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正確なフローサイトメトリーデータの作成に必要なサポート試薬

筆者:Andrea Tu, PhD | 2024年11月6日

フローサイトメトリーの正確なデータを生成するには、フローサイトメトリーで検証された特異的で感度の高い抗体だけでなく、適切なサポート試薬との組み合わせも考慮する必要があります。フローサイトメトリー実験を設計する際は、透過化バッファーや生死判別色素、Fc阻害剤などの適切な試薬を特定して、偽陽性や偽陰性を回避し、交差反応性を減少させて信頼性の高い結果が得られるようにすることが重要です。

そこで、CSTのフローサイトメトリー部門アソシエイトダイレクターであるChristopher Manningに、フローサイトメトリーの一般的なトラブルシュートに関する質問をしました。このまま、細胞内および生細胞のフローサイトメトリーのための細胞調製のヒントをご覧になるか、下のリンクから関心のあるトピックをご覧ください。

生細胞、細胞内フローサイトメトリー、FACSの比較:何が違うのか?

細胞調製のヒントに進む前に、まずは基本的な定義を確認します。フローサイトメトリーとFACS (Fluorescence activated cell sorting) は混同されがちですが、実際は異なる手法であり、どちらも複雑な細胞集団の研究に用いられます。FACSは、フローサイトメトリーの一種であり、蛍光シグナルに基づいた特異的な細胞集団のソーティングに用いられます。フローサイトメトリーは解析データを提供しますが、FACSは調製技術としての役割も果たし、目的の細胞を物理的に分離して実験や解析に用いることができます。

「FACSは通常、生細胞を用いて行われますが、RNAシーケンシングなどの下流アプリケーションでの解析のために、固定細胞のソーティングを行うこともあります。」とManningは述べます。 

では、生細胞フローサイトメトリーと細胞内フローサイトメトリーの違いは何でしょうか? 

  • 生細胞フローサイトメトリーは、生細胞の表面マーカーの解析に焦点を当てます。この方法は、PBMCなどの、サンプル内の複雑な細胞集団の特定や区別を行う必要がある場合に使用されます。必要な作業は、細胞表面に発現する表現型マーカーの染色のみです。CST製品ページでは、Flow Cytometry (Live) と表記されています。
  • 一方、細胞内フローサイトメトリーは、リン酸化タンパク質または転写因子などの細胞内タンパク質の解析に用いられます。また、関連性がある細胞表面マーカーの特定を同時に行う場合もあります。抗体が細胞内の標的にアクセスできるようにするため、解析前に細胞を固定および透過化する必要があります。CST製品ページでは、Flow Cytometry (Fixed/Permeabilized) と表記されています。

生細胞フローサイトメトリー、細胞内フローサイトメトリーのどちらの場合も、プロトコールには結果の完全性に影響を与え得る考慮すべき事項がいくつかあります。特に細胞内フローでは、プロトコールの検討が時に難しく感じられることがあり、誤解を招いたり誤ったデータを取得したりする可能性があります。しかし、細胞調製においていくつかの点に注意すれば、細胞内標的の正確なフローサイトメトリーデータの作成は、それほど難しいことではありません。

細胞内フローサイトメトリー用に細胞を固定および透過化する方法 

細胞内の標的を検出する場合、偽陰性を防いで正確に検出するために適切な固定と透過化を行う必要があります。固定により、タンパク質を安定化させて、細胞内の状態を維持します。また、透過化により、抗体は細胞膜を透過して細胞内標的と結合できるようになります。細胞膜の透過化前に細胞を完全に固定しておかないと、細胞内のタンパク質が細胞から漏れ出てしまう可能性があります。逆に、細胞膜または関連オルガネラが十分に透過化されていないと、抗体は標的タンパク質に到達して結合することができません。
 

 

CST® Intracellular Flow Cytometry Kit (Methanol) #13594には、タンパク質の状態を維持し、抗体の細胞内タンパク質へのアクセスを容易にするために必要な試薬すべてが含まれます。メタノール不含のホルムアルデヒドで細胞を固定し、メタノールで透過化します。

「細胞膜と細胞内区画の両方を効果的に開いて、抗体が細胞全体のオルガネラや他の領域にアクセスできるようにするため、透過処理にはメタノールを推奨することがよくあります。」とManningは述べます。「比較的弱い透過化方法を利用したことにより、抗体の結合が不良となる例や、抗体が標的に到達できない例もありました。メタノールは、細胞膜を完全に透過化できるため、デフォルトの透過化方法として推奨されています。」

関連リソース:フローサイトメトリーのトラブルシューティングガイド

しかし、稀ではありますが、メタノールが適さない抗体やエピトープがあり、メタノールの使用によって実験の結果が不正確になる場合があります。これに当てはまるかどうかが分からなくて悩んでいませんか?CSTの科学者は、すでに弊社が提供する抗体を試験しています。CST抗体を使用される際は、抗体データシートまたはウェブサイトの製品ページに記載の、推奨される適切な透過化プロトコールをご覧ください。Intracellular Flow Cytometry Kit (Triton X-100) #51995FoxP3/Transcription Factor Fixation/Permeabilization Kit #43481などを用いる方が、より良い結果が得られるかもしれません。

キットの構成品は単品販売に対応しているため、柔軟な実験設計が可能です。  

フローサイトメトリーでサンプルの細胞生存能力を確認する方法

細胞応答やシグナル伝達、タンパク質の発現量などは、生細胞で観察されるものと死細胞/死が近づいている細胞で観察されるものでは大きく異なります。固定時にサンプル内で生存していなかった細胞がデータ解析に含まれると、データが歪む可能性があります。CSTが提供するGhost Dyeなどの固定可能な生死判別色素なら、固定サンプルや透過化サンプル内の生細胞と死細胞を区別でき、この誤認識の原因を除去できます。これらはアミン反応性の色素であり、標的に共有結合し、固定前に死細胞を明るく標識します。そのため、その後の固定や透過化の処理の際にシグナルが失われる心配がありません。このGhost Dyeのシグナルを用いて生細胞以外をゲーティングして、解析から除外できます。

「費用の高いサンプルを用いて実験を完璧に行った後で、生存率を正しく考慮していなかったことに気づくという例を見てきました。」と、Manningが述べます。「Ghost Dyeなどの生死判別色素は、死細胞によるデータの歪みを回避し、生物学的に意義のあるシグナルのみに注目できるようにします。」

熱処理により死滅させたマウス骨髄細胞と生細胞を混合し、Ghost Dye Blue 516 Viability Dye #99283で染色してフローサイトメトリーで解析しました。右図内のゲーティングされた領域は、生存細胞を示しています。

CSTのGhost Dyeには様々な色が用意されているため、お使いの抗体標識パネルに最適な色素をお選びいただけます。

どの色素が生細胞に適しているかなどの生死判定用色素に関する詳細は、ブログ:フローサイトメトリーで細胞生死判定用色素を使用する理由をご覧ください。

フローサイトメトリー実験でFc阻害剤をいつ使用すべきか?

Bリンパ球やNK細胞、マクロファージ、好中球、マスト細胞などの免疫細胞の細胞表面に発現するFc受容体は、すべての抗体のFc断片を認識することができるため、偽陽性となることがあります。例えば、免疫細胞の特性解析や、ヒトサンプル中の細胞表面に発現する標的タンパク質をモニタリングするために、ラビット抗体を用いて免疫細胞マーカーを検出する場合を考えます。この場合、生細胞上のヒトFc受容体は標的タンパク質が何であろうとラビット抗体に結合するため、偽陽性となり、結果が不正確となる可能性があります。つまり、Fc受容体を持つ免疫細胞でフローサイトメトリー実験を行う場合は、常にFc阻害剤を使用する必要があります。

Manningは、「ヒトFc受容体がラビット抗体に結合するとは一概には言えません。しかし、予期していないシグナルが確認された場合、抗体の性能を疑いがちですが、実はこれは受容体の相互作用が引き起こす偽陽性の可能性があります。そのため、Fc阻害剤は必須です。そうしないと、抗体が適切な標的と結合しているのか、ただ単に受容体とくっついているのかを判断できません。」と、述べています。

サンプル内に一次抗体を添加する前に、Fc阻害剤を細胞のFc受容体と反応させます。これにより、抗体はFc受容体に結合することなく、標的タンパク質と結合できる状態を保つことができるため、S/N比が向上します。 

Human Fc Receptor Blocking Solution #58948 (2.5 µg/百万細胞、10分間) で処理したTHP-1細胞 (緑)、または処理していないTHP-1細胞 (青) を、PE標識したアイソタイプコントロール5 µg/mLで60分間インキュベートして、フローサイトメトリーで解析しました。オレンジ色の破線はブロック処置なしで染色されていない細胞を示します。処理したサンプル内の蛍光が低く、Fc受容体を阻害すると非特異的結合が低減することが分かります。

CSTのHuman Fc Receptor Blocking Solution #58948は、骨髄系/単球系細胞を含むヒトの生細胞モデルで実験を行う際に、抗体とFc受容体の結合の阻害に使用できます。また、Mouse Fc Receptor Blocking Solution (CD16/CD32) Rat mAb #88280は、マウスFc受容体との相互作用の阻害に使用できます。Fc阻害剤は、特に生細胞実験において重要ですが、通常は細胞内フローサイトメトリーでは必要ありません。固定と透過化の処理により、Fc受容体と抗体が結合しないからです。

フローサイトメトリー実験にどのコントロールを含めるべきか? 

データ解釈の妥当性を確実にするには、実験コントロールが不可欠です。CSTのアイソタイプコントロールを用いることにより、取得したシグナルが特異的であり、非特異的結合またはアーチファクトでないことを確認できます。固定/透過化細胞を解析する際の、非特異的な蛍光バックグラウンドシグナルの確認に使用できます。また、生細胞の場合は、多くの抗体がFc受容体に結合する可能性があるため、特にコントロールが重要になります。アイソタイプコントロールのシグナルにより、バックグラウンドの蛍光を除去して、意味のある陽性イベントの定量とゲーティングが可能になります。

未処理 (青) またはIFN-α処理した (緑) Jurkat細胞を用いたフローサイトメトリー解析で、Rabbit (DA1E) mAb IgG XP® Isotype Control (Alexa Fluor® 647 Conjugate) #2985 (赤) とPhospho-S6 Ribosomal Protein (Ser235/236) (D57.2.2E) XP® Rabbit mAb (Alexa Fluor® 647 Conjugate) #4851を比較しました。

フローサイトメトリーアプリケーション用試薬で信頼性の高いデータを取得

CSTのアプリケーションサイエンティストは、フローサイトメトリー実験に必要な抗体と関連試薬の両方の開発に密接にかかわっています。また、弊社のフローサイトメトリー特異的試薬はすべて、このアプリケーション分野の専門家により設計、開発、試験されているため、どの試薬も毎回、期待通りに機能します。したがって、不適切なサンプル調製や目的タンパク質に特異的でないシグナル、またはサンプル中の死細胞の存在に起因する曖昧なフローサイトメトリーの結果を回避できます。

フローサイトメトリー用CSTキットおよび試薬 

その他のリソース

  • フローサイトメトリーのワークフローに必要なコントロールや二次抗体、バッファー、検出その他の試薬一覧については、アプリケーションのワークフロー用試薬のパンフレットをクリックしてください。
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