フローサイトメトリーの正確なデータを生成するには、フローサイトメトリー用に検証済みの特異的で感度の高い抗体だけでなく、サポート試薬との適切な組み合わせも必要です。フローサイトメトリー実験を設計する際は、透過化バッファーや生死判別色素、Fcブロッカーなどの適切な試薬を特定し、偽陽性や陰性を回避し、交差反応性を減少させて信頼性の高い結果が得られるようにすることが重要です。
弊社フローサイトメトリー部門アソシエートダイレクターであるChristopher Manningに、フローサイトメトリーで一般的なトラブルシュートに関する質問をしました。細胞内および生細胞フローサイトメトリーのための細胞調製のヒントについて読み進めるか、下のリンクからご興味のあるトピックに飛ぶこともできます。
- 生細胞対細胞内フローサイトメトリー対FACS: これらの違い
- 細胞内フローサイトメトリーように細胞を固定・透過化する方法
- サンプルの細胞生存能力を確認する方法
- Fcブロックを使用すべきとき
- どのコントロールを含めるべきか
生細胞対細胞内フローサイトメトリー対FACS: これらの違い
細胞調製のヒントに進む前に、まずは基礎的な定期を確認しましょう。フローサイトメトリーとFACS (Fluorescence activated cell sorting) の定義は、交互に用いられることが多いですが、実際は異なる手法で、どちらも複雑な細胞集団の研究に使用されます。FACSは、蛍光シグナルに基づいて特異的な細胞集団をソートし、単離するために用いられるフローサイトメトリーのサブセットです。フローサイトメトリーが解析データを提供する一方、FACS は調製技術としての役割も果たし、対象細胞を物理的に分離して実験や解析に呈することができます。
「FACSは通常生細胞で行われますが、RNAシーケンシングなどの下流アプリケーションのために、固定細胞をソートすることもあります」とManningは説明します。
生細胞に対して細胞内のフローサイトメトリーはどうでしょうか?
- 生細胞フローサイトメトリーは、生細胞の表面マーカーの解析に焦点を当てます。この方法は、PBMCなど、サンプル内の複数の細胞集団から特定・識別する必要がある場合に使用され、それには、細胞表面に発現した表現型マーカーを染色するだけですみます。CSTのウェブサイトでは、これはフローサイトメトリー (生細胞) として記載されています。
- 一方細胞内フローサイトメトリーでは、リン酸化タンパク質や転写因子など、細胞内のタンパク質の解析に使用され、実験上関連性がある場合は同時に細胞表面マーカーも特定できます。抗体が細胞内標的にアクセスする必要があるため、細胞は解析前に固定・透過化する必要があります。CSTのウェブサイトでは、これはフローサイトメトリー (固定/透過化) として記載されています。
生細胞フローサイトメトリーの場合も、細胞内フローサイトメトリーの場合も、結果の完全性に影響を与え得るプロトコールの検討事項があります。特に細胞内フローサイトメトリーの場合、プロトコールの検討と、誤った解釈や不正確なデータを得る可能性に困難さを感じるかもしれませんが、細胞調製の検討事項を考慮すれば、細胞内標的の正確なフローサイトメトリーデータを生成するのはそれほど難しくはありません。
細胞内フローサイトメトリーように細胞を固定・透過化する方法
標的が細胞内である場合、偽陰性を防ぎ正確に検出できるようにするためには、適切な固定化と透過化が必須です。固定化によりタンパク質を安定化させ、細胞内のその状態を維持します。また透過化により、抗体が転写膜を透過し、その細胞内標的と結合できるようにします。転写膜が透過化される前に細胞が完全に固定されていないと、細胞内のタンパク質が細胞から漏れる場合があります。逆に言うと、転写膜または関連オルガネラが十分に透過化されていないと、抗体は標的タンパク質に到達して結合することができません。
CST® Intracellular Flow Cytometry Kit (Methanol) #13594には、タンパク質の状態を維持し、抗体の細胞内タンパク質へのアクセスを容易にするために必要な試薬すべてが含まれます。メタノールフリーホルムアルデヒドで細胞を固定し、メタノールで透過化します。
「形質膜と細胞内コンパートメントの両方を開くのに大変有効なメタノールを透過化に使用することを推奨しています。これにより、抗体がオルガネラと細胞のその他の領域にアクセスできるようになります」とManningは話します。「比較的弱い透過化の方法を利用すると、抗体の結合が不良になったり標的に到達できない例を見てきました。メタノールだと完全であるため、通常透過化にはデフォルトの方法として推奨しています。
関連リソース:フローサイトメトリーのトラブルシューティングガイド
しかし、まれではありますがメタノールが適さない抗体やエピトープがあり、実験の結果が不正確になることがあります。これに当てはまるかどうか定かでない場合でも、CSTの科学者が試験を行っています。CST抗体をお使いになれば、抗体データシートまたはウェブサイトの製品ページで適切な透過化プロトコールを推奨しています。例えば、Intracellular Flow Cytometry Kit (Triton X-100) #51995やFoxP3/Transcription Factor Fixation/Permeabilization Kit #43481などの方がより良い結果が得られるかもしれません。
キットのコンポーネントは単品販売もしており、実験の設計に柔軟に対応可能です。
フローサイトメトリーでサンプルの細胞生存能力を確認する方法
細胞の反応やシグナル伝達、タンパク質の量などは生細胞で観察されるものと死細胞/死が近づいている細胞で観察されるものでは大きく異なります。固定時にサンプル内で生存していなかった細胞がデータ解析に含まれると、データが歪む可能性があります。CSTのGhost Dyesなどの固定可能な生死判別色素なら、固定サンプルや透過化サンプル内の生細胞と死細胞を区別でき、この誤認識の原因を取り除きます。この色素はアミン反応性で、標的に共有結合的に結合し、固定前に死細胞を明るく標識するため、その後シグナルを失うことなくサンプルを固定・透過化することができます。その後Ghost Dyeからのシグナルを使用して非生細胞をゲーティングし、解析から除外できます。
「費用の高いサンプルを使用して完全な実験を行った後で、生存能力が正確に考慮されていなかったことに気づくという例を見てきました」とManningは説明します。「Ghost Dyesなどの生死判別色素は、死細胞によってデータが歪まないようにし、生物学的に意義のあるシグナルのみに注目できるようにします。」
加熱殺菌したマウス骨髄細胞をGhost Dye Blue 516 Viability Dye #99283と組み合わせて染色し、フローサイトメトリーで解析しました。右図内のゲーティングされた領域は、生存細胞を示しています。
CSTのGhost Dyesはさまざまな色で提供されているため、お使いの抗体標識パネルに最も適した色素をお選びいただけます。
どの色素が生細胞に適しているかなど、生死判定用色素に関する詳細は、ブログ:フローサイトメトリーで細胞生死判定用色素を使用する理由をご覧ください。
フローサイトメトリー実験でFcブロックを使用すべきとき
Bリンパ球やNK細胞、マクロファージ、好中球、マスト細胞など、免疫細胞の細胞表面上のFc受容体は、すべての抗体のFc断片を認識することができ、その結果偽陽性に至ります。例えば、免疫細胞を特性評価したり、ヒトサンプル中の表面標的タンパク質をモニタリングするために、ラビット由来抗体を使用して免疫細胞マーカーを標的としようとしているとします。生細胞上のヒトFc受容体は、標的タンパク質が何であってもラビット抗体に結合するため、偽陽性が発生し、結果の明確性が下がる可能性があります。すなわち、Fc受容体を持つ免疫細胞でフローサイトメトリー実験を行う場合は常にFcブロックを使用することが必要です。
Manningは、「Fc受容体がラビット抗体に結合するとは一見考えられにくく、また、予期していなかったシグナルが見えると、抗体の性能に対する疑いを持ちがちですが、実はこれは受容体の相互作用が偽陽性を起こしているのです。ですからFcブロックは必須です。そうしないと、抗体が適切な標的と結合しているのか、ただ単に受容体とくっついているのか判断が付きません」と説明しています。
Fcブロッカーは、サンプル内に一次抗体を入れる前に細胞のFc受容体と結合するため、抗体がFc受容体に隔離されず、標的タンパク質と結合できる状態を保つことで、シグナル対ノイズ比を向上します。
THP-1細胞をHuman Fc Receptor Blocking Solution #58948 (2.5 µg/百万細胞、10分間、緑) でブロック、またはブロックせずに (青) PE標識したアイソタイプコントロール5 µg/mLで60分間インキュベートして、フローサイトメトリーで解析しました。オレンジ色の破線はブロック処置なしで染色されていない細胞を示します。ブロックしたサンプル内の蛍光が低く、Fc受容体をブロックすると非特異的結合が低減することが示されています。
CSTのHuman Fc Receptor Blocking Solution #58948は、骨髄系/単球系細胞を含む生ヒトモデルで実験を行う際に、抗体がFc受容体タンパク質に結合するのを防ぐために使用でき、Mouse Fc Receptor Blocking Solution (CD16/CD32) Rat mAb #88280は、マウスFc受容体との相互作用をブロックするために使用できます。Fcブロックは、特に生細胞実験で重要ですが、一般的に細胞内フローサイトメトリーでは必要ではありません。固定と透過化を行うことでFc受容体を遮り、抗体とは結合しないためです。
フローサイトメトリー実験にどのコントロールを含めるべきか
データ解釈の妥当性を確実にするには、実験のコントロールが必須です。CSTのアイソタイプコントロールは、観察されるシグナルが特異的で、非特異的結合またはアーチファクトでないことを確認します。固定/透過化細胞を解析して非特異的蛍光バックグラウンドシグナルを確立する際に使用できますが、生細胞の場合はFc受容体結合が大量に起こる可能性があるため特に重要です。アイソタイプコントロールからのシグナルは、陽性イベントが正しく定量化され、バックグラウンドの蛍光レベルに相対してゲーティングされるようにします。
未処理 (青) またはIFN-α処理した (緑) Jurkat細胞を用いたフローサイトメトリー解析で、Rabbit (DA1E) mAb IgG XP® Isotype Control (Alexa Fluor® 647 Conjugate) #2985 (赤) とPhospho-S6 Ribosomal Protein (Ser235/236) (D57.2.2E) XP® Rabbit mAb (Alexa Fluor® 647 Conjugate) #4851を比較しました。
フローサイトメトリーアプリケーション用試薬で信頼性の高いデータを
CSTのアプリケーションサイエンティストは、フローサイトメトリー実験に必要な抗体と関連試薬の両方の開発に密接にかかわっており、また弊社のフローサイトメトリー特異的試薬すべてがアプリケーション分野の専門家によって設計、開発、試験されているため、どれをお使いになっても毎回期待通りに機能します。ですので、不十分なサンプル調製や標的タンパク質に特異的でないシグナル、またはサンプル内に死細胞があるためあいまいなフローサイトメトリーの結果が出ることは決してありません。
フローサイトメトリー用CSTキットおよび試薬
その他のリソース
- フローサイトメトリーのワークフローに必要なコントロールや二次抗体、バッファー、検出その他の試薬一覧については、アプリケーションのワークフロー用試薬のパンフレットをクリックしてください。