オートファジーは、細胞質成分を二重膜のオートファゴソームに取り込み、リソソームに輸送して廃棄する異化プロセスです。古典的なオートファジーに関与するステップは、過去30年以上にわたってよく研究されており、隔離膜の形成、カーゴの隔離、オートファゴソームの伸長と成熟、リソソームの融合に関与する複合体が機能します。
近年では、選択的なオートファジーによって、特定の標的や細胞小器官を分解することも分かっています。選択的オートファジーは一般的に、LIR (LC3-interacting regions) や GIM (GABARAP-interacting motifs) をもつ、特殊なオートファジーカーゴ受容体を利用して行われ、この受容体が隔離膜上のLC3/GABARAPメンバーに結合します。最近注目されている選択的オートファジーの1つに、小胞体 (ER:Endoplasmic reticulum) 断片を標的として分解する、ERファジーまたはレティキュロファジーと呼ばれるプロセスがあります。
小胞体は、タンパク質の折り畳みやプロセシング、カルシウムの貯蔵、ステロイドや脂質の生合成などの機能を持つ、多面的な巨大細胞小器官です。核膜から細胞膜に向かって伸展した扁平な嚢 (シート) と細管 (チューブ) の、不均一で連続したネットワークで構成されています。リボソームが付着した、核膜周辺のシートに多い粗面小胞体と、リボソームが付着しておらず、脂質やステロイドの合成などの代謝活性に関与するER辺縁の滑面小胞体に分類することができます。細管状の小胞体は細胞質全体に広がっています。これはオートファジーの開始における隔離膜形成に必要な脂質を供給するなど、他の細胞小器官へのシグナル伝達の接点となります。
オートファジーに関する詳細は、シグナル伝達のインタラクティブパスウェイ図をご覧ください。
ER構造は動的に制御されており、細胞の恒常性の維持やストレスへの適応に関与しています。このプロセスの障害は、代謝疾患や神経疾患、がん、感染防御の障害などの病態に寄与すると考えられます。
ERファジーはERの形態を制御する重要なプロセスの1つで、ERの小区画を断片化して除去する機能があります。折り畳まれていないタンパク質が蓄積したり、代謝ストレスや酸化ストレスにさらされることで、ERストレスの補償プログラムが活性化し、ER構造が再構成されてこれらの問題に対処します。UPR (Unfolded protein response) などのERストレス経路が活性化すると、需要の増加に対応するためにER膜が増加します。ストレス状態が落ち着くと、ERファジーによって不要なER断片が除去されます1-3 。
過去数年で、ERファジーの理解が進んできました。中でも、FAM134B、CCPG1、ATL3、TEX264、SEC62、RTN3Lなど複数のER常在型オートファジー受容体の発見は重要です。これらのタンパク質はそれぞれ、オートファゴソーム上のLC3またはGABARAPファミリーメンバーへの結合を促進する、LIRまたはGIMを少なくとも1つはもっています。これらのオートファジー受容体はER上の特定の部位において、栄養の枯渇やERストレス、カルシウム濃度の変化など様々な刺激に応答してERファジーに寄与します。これらのタンパク質の欠損と、損傷したERの拡張、ERストレス経路の持続的な活性化、病態生理学的な制御の関連性が知られています。
FAM134Bは最初に発見されたERファジー関連受容体で、これまでに最も研究が進んでいます。FAM134Bを欠損した細胞は、栄養の枯渇や小胞体ストレスに応答したアポトーシスへの感受性が亢進します。これは主にシート状ERに局在しており、オートファジーカーゴ受容体の部位特異的な役割を説明する実例となります。FAM134の欠損と遺伝性感覚性自律神経性ニューロパチー (HSAN:Hereditary sensory and autonomic neuropathy) の関連性が知られています。FAM134Bとがんの関連性も指摘されていますが、ここでの役割はがんのタイプにより異なる可能性があります。食道がんや肝細胞がんではFAM134Bの発がん活性が報告されていますが、結腸がんや乳がんではがん抑制的な機能が報告されています。近年、FAM134Bのウイルス感染への関与が注目されています。一般的にERファジーは、ウイルスや細菌を排除する宿主の防御機構として機能すると考えられています。興味深いことに、病原体の中にはERファジーを直接阻害するメカニズムを進化させたものがあります。例えば、デングウイルスやジカウイルスは、FAM134Bを切断して活性を阻害するプロテアーゼNS2B3をコードしています。
FAM134Bの発見に続いて、ERファジーを異なる部位、異なる刺激、異なるタイプの細胞で制御するERファジーカーゴ受容体が、さらにいくつか同定されました。FAM134Bは主にシート状ERの分解に関与しますが、RTN3LやATL3などのオートファジーカーゴ受容体はチューブ状ERの分解に関与します。CCPG1は小胞体ストレスに応答して転写レベルで制御されるカーゴ受容体として注目されています。CCPG1はFIP200にも結合しており、オートファジー装置をリクルートする別のメカニズムとして機能する可能性があります。また、翻訳後修飾がERファジーの制御に関与することも知られるようになっています。 ここで注目すべきは、小胞体ストレスを受けるとFAM134Bがリン酸化され、これによりERファジーが促進されることです。 さらに最近、Liang博士らによる新しいERファジーの蛍光レポーターアッセイを用いた研究で、UFM化がERファジーの促進に関与することが明らかになりました。今後、UFM化の下流シグナル伝達のさらなる解析が期待されています。
ERファジーには、ERファジーを誘導する因子、リン酸化やユビキチン化、UFM化などの翻訳後修飾の役割、疾患における役割や治療介入の可能性など、多くの疑問が残されています。Cell Signaling Technology (CST)は、ERカーゴ受容体や古典的オートファジー制御因子、小胞体ストレスのマーカーなどの研究に利用できる、厳密に検証された抗体を提供することで、これらの重要な問題を解決する手助けをしています。
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参考文献