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ゼノファジー:食べたもので傷つくことはありません

ゼノファジー (Xenophagy) は外来病原体に対する重要な防御機構で、細菌やウイルスなどをオートファジーを介した分解の標的にします。ゼノファジーの概念の始まりは、力久泰子博士が、リケッチア菌 (Rickettsiae) の感染により多形核白血球におけるオートファゴソームの形成が劇的に誘導されることを報告した1984年に遡ります。1990年代初頭に大隅良典博士が主導し、ノーベル賞を受賞した研究により、オートファジーの開始、カーゴの隔離、二重膜オートファゴソームの伸長と成熟、リソソームとの融合など、オートファジー機構の構成要素が明らかにされました。

古典的なオートファジープロセスの理解が進むに連れて、オートファジーは特定の小器官やタンパク質、病原体を選択的に分解することも分かってきました。「選択的オートファジー」と呼ばれることが多いこれらの経路には、一般に特殊なオートファジーカーゴ受容体が関与しており、これは多くの場合ユビキチンを標的とし、オートファゴソーム上のLC3ファミリーメンバーを標的とするLIR (LC3-interacting region) をもちます。ネズミチフス菌 (Salmonella typhimurium) や化膿レンサ球菌 (Streptococcus pyogenes)、ヒト型結核菌 (Mycobacterium tuberculosis) などの病原体がゼノファジーを介した分解の標的となることがよく知られており、オートファジーの中心的な遺伝子の欠損によってこれらの感染に対する脆弱性が増加します

 

現在、ゼノファジーによって細菌を除去する方法や、細菌がゼノファジーを回避する方法が複数あることが明らかにされています。サルモネラ菌 (Salmonella) の研究から、このプロセスの重要な知見が得られてきました。サルモネラ菌は膜に結合した液胞を介して細胞に侵入しますが、その後、多くのグラム陰性菌表面に存在するⅢ型分泌装置 (T3SS: Type III secretion system) を利用して離脱します。 細胞質内の細菌は集中的にユビキチン化され、LIRドメインをもつオートファジー受容体 (p62/SQSTM1、OPTN、NDP52など) に認識されてオートファゴソームに隔離されます。損傷した細菌を含む液胞は糖鎖結合タンパク質Galectinの標的にもなり、Galectinはオートファジー受容体TAX1BP1に結合します。

 

最終的にTAX1BP1はLAMTOR1/2複合体との相互作用を介してサルモネラ菌やレンサ球菌にリクルートされ、オートファゴソームとリソソームの融合が促進されます。 また、ゼノファジーのプロセスに翻訳後修飾が関与することも分かっており、特にリン酸化はカーゴ受容体の結合活性を制御して結果に影響を及ぼします。例えば、自然免疫に関与するキナーゼTBK1はp62/SQSMT1とOPTNの両方をリン酸化し、これらのユビキチン結合活性を増加させます。

 

しかし、全ての細菌がゼノファジーで除去される訳ではありません。多くの細菌がオートファジーによる死を回避する戦略を発達させています。これらの細菌は、検出から遮蔽するタンパク質や、オートファゴソームの形成やリソソームの融合を阻害するタンパク質を産生します。このような回避機構の一例が野兎病菌 (Francisella tularensis) で見られます。野兎病菌は多糖O-抗原に覆われ、ユビキチン化やゼノファジーによる分解から保護されています。

 

フレクスナー赤痢菌 (Shigella flexneri) は異なるアプローチを採っており、Atg5のタンパク質の1つであるIcsBを介してAtg5との結合を回避することで、オートファゴソームへのリクルートを阻害します。また、赤痢菌は小胞輸送やオートファゴソームの形成を制御するGタンパク質Rabを阻害する、GTPase活性化タンパク質 (GAP: GTPase-activating protein) VirAを産生します。リステリア菌 (Listeria) リステリア菌は、オートファジーの膜輸送に必要なホスファチジルイノシトールを阻害する細菌性ホスホリパーゼを産生することで、オートファゴソームの成熟を阻害し、ゼノファジーから逃れます。在郷軍人病菌 (Legionella pneumophila) でも興味深い例が見られます。この細菌はプロテアーゼRavZを巧みにコードしており、LC3とホスファチジルエタノールアミンを脱共役させることでLC3を不活性化します。これらは勿論、細菌がオートファジーに関与して阻害する方法のごく一部に過ぎません。今後さらなる解明が進み、薬剤耐性のある病原体に対抗するための合理的な治療法が開発されることが期待されています。

 

ウイルス感染は一般にストレス経路を活性化させますが、ヴィロファジー (Virophagy) と呼ばれるプロセスでゼノファジーを制御することがあります。ウイルスはオートファジーのある側面を誘導し、別の側面を阻害することがあります。ウイルスによるオートファジー制御の研究は、COVID-19パンデミックで大きな関心を集めました。ウイルス感染による細胞ストレスで誘導されるオートファジーは、ウイルス粒子の除去の促進や炎症反応の制御、適応免疫応答の形成に利用されるウイルス抗原の産生などによって重要な抗ウイルス防御機構となる可能性があります。

 

しかし、オートファジーにはウイルスに対して促進的な側面もあります。コロナウイルスなどのRNAウイルスは、オートファジーの成分である二重膜小胞の保護的な環境を利用して複製します。従ってつまり、ウイルスはオートファジーによる分解を回避し、場合によってはオートファジーの乗っ取りを行い、複製を促進する戦略を発達させていることもよくあります。ウイルスは様々な方法で、オートファゴソームの成熟やリソソームの融合、分解といったオートファジーの後期段階を、直接的あるいは間接的に阻害します。オートファジーのウイルスに対する抑制的な活性と促進的な活性の相互作用が、ウイルスの病態に及ぼす影響は非常に興味深い研究分野であり、新たな治療介入の方法が開発される可能性があります。

 

病原体の生存戦略の解明を目指す研究者の間で、ゼノファジーのプロセスへの関心が高まっています。CSTはオートファジーやゼノファジーの研究や治療法開発のニーズに応えるため、完全に検証された抗体やキットを開発しています。詳細は、cellsignal.comをご覧ください。

 

 

注目の参考文献

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