積はPDの特性の1つです。神経細胞における細胞自律的なα-Syn除去機構が報告される一方で、アストロサイトやミクログリアなどの非神経細胞が、細胞外α-Synの分解や内部移行を介して間接的に非細胞自律的な神経細胞毒性に寄与している可能性もあります。
最近のアルツハイマー病/パーキンソン病 (ADPD) 会議で、パリ (フランス) の脳脊椎研究所のグループが、Parkin依存性マイトファジーの変化がミクログリアのインフラマソーム活性化に関与する可能性があることを報告しました4。ミクログリアは、発達中および成熟した脳の両方で様々な機能を果たす、常在性マクロファージです5。PD患者において、ミクログリアを介した神経炎症の増加が報告されています6。ミクログリア内のNLRP3インフラマソームの活性化が、炎症性サイトカインの放出と炎症反応の引き金になっている可能性があります7。発表者らは、PARK2患者とPARK2欠損マウスに由来するマクロファージを、ミクログリアのモデルとして用いた実験で、NLRP3インフラマソームの形成が促進されることを見出しました。これは、PARK2がNLRP3インフラマソームを制御することを示唆しています。
発表者らは、Parkinが2つのメカニズムを介してインフラマソームの活性を制御する証拠を示しています。すなわち、マイトファジーに依存的なインフラマソーム複合体制御と、インフラマソーム発現経路上流の抑制タンパク質の転写制御です。後者において、発表者らは、Parkinが脳内ミクログリアに特異的なNF-κB経路の抑制因子であるA20を制御するとしています。したがって、正常なParkin機能が欠如した場合、A20によるNF-κBの抑制が減弱し、インフラマソームの過剰な活性化が起こります。
しかし、これには幾つか未知な部分があります。例えば、Parkinは標的タンパク質をユビキチン化することで分解に導きますが、A20はNF-κB経路の阻害因子であることから、ParkinはA20上流の未知のタンパク質を制御すると考えられます8。A20はミクログリアの豊富なタンパク質であるため、PARK2の変異によってこの経路が撹乱され、炎症の進行に寄与する可能性があります。
プロテオミクス解析が1つの方法に挙げられます。
これは、Genentech社の研究者がParkin/USP30依存性マイトファジーに関与する分子経路を明らかにする際に直面した問題と同様です9。ユビキチン化される基質を予測するのは困難で、大変難しい問題です。プロテオミクス技術はスループットが高く、バイアスの少ない手法です。液相クロマトグラフィーとタンデム質量分析を組み合わせることで (LC-MS/MS)、細胞、組織、体液などの複雑な混合物中の数千のペプチドを同定し、定量することができます。LC-MS/MS解析では、ペプチド配列を決定するだけでなく、データベース検索にmodification massを組み込むことで、アミノ酸側鎖の修飾も特定することができます。
しかし、Genentech社の研究者らも経験したように、翻訳後修飾を受けたペプチドは存在量が少なく、同定が困難な可能性があります。彼らは、ユビキチンレムナントモチーフ抗体によるプルダウン技術を利用することでユビキチン化された基質を濃縮し、この問題を解決しました。この方法により、Parkinを過剰発現し、USPをノックダウンしたHEK293細胞株の、数千ものユビキチン化ペプチドを検出することができました。彼らのスクリーニングにより、Parkinによるユビキチン化と、それに拮抗する脱ユビキチン化酵素USP30の作用を受ける、12種の新規ミトコンドリアタンパク質が発見されました。これら12種のタンパク質のうち、Parkinの過剰発現とUSP30ノックダウンという条件下においてユビキチン化レベルが有意に増加した、TOM20とMIRO1の2種が検証用に選択されました。USP30によるTOM20の脱ユビキチン化は、Parkinを介したマイトファジーの阻害に重要な役割を果たしていることが明らかになり、マイトファジーを制御する新規のシグナル伝達経路が示されました。
神経炎症とミトコンドリア機能不全は、いずれもPDの発症に関与しています。LC-MS/MSを用いたユビキチン化基質の同定と、修飾を受けた基質の免疫アフィニティー濃縮を組み合わせることにより、ユビキチン化基質とマイトファジーを促進する主な分子機構が明らかになりました。この方法は、神経炎症モデルにおけるA20上流のParkin基質の同定にも威力を発揮すると考えられ、これにより、神経変性の治療のための新規の治療標が特定される可能性があります。
インフラマソームシグナル伝達のさらなる詳細をご覧ください。
参考文献: