CSTブログ: Lab Expectations

Cell Signaling Technology (CST) の公式ブログでは、実験台に向かう時間に期待すること、ヒント、コツ、情報などを紹介しています。

がんの特性:ゲノムの不安定性と変異

詳細を読む
投稿一覧

すべてのがん細胞が等しいわけではなく、それらは変異の蓄積によって引き起こされる選択圧に応答して進化します。がん細胞は栄養素やその他の資源を求めて近隣の細胞と競合し、免疫細胞の攻撃を回避し、アポトーシスによる自己破壊を抑制しなければなりません。

18-CEL-47815-Blog-Hallmarks-Cancer-5-Genome-Instability-Mutation-Signaling

がん細胞に関連する異常な増殖によって、細胞分裂や腫瘍抑制を調節する複数の遺伝子の損傷に寄与するようなゲノムの変化や変異が増加する傾向があります。これはゲノム不安定性として知られています。生存を強化するような変異はそれらの変異が将来の細胞に伝達される可能性を高めるため、がん細胞においてゲノム不安定性は悪化する傾向があります。

変異とは、生物におけるDNA配列の変化です。DNAを構成するヌクレオチドは追加、置換、削除されることがあり、DNA鎖には一本鎖切断あるいは二本鎖切断が生じることがあります。DNAのあるひとまとまりは、位置が入れ替わったり、同じものが複製されたり、削除されたりします。これらの変異のほとんどは、がんに関連していません。それらは、自然発生的であるか化学物質や放射線などの環境的要因の結果である可能性があります。このような変異が発生する可能性は高いにもかかわらず、私たちのDNAは比較的エラーなしに維持されています。ゲノムの監視および維持のシステム、有糸分裂チェックポイント、およびDNA修復メカニズムは、遺伝コードを変異させようとする日常の一般的な要因を軽減するのに常に機能しています。これらのシステムのいずれかに欠陥があると、DNAの変異に対する感受性が高まり、ゲノムが不安定になって悪性腫瘍のリスクが高まります。

そのようなメカニズムの1つがG2/M期DNA損傷チェックポイントであり、ゲノムDNAの損傷を持つ細胞が有糸分裂期 (M期) に進むのを妨ぎ、ゲノム監視とDNA修復を促進します。これにはいくつかの重要なタンパク質が関与しています。

DNA依存性プロテインキナーゼ (DNA-PK) は、Kuタンパク質 (Ku70/Ku80) のヘテロ二量体と触媒サブユニットDNA-PKcsから構成されるセリン/スレオニンキナーゼ複合体であり、二本鎖DNA切断部位に即座に配置され非相同末端結合による修復を開始します。

乳房や他の組織に見られる2つの腫瘍抑制因子BRCA1BRCA2は、DNA損傷に応答してDNA修復、染色体安定性、および転写調節に寄与します。BRCA1はDNA損傷に応答して過剰にリン酸化され、複製フォークの特定の部位に集積することが報告されています。BRCA1はDNA損傷に応答して活性化されるいくつかの遺伝子の発現レベルを調節することも示されています。さらに、BRCA1はS期チェックポイントおよびG2/M期チェックポイントにも必要です。BRCA2はBRCA1とは少し異なる役割を果たし、染色体安定性と有糸分裂組換えの維持において主に活性を持ちます。BRCA1とBRCA2は共に、相同組換えにより二本鎖DNA切断を修復することが示されています。

Chk1Chk2は、遺伝子完全性チェックポイント、損傷検出タンパク質、および腫瘍抑制因子の複雑なネットワークの一部である重要なシグナル伝達におけるトランスデューサーです。

p53はゲノム安定性を維持する役割があることから「ゲノムの守護者」としても知られています。 p53は、悪性腫瘍につながる可能性のあるDNA損傷の蓄積を低下させるために増殖を停止しアポトーシスや老化を誘導することで、発がん性のストレスを認識し軽減する経路において中心的な役割を果たします。(おもしろいことに、ゾウには変異からの保護のため20コピー以上のp53遺伝子があります)。

DNA変異が複合することにより生じるゲノム不安定性はさておき、異常なエピジェネティック修飾は機能的なタンパク質のレベルを劇的に変化させゲノム完全性に影響を及ぼす可能性もあります。ゲノム不安定性において重要な役割を果たす2つのエピジェネティックなメカニズムはDNAメチル化とヒストン修飾です。遺伝子の調節領域における高メチル化や低メチル化はDNA変異を模倣し腫瘍の進行を促進します。さらに、ヒストンのエピジェネティックな修飾を介したクロマチン構造のリモデリングによって、染色体の不安定性につながる染色体の再構成が可能になります。これらのエピジェネティックな変化は細胞周期の進行とチェックポイントの調節にも影響を及ぼし、ゲノム不安定性とがんの進行にさらに寄与します。

ゲノム不安定性と変異に関与するパスウェイやタンパク質についてもっと詳しく知りたい方は、こちらのリンクからパスウェイ図をご確認ください。

           -G2/M期DNA損傷チェックポイント
           -DNAのメチル化
           -ヒストンマーク

がんの特性について、研究対象のガイドブックのダウンロードはこちら

がんの特性 (Hallmarks of cancer) はRobert Weinberg博士とDouglas Hanahan博士によって提唱され、Cell誌に発表されたものです。彼らは、複雑ながんの性質を、より小さな特性に細分化して捉えることを提案しています。今回の記事では「ゲノムの不安定性と変異」と題し、がんの特性の1つに関連する内容を記載しました。本シリーズの他の記事では、今回触れなかった他の特性についても解説します。

参考文献:

Chris Sumner
Chris Sumner
Chris SumnerはLab Expectationsの主任編集者でした。疾患治療についての読み書きをしていないときは、森の中をハイキングしたり、ギターを弾いたり、世界で一番のロブスター・ロールを探したりしています。

関連する投稿

パーキンソン病におけるオートファジー-リソソーム経路の特性解析

CSTは、PD研究を前進させるためにMichael J. Foxパーキンソン病財団 (MJFF) と...

従業員の意向を反映する世界各地への寄付活動:人道支援に15万ドルを寄付

寄付および助けを必要とする人をサポートするという考えが、Cell Signaling Technology (CST) の…
Krystyna Hincman2024年3月20日

抗体標識キットよりも標識サービスを推奨する5つの理由

マルチプレックス解析の増加に伴い、抗体標識の需要がますます高まっています。従来型または...
Alexandra Foley2024年3月6日
Powered by Translations.com GlobalLink OneLink SoftwarePowered By OneLink