ヒトの造血幹細胞 (HSC:Hematopoietic stem cell) は、段階的な系統分化の過程を経て、全ての種類の血液細胞を絶えず供給しています。このプロセスは、リンパ系共通前駆細胞 (CLP:Common lymphoid progenitor) と骨髄系共通前駆細胞 (CMP:Common myeloid progenitor) の産生に始まり、その後、様々な刺激に応答してさらに分化が進行します。CLPはさらに、免疫において重要な役割を果たす特殊なリンパ球細胞に分化します。
関連ブログ:骨髄系細胞とその特定方法
リンパ系細胞には、適応免疫に関与するT細胞やB細胞、自然免疫系の一部であるナチュラルキラー細胞 (NK細胞) などがあります。
様々なリンパ系細胞が、健常状態や疾患状態においてどのように機能するかを研究するために、不均一な細胞集団から特定の細胞サブタイプを検出して定量する必要があります。細胞タイプに特異的なマーカーに対する抗体を利用した、フローサイトメトリーや免疫組織化学染色 (IHC) などの手法で、目的の細胞を可視化することができます。
一般的なマーカーは、CD (Cluster of differentiation) 分子、転写因子、ケモカイン受容体にクラス分けすることができます。
最終分化したリンパ系細胞は免疫応答において次のように様々な役割を果たします。
リンパ系細胞の大まかな小分類 (サブセット) は1 - 2種のマーカーを利用することで識別することができますが、それぞれのサブセットの中で特定のタイプの細胞を同定する場合、多くは特定のマーカー群を検出する必要があります。
すべてのT細胞はCD3を発現しますが、細胞傷害性T細胞とヘルパーT細胞 (Th) に分化すると、これらの細胞はそれぞれCD8とCD4を発現します。
|
|
以下のマーカーを用いて、ヘルパーT (Th) 細胞をさらに細分化できます。例えば:
Treg:パラフィン包埋ヒト扁桃組織を、リコンビナントモノクローナル抗体FoxP3 (D2W8E) Rabbit mAb #98377を用いてIHCで解析しました。
B細胞は、T細胞と同様に、たった1種類のマーカー (CD19) を利用して特定されます。しかし、ナイーブB細胞、プラズマ細胞、メモリーB細胞を区別するには、異なるマーカーを組み合わせて検出する必要があります。
以下のマーカーを用いて、B細胞をさらに細分化できます。
NK細胞もメモリーB細胞と同様、細胞の機能によってマーカーの発現に違いがみられます。一般的に、成熟したNK細胞と未熟なNK細胞はCD56 (NCAM1とも呼ばれる) またはNKG2Aを用いて識別することができますが、異なる機能プロファイルを持つサブセットは、CD16、NCR、TCR Vα24 Vβ11などの追加のマーカーを発現する場合があります。また、細胞傷害性応答を調節する活性化受容体と抑制性受容体の発現によっても、その機能状態は影響を受けます。
以下のマーカーの組み合わせは、NK細胞の機能的サブセットを特定するのに役立ちます。
T細胞は、T細胞受容体 (TCR) が病原性抗原を認識し結合すると活性化されます。各々の細胞のTCRは異なる抗原に親和性を持っているため、抗原認識において、T細胞や適応免疫系は高度に専門化されています。
T細胞受容体が抗原に結合すると、一連の細胞内シグナル伝達経路が活性化され、T細胞の活性化が起こります。その後、TCRを発現するT細胞は、このように抗原を認識することで自己増殖します (したがって、同一抗原を認識するT細胞の数が増えます)。こうして感染した細菌や寄生生物など有害な抗原に対処が可能な細胞のプールを拡大します。
TCRシグナル伝達に関与する分子の理解は、免疫腫瘍学の基礎となっています。免疫腫瘍学では、T細胞の活性化と持続性を高めることを目的とした治療法が研究されています。上記のマーカーを使用して、その結果生じた細胞亜集団を同定することは、基礎研究と治療開発の両方で免疫応答を特性解析する上で不可欠です。
フローサイトメトリーまたはIHCに最適化された、ヒトおよびマウスの免疫細胞の主要な細胞および機能状態マーカーの探索に、免疫細胞マーカーガイドをダウンロードしてご活用ください。
免疫学シリーズのブログをさらにチェックして、もっと詳しく学んでください:
2025年4月更新。本ブログ記事は、2022年1月に公開されています。25-ICT-56550