生化学者であるChristian de Duve氏が1963年に名付けた「オートファジー」という用語は、「自食」を意味するギリシャ語に由来しており、細胞質成分の分解とリサイクルの基本的なプロセスです。
オートファジーの種類
広い意味をもつオートファジーは、以下のいくつかの種類に分類されています。
- マクロオートファジー:二重膜構造をもつオートファゴソームが細胞内容物やオルガネラを取り込み、リソソームと融合して内容物を分解する基本的な経路
- ミクロオートファジー:リソソームが直接細胞質内のカーゴと融合する経路
- シャペロン介在性オートファジー:細胞質内のシャペロンが、標的のリソソームへの輸送を助ける経路
マクロオートファジー (単にオートファジーと呼ばれることも多い) は、これらのプロセスの中で最も研究が進んでいます。これは栄養状態や細胞ストレスに大きく制御され、正常な生理的ホメオスタシス維持に重要な役割を果たしています。また、がんや代謝異常、炎症性疾患、宿主防御、神経変性などの病態によって制御されることも多々あります。
2016年、酵母のオートファジーに必要な遺伝子を特定した功績により、大隅良典博士がノーベル生理学・医学賞を受賞しました。酵母で発見された遺伝子をもとに、オートファジーに重要な役割を果たす20以上のオートファジー関連遺伝子 (ATG: Autophgy relaated) が発見され、その特徴が明らかにされてきました。オートファジー経路の一般的な特徴には以下が挙げられます。
- 分解対象 (カーゴ) の隔離膜への隔離よるオートファジーの開始
- オートファゴソームの伸展と成熟による完全に密閉された構造の形成
- オートファゴソームとリソソームの融合
オートファジーの開始は多くの場合、細胞内のエネルギーや栄養素のセンサーであるAMPKやmTORC1によって制御されています。これらのマスターキナーゼは、オートファジーの開始に陰と陽の関係を持ち、その標的にはオートファジーキナーゼULK1があります。AMPKによってULK1のSer317やSer555など複数の部位がリン酸化されるとキナーゼが活性化されますが、mTORC1によってULK1のSer757がリン酸化されると活性が抑制されます。オートファゴソームの成熟には、ULK1の活性化と、脂質キナーゼであるクラスIIIホスファチジルイノシトール3キナーゼ (VSP34) を活性化する複数タンパク質の複合体のリクルートが必要になります。この複合体の一部であり、オートファゴソームの成熟に必要なULK1の基質にはATG13、Beclin-1、ATG14、VSP34などがあります。また、オートファゴソームの成熟には、段階的に機能する2つのユビキチン様結合システムが必要になります。
最初のステップでATG12がATG5に結合し、続いてLC3またはGABARAPファミリーメンバーにホスファチジルエタノールアミン (PE) 脂質が結合します。この第2の結合ステップは一般にタイプIIと呼ばれ、これによってオートファゴソーム膜への取り込みが可能になり、オートファジーのマーカーとしてよく利用されています。最終的にオートファゴソームの内容物は、pH感受性加水分解酵素によってリソソーム内で分解されます。リソソームの酸性化を阻害するChloroquineやBafilomycin A1などの薬剤が、オートファジーの後期段階を阻害するためによく利用されます。
オートファジーパスウェイによるオルガネラの分解
オートファジーは、単に細胞内の成分を無作為に分解するだけの現象ではありません。むしろ、特定のオルガネラや病原体、タンパク質を分解するための、練り上げられた非常に選択的なプロセスでもあります。オルガネラを分解する特異的な経路として、ミトコンドリア (マイトファジー)、小胞体 (レティキュロファジーまたはERファジー)、リボソーム (リボファジー)、ペルオキシソーム (ペキソファジー)、リソソーム (リソファジー)、核 (ヌクレオファジー) が知られており、さらにはタンパク質凝集体 (アグリファジー)、脂肪滴 (リポファジー)、細胞内病原体(ゼノファジー)なども知られています。
Ferritinなどの標的タンパク質がオートファジーで選択的に分解されることもあります (フェリチノファジー)。Ferritinは鉄代謝の制御に重要で、フェロトーシスを介して鉄依存性の細胞死を制御します。細胞成分は多くの場合、SQSTM1/p62ファミリーのようなカーゴ受容体によってオートファゴソームに取り込まれます。カーゴ受容体はLC3ファミリーメンバーと相互作用することで、標的となる内容物をオートファゴソームに結合させます。選択的オートファジーは一般に、選択された成分を標的とする特異的なカーゴ受容体の増加に相関します。
オートファジーと疾患
この10年間で、健康や疾患に関わる非選択的オートファジーと選択的オートファジーの理解が飛躍的に進みました。多くの研究で、がんに対するオートファジーのプラスとマイナスの両方の側面が報告されています。損傷した細胞小器官をオートファジーで除去することで腫瘍の発生を抑えている一方で、がん細胞は栄養不足の環境で生存するために必要なオートファジーの割合を増加させていることが多いです。オートファジーの主要遺伝子のノックアウトによる遺伝学的アプローチや、Chloroquineやその誘導体による薬理学的アプローチによってオートファジーを阻害することで、腫瘍の負担を軽減することができます。
さらに最近では、ULK1を阻害する化合物など、特異的なオートファジー阻害剤による新たな治療が開発されています。逆に、mTORC1の阻害など、別の状態ではオートファジーの誘導も臨床的に影響を持ち得ることが分かってきました。キセノファジーを介した病原体の選択的なオートファジーは、宿主防御の重要な要素です。微生物の病原性は、オートファジーの防御機構を破壊する能力の影響を受ける可能性があります。キナーゼであるTBK1のようなタンパク質が、自然免疫系の経路とオートファジーの促進に2つの役割を果たしています。
神経変性疾患においてもオートファジーの防御的な役割が共通してみられます。損傷したミトコンドリアのマイトファジーによる選択的分解は、エネルギーの恒常性維持に重要な役割を果たしていると考えられており、神経変性疾患でこの障害がよくみられます。パーキンソン病などの疾患で、PINK1やParkinなどのマイトファジーに関与するタンパク質が変異している可能性があります。この経路では、PINK1がユビキチンのSer65をリン酸化することでE3ユビキチンリガーゼParkinが活性化されてミトコンドリアにリクルートされ、オートファジーのカーゴ受容体に認識されるミトコンドリアの標的がユビキチン化されます。これらの疾患の治療のため、マイトファジーの活性化因子の同定が進められています。
オートファジー研究に用いる抗体
Cell Signaling Technologyは、オートファジー研究者のニーズを満たし、治療法の開発を進めるための完全に検証された抗体やキットを開発してきました。LC3ファミリーメンバー、カーゴ受容体に対する抗体、AMPK、mTORC1、TBK1、PINK1、ULK1などの主要なオートファジーキナーゼのリン酸化特異的抗体など、頻繁に引用されているCST抗体をオートファジーの解析にご利用いただけます。
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