2000年以来、Cell Signaling Technology (CST) は、厳密に検証済みの、数多く引用されたニトロチロシンタンパク質を認識するウェスタンブロット (WB) 用のポリクローナル抗体、Nitro-Tyrosine Antibody #9691を提供してきました。CSTは、ニトロチロシンによって特異的に制御される細胞内経路をより深く理解するための研究1,2に適したポリクローナル抗体に関する幅広い議論の結果、WBとプロテオミクス用の、同じ翻訳後修飾 (PTM) を認識する2つのリコンビナントモノクローナル抗体製品を開発しました:
これらの新たな試薬は、既存のポリクローナル製品と共に、生物学的システムにおけるニトロチロシンを探索する際の高い信頼性と機会を提供します。
自動車を光速近くまで加速させるために普及した、ナイトラス・オキサイド・システム (NOS) と間違わないでください。チロシンのニトロシル化 (NOS) は、研究室や生物学で重要な役割を果たしています。In vitroでチロシンをニトロシル化してニトロチロシン (3-ニトロチロシンとも呼ばれる) を生成する技術は、タンパク質の構造や相互作用の調査に長い間用いられてきました3,4。
常に革新的である自然界もまた、ニトロチロシンを調節する方法を見出しています。骨髄由来抑制細胞 (MDSC) は、活性窒素種 (RNS) を放出し、細胞傷害性Tリンパ球上のタンパク質をニトロシル化します。ニトロチロシンが生成されると、T細胞の活性が低下します。そのため、このPTMは細胞が免疫療法を回避する機構につながります5。
余談ですが、上述したニトロチロシンを生成するRNSは、尿酸で除去することができます。多発性硬化症などの血液脳関門の障害に関連する疾患の動物モデルでは、尿酸の投与により、血液脳関門の完全性を部分的に回復することができますが、これはニトロチロシンの生成に対する拮抗作用によるものと考えられています6。
ニトロチロシンについての紹介は、もう1つのチロシンのPTM:ホスホチロシン (図1B) についての言及なしには終われません。Lynチロシンキナーゼを含むSrcファミリータンパク質チロシンキナーゼ (SFK) では、SH2 (Src homology 2) ドメインが酵素活性を負に自己制御しています。SH2ドメインの決まった部位にホスホチロシンまたはニトロチロシンが形成されると、阻害が妨げられ、キナーゼ活性が活性化されます7
ニトロチロシンまたはホスホチロシンのアッセイに特異的な試薬を用いることにより (ホスホチロシンはPhospho-Tyrosine (P-Tyr-1000) MultiMab™ Rabbit mAb mix #8954の使用を推奨)、自然に存在するこれら2種類のPTMの役割が明らかにできるかもしれません。
特定のPTMを含む多くの基質に対して幅広い反応性を持つ汎PTM抗体については、複数の抗原を検出できることから、モノクローナル抗体よりもポリクローナル抗体の方が好まれることがあります。しかし、CSTの革新的なPTMScan®製品ラインの開発に用いられる抗原のデザインと抗体スクリーニングのプロセスは、特定のPTMを含む多くの基質を認識する能力といった独特な特徴を持つモノクローナル抗体を発見することができます。そのため、研究者は、モノクローナル抗体を用いる利点、すなわち抗体結合の安定性を享受しながら、単一の特異的なPTMを検出することができます。
ニトロチロシンについては、CSTは、RNS試薬であるPeroxynitriteで処理した細胞に含まれる多くの修飾タンパク質を認識する、WB用のモノクローナル抗体Nitro-Tyrosine (D2W9T) Rabbit mAb #92212を開発しました。PTMの特異性は2種類の方法で評価しました:
図2: モノクローナル抗体Nitro-Tyrosine (D2W9T) Rabbit mAb #92212を用いてウェスタンブロットで解析しました。未処理 (レーン1) またはPeroxynitrite処理 (レーン2) したHela細胞を、試薬未使用 (A)、または縮重ニトロチロシンペプチドライブラリー (B)、縮重ホスホチロシンペプチドライブラリー (C) を用いてブロックしました。
図3:未処理 (レーン1)、またはPeroxynitrite (レーン2)、Sodium dithionite (レーン3) 処理したHeLa細胞の抽出物を、モノクローナル抗体Nitro-Tyrosine (D2W9T) Rabbit mAb #92212を用いてウェスタンブロットで解析しました。
ニトロチロシンに対して特異的であることに加え、モノクローナル抗体は特定の配列を認識するため、製造時のトレーサビリティが容易であるという利点もあります。
WB試薬は、ニトロチロシンレベルを評価する便利な方法を提供しますが、ニトロチロシンタンパク質の明確な同定や、タンパク質上の個々の修飾部位の識別は困難です。ニトロチロシンを持つタンパク質と特定のニトロチロシン部位を同定するには、ニトロチロシンの濃縮が不可欠です。ニトロチロシン特異的抗体を用いてPTM含有ペプチドを濃縮するという構想は、1970年代に、ポリクローナル抗体を固定化したカラムを用いてin vitroでニトロシル化タンパク質からトリプシン処理したペプチドを濃縮することにより、初めて実証されました9。
この構想の、より新しいバージョンがPTMScan技術です。これは、PTM特異的抗体を用いた、カラム形式ではなく使いやすいビーズ懸濁液内で修飾ペプチドの濃縮を行うための、CSTが開発したワークフローです。PTMScanで濃縮したペプチドは、液体クロマトグラフィー質量分析法 (LCMS) で分析します。
関連リソース:プロテオミクス解析における革命:20年後のPTMScan
CSTは、ニトロチロシンペプチド濃縮用のPTMScan抗体-ビーズ製品であるPTMScan®Nitro-Tyrosine Motif [Nitro-Y] Kit #44462を発売しました。PTMScanアッセイは、WBアッセイに比べてより多くの試料を必要としますが (マイクログラムに対してミリグラム)、ニトロチロシン修飾部位を明確に同定・定量できる能力は、非常に貴重な利点となります。さらに、ニトロチロシン濃縮後に残ったペプチドサンプル (フロースルー) は、その後のPTMScanアッセイのインプットとして用いることができ、特定の研究において標的となるその他のPTMをモニタリングすることができます。CSTとデューク大学医学部との共同研究プロジェクトでは、このような連続的なPTMScan実験の例を報告しています。
PTMScanニトロチロシンイムノアフィニティービーズを用いて、10 mgのHCT116細胞のインプットペプチドから数百もの固有のニトロチロシン部位を同定することができます (図4)。この同定された部位のシーケンスモチーフ解析から、抗体は隣接するアミノ酸に対してほとんどバイアスを持たないことが示唆されました。したがって、PTMScanニトロチロシンイムノアフィニティービーズは、様々な生物種 (すなわちマウス、ヒト) のニトロチロシン部位を分析するのに適した試薬です。
研究者は、がんや神経変性、そしておそらく酸化ストレスが関与するその他の疾患において、ニトロチロシンの影響を受ける経路の特性解析を続けています。WBやプロテオミクスの実験に有効な新たなモノクローナル試薬により、このPTMの機能に関する仮説を立て、検証するために、より包括的な戦略を採用することができます。
抗体製品 |
アプリケーション |
Nitro-Tyrosine Antibody #9691 |
WB |
Nitro-Tyrosine Antibody (D2W9T) Rabbit mAb #92212 |
WB |
Phospho-Tyrosine (P-Tyr-1000) MultiMab™ Rabbit mAb mix #8954 |
WB, IP, IF, F |
PTMScan® Nitro-Tyrosine Motif [Nitro-Y] Kit #44462 |
Proteomics |