タンパク質の大規模解析であるプロテオミクスは、疾患の発症機序の解明や新たなバイオマーカーの発見、薬物の薬理学的プロファイリングを行うための強力な手法であるため、新たな薬物標的の同定と特性解析におけるますます重要なツールになりつつあります。PTMScan®は、翻訳後修飾 (PTM)を持つペプチドの同定および定量を行う、CSTの科学者が開発したイムノアフィニティーをベースとする手法であり、PTMに特異的な抗体と液体クロマトグラフィータンデム質量分析 (LC-MS/MS) を用います。
参考ブログ: プロテオミクス解析における革命:20年後のPTMScan
どのような質量分析実験であっても、比較可能な結果を得るにはプロテオミクス実験間の一貫性を保つことが極めて重要です。サンプル取り扱いにおける一貫性から、アフィニティーの性能、機器の感度まで、特に実験が数週間から数か月にかけて行われる場合、結果に影響を与える要因は多岐にわたります。再現性を確保することにより、不当に大きなサンプルサイズや複製に頼ることなく、条件間のPTM部位の存在量の変化を統計的に評価する能力を改善することができます。
弊社は、科学者がプロテオミクス実験の再現性をより簡単に確保できるように、PTMScanの濃縮の効率と一貫性のモニタリングに用いることができる標準ペプチドを作製しました。それがPTMScanコントロールペプチドです。これらの標準ペプチドは、トリプシン消化によって生じる天然ペプチドの配列をベースとする合成ペプチドです。主な特徴として、ペプチド合成時に「重い」リジン (13C6 15N2-リジン) またはアルギニン (13C6 15N4-アルギニン) のアミノ酸を用いています。これらの重いアミノ酸を用いたペプチドは、重いリジンとアルギニンを組み込んだことによる質量の違いから、内在性の軽いペプチドと容易に区別することができます。このことは、ユビキチンレムナント抗体のコントロールペプチドを用いた、重いペプチドと軽いペプチドの抽出イオンクロマトグラム (図1) からも分かります。すべての細胞または組織タイプにおいて、修飾ペプチド配列が内在的に発現しているわけではないことに注意が必要ですが、これらのサンプルにおいても重いSpike-inコントロールペプチドの導入が可能です。
各ペプチドコントロールミックスには、対応するPTMScanキットに特異的な少なくとも3種類の重いペプチドが含まれており、これらのコントロールは、様々な条件下においてPTMScan試薬により一貫して濃縮されることを保証するための試験が行われています。各ミックスに含まれるコントロールペプチドは、クロマトグラフィーのグラジエント溶出にかかる時間と、十分なシグナル対ノイズ比を保証するイオン化特性をベースに選択しています。
コントロールミックスを用いるには、対応するPTMScan濃縮を行う前に、一定分量のコントロールペプチドミックスを実験サンプルに加える必要があります。各コントロールペプチドミックスには、PTMScan実験10回分のペプチドが含まれています。
図1に示すように、アフィニティー濃縮と質量分析後の各コントロールペプチドは、その固有の質量/電荷比により、抽出イオンクロマトグラフィーを用いて内在性ペプチドと区別することができます。
各キットには、同定と定量を合理化するために、コントロールミックスの単一プロトン化されたプリカーサーイオン (MH+) の計算済みの質量と、それに対応するコントロールペプチド混合サンプル中の重いペプチドの推奨質量電荷数比(m/z)が明記されています。この情報を用いることにより、コントロールペプチドにおけるプリカーサーのm/zの測定値と計算値を容易に比較できるため、用いている装置の質量精度の評価や、データベース検索およびPTMペプチド同定のための質量精度の許容誤差の調整を行うことができます。図2に示すような、各コントロールペプチドのアノテーションされたタンデム質量分析 (MS/MS) のスペクトルは、ミックスごとに指定されています。これは、フラグメント化パラメーターが、PTMサイトを特定し、その場所を見つけるために十分なイオン感度およびカバレッジを提供するかを評価するために、観察されたMS/MSと提供されたMS/MSの比較に使うことができます。
図2: PTMScan Control Peptides Ubiquitin/SUMO #75964 のアノテーションされたタンデム質量スペクトル (MS2):TITLEVEPSDTIENVK(gg)A[K]。
弊社の広範な試験により、これらのコントロールを推奨量追加しても、内在性PTMペプチドの濃縮効率や回収に悪影響を及ぼさないことが分かりました。曲線下面積 (AUC) を測定することにより、各ペプチドの存在量の定量や様々な実験との比較が可能になるため、濃縮効率と再現性に関する重要な情報が得られます。さらに、PTMScan試薬は特異性が高いため、1つのサンプルにおける連続的な濃縮戦略を採用した実験が可能であり、結果をモニタリングするために、各濃縮ステップにコントロールペプチドを用いることができます。
図3: 3つの独立したPTMScan HS Ubiquitinの実験により、1 mgのヒトHEK293サンプルペプチドを用いてKGGコントロールペプチドを回収しました。データは、ThermoFisher Fusion Lumosで解析しました。
コントロールペプチドミックスは、調査対象の生物種に関係なく用いることができることに注意が重要です。正確な質量分析装置を用い、固有の質量/電荷数比と溶出時間を組み合わせることにより、研究者はどのようなPTMScan実験においても、これらのコントロールペプチドを同定することができます。異なる生物種のサンプルでコントロールペプチドを用いる場合は、他の生物種ではタンパク質の配列が変異しており、内因性シグナルが存在しない可能性があることに注意してください。
結論となりますが、これらのコントロールペプチドは、広範囲のPTMScan実験におけるアフィニティー濃縮とペプチド脱塩ステップの再現性の評価にリアルタイムで用いることができる、外来性コントロールとして役立ちます。
CSTは、多くのPTMScan濃縮キットに対応するコントロールペプチドを提供しいます。次のPTMScan実験では、関連するコントロールペプチドの使用を強くお勧めします。アガロースおよび磁気ビーズをベースとする形式などの、PTM濃縮の各ワークフローに適合する製品リストについては以下の表をご覧ください。