細胞数をカウントする場合や継代を行う場合、化学物質の毒性評価やフローサイトメトリー実験において、生細胞と死細胞を区別するために細胞の生死判定用色素が広く利用されています。フローサイトメトリーでは、解析対象に死細胞が含まれると実験結果が歪むことがあるので、データの質を向上させるためによく利用されます。
細胞生死判定用色素はどのように機能するのか?
健康な生細胞の生物学的特性は、死細胞や死にかけている細胞のそれとは異なります。また、注目している特定の標的やパスウェイの生物学的特性が保持されている場合でも、死細胞では抗体が高度に非特異的な結合をすることが多く、解析の信頼性が低下する原因となります。データの正確性と再現性を確保するため、死細胞や死にかけている細胞を解析から除くことが重要です。
固定していない細胞に使用可能な生死判定用色素
最も一般的に利用されている細胞の生死判定用色素は、核酸に結合してDNAにインターカレートする色素です。これらは無傷の細胞膜を透過することができず、生細胞からは排除されるので標識されませんが、死細胞は明るく染色されます (図1)。
このような色素の例として、PI (Propidium iodide) や7-ADD (7-aminoactinomycin D)、DRAQ7™など、励起波長と蛍光波長のプロファイルが異なるものがあります。これらの色素は生細胞を用いる実験には有効ですが、細胞の固定や透過化が必要な実験の場合、死細胞から拡散して洗い流されてしまうため、有効性に制限があります。
図 1. ヨウ化プロピジウム染色プロファイル健康なJurkat細胞 (左) と、生存細胞と非生存細胞を混合したJurkat細胞集団 (右) を、Propidium Iodide (PI)/RNase Staining Solution #4087で染色しました。
DNAにインターカレートする色素で生細胞の陰性選択ができますが、生細胞の陽性選択ができる色素も多くあります。これらの色素は、生細胞を特異的に標識するために様々なメカニズムを利用していますが、標準的な代謝プロセスに依存するものが多いです。生細胞の陽性選択によく利用される色素の1つであるCalcein AMは、無傷の細胞膜を透過することができる無蛍光の中間体です。細胞内のエステラーゼの作用で、細胞内にCalcein AMから蛍光分子Calceinが産生されます。CalceinはCalcein AMと異なり、細胞膜を透過することができないので、細胞外に拡散して排除されることはありません。Calceinは生細胞内に保持されるため、これらの細胞は蛍光で標識されます。
固定した細胞に使用可能な生死判定用色素
アミン反応性色素も、細胞生死判定用色素の1種です。DNAにインターカレートする色素と同様に死細胞を明るく染色しますが、DNAにインターカレートする色素とは異なり、標的と共有結合を形成するため、固定や透過化を行った細胞でもシグナルが失われることがありません。固定や透過化の操作により、すべての細胞が死細胞となりますが、その前にCSTが提供するGhost Dye™などのアミン反応性色素を使用することで、固定前に生きていた細胞と死んでいた細胞を区別することができます。細胞のアミン反応性官能基のごく一部は細胞外でも利用できるため、アミン反応性色素によって生存細胞も標識されます。膜の完全性が損なわれた非生存細胞は、同じサンプル中の健康な細胞に比べて有意に多くの色素に反応します。非生存細胞は最も明るく標識され、解析から除外することができます。図2. Ghost Dye™ Violet 450染色プロファイル。 ヒト末梢単核細胞の生細胞と固定した細胞を組み合わせ、Ghost Dye™ Violet 450 Viability Dye #49826で染色しました。
フローサイトメトリー実験における細胞生死判定用色素の使用法
DNAにインターカレートする色素やアミン反応性色素を使用する場合は、色素の蛍光チャンネルで非生存細胞が明るいシグナルを示すので、この集団を解析から除外してください。陽性選択色素を使用する場合は、生存細胞が陽性の染色を示すので、下流の解析から陰性の細胞を除外する必要があります。
細胞生死判定用色素を用いることで、ほとんどの場合は短時間のインキュベーションで生細胞と死細胞を区別することができるようになり、データの信頼性を簡単に向上させることができます。実験に細胞生死判定用色素を組み込む場合も、提供元が推奨するプロトコールをよく読むことが最善の方法です。
CSTのGhost Dyeは、様々な色が用意されており、お使いのマルチプレックス抗体パネルに最適な色素を選択できます。