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BRCA変異を持つがんに対する新たな治療法

筆者:Andrea Tu, PhD | 2023年10月23日

 

毎年、米国では約13%の女性、世界では約25%の女性が乳がんの告知を受けて衝撃を受けています。乳がんは、最も多く診断されるがんであり、2020年の全世界の推定死亡患者数は684,996人です。過去40年間、10月は、乳がんへの意識を高めて死者数を減少させることを目的として設立されたNational Breast Cancer Awareness Month (国際乳がん啓発月間) となっています。局所にとどまる乳がんの5年相対生存率が99%であることから、この啓発月間では、早期発見の重要性についても伝えています。特に、BReast CAncer (BRCA) 遺伝子の機能喪失型変異は重要であり、BRCA1変異を持つ女性の55 - 65%、BRCA2変異を持つ女性の45%が、70歳になる前に乳がんを発症します。

がんに罹患していない時にBRCA遺伝子変異に気づくことができれば、どの程度早期に、どの程度頻繁にマンモグラフィを行うかを医師が決定することができ、予防的乳房切除術が必要かどうかを検討するきっかけになる可能性があります。しかし、多くの人は、診断を受けて初めてBRCA変異を持っていることを知ります。BRCA変異は、疾患と戦う方法にも影響を与えます。OlaparibなどのPARP阻害剤は、BRCAに関連するがんの治療に極めて有効であり、この変異を持つ患者に使用可能な唯一の標的療法です。しかし、PARP阻害剤治療を行っても、再発率は依然として高いままです。そのため、乳がんのない未来を実現するために、BRCAに特異的な新たな治療薬の開発が切実に求められています。

BRCA1とBRCA2の違い

BRCA1BRCA2の変異はどちらも、二本鎖DNAの損傷の修復に関連しており、文献で乳がんのタイプについて言及する際に、区別されることはほとんどありません。しかし、この2つの変異の違いは極めて重要です。BRCA1変異を持つ女性は、BRCA2変異を持つ女性と比べて、乳がんを発症するリスクがわずかに高くなります。BRCA1変異を持つ男性は、男性乳がんを発症する生涯リスクが1-5%であるのに対し、BRCA2遺伝子の変異を持つ場合は、生涯リスクは5-10%になります。さらに、BRCA1変異を持つ乳がんは、トリプルネガティブ (エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、HER2を発現していない) となる可能性が高く、この場合、より悪性度が高く、治療が困難になります。一方、BRCA2変異を持つがんは、多くがエストロゲン受容体陽性です。

パラフィン包埋ヒト乳管癌がん組織を、BRCA1 (E5S9G) Rabbit mAb #50799を用いて免疫組織化学染色し解析しました (Leica Bond RXを使用)。

そのため、これらの2つの変異に対し、異なるアプローチを用いることによりさらに有効な治療法が得られる可能性があります。BRCA1とBRCA2は、どちらもDNA修復経路で機能しますが、役割は異なります1 BRCA1は、DNA損傷チェックポイント活性化因子であり、DNAを修復しますが、BRCA2は、相同組換えに必要である極めて重要な構成因子です。このように、各遺伝子が腫瘍の発生と進行にどのように寄与しているかを理解することは、より効果的なアイソフォーム特異的治療法につながる可能性があります。

BRCA変異を持つがんに対抗するための、新たな治療アプローチ

BRCA1やBRCA2に特異的な治療法は、まだ開発までに時間がかかるため、現在、FDAが承認したBRCA関連乳がんに対する唯一の標的療法が、PARP阻害剤です。PARP酵素は、ストレスに応答したDNA修復に関与します。これらの阻害により、腫瘍は、PARPとBRCAに関連する修復機構をどちらも失うため、DNA修復ができず、細胞死を引き起こします。

しかし、PARP阻害剤の単独療法では、耐性を獲得する腫瘍の割合が高いため、BRCA変異を持つ乳がんの治療には限界がありました。PARP阻害剤への耐性獲得は、相同組換えの修復や復帰突然変異、薬剤流出の増加、複製フォークの修復を誘導する分子シグナル伝達イベントによって誘導される可能性があることが、研究により分かっています2 BRCA1やBRCA2変異を持つ初発および再発の腫瘍を比較して詳細を解析した結果、腫瘍が耐性を獲得する方法について、アイソフォームに特異的な知見が得られました3

耐性の獲得を克服するために、研究者はBRCAに関連する、がんの抵抗性を促進する機構を標的とする方法や、PARPを介さないDNA修復経路を標的にする方法を検討しています4 さらに、非臨床試験や臨床試験では、PARP阻害剤と他のクラスの薬剤との併用による有効性の評価を行っています5PARP阻害剤と細胞周期チェックポイント阻害剤CDK阻害剤エピジェネティクス、翻訳後修飾 (PTM) を標的とする薬剤、DNA損傷剤などを組み合わせた併用療法戦略が現在進められています。免疫療法を活用した研究も注目されており、PARP阻害剤は、免疫チェックポイント阻害剤や抗体薬物複合体、改変した腫瘍浸潤リンパ球との併用が試験されています。

BRCA変異が、がんの発症確率をどの程度明確に増加させるのかを特定することにより、この遺伝子変異を持つ人々が予防措置を講じることができるようになります。しかし、多くの人は、その変異を持つことを知る前に乳がんを発症してしまいます。PARP阻害剤は、FDAが承認した唯一の標的療法ですが、残念ながら、腫瘍が高確率で耐性を獲得するという限界があります。治療法の開発が、BRCA変異を持つ人々に対し、がんを完全に根絶するためのより多くの選択肢を与えることにつながります。

その他のリソース

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参考文献 

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  2. Dilmac S, Ozpolat B. Mechanisms of PARP-Inhibitor-Resistance in BRCA-Mutated Breast Cancer and New Therapeutic Approaches. Cancers (Basel). 2023;15(14):3642. Published 2023 Jul 16 doi:10.3390/cancers15143642.
  3. Shah JB, Pueschl D, Wubbenhorst B, et al. Analysis of matched primary and recurrent BRCA1/2 mutation-associated tumors identifies recurrence-specific drivers. Nat Commun. 2022;13(1):6728. Published 2022 Nov 7. doi:10.1038/s41467-022-34523-y.
  4. Giudice E, Gentile M, Salutari V, et al. PARP Inhibitors Resistance: Mechanisms and Perspectives. Cancers (Basel). 2022;14(6):1420. Published 2022 Mar 10 doi:10.3390/cancers14061420.
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