ヒトにおいて、造血幹細胞 (HSC:Hematopoietic stem cell) は、段階的な系統分化の過程を通じて、全ての種類の血液細胞を絶えず供給しています。このプロセスは、リンパ系共通前駆細胞 (CLP:Common lymphoid progenitor) と骨髄系共通前駆細胞 (CMP:Common myeloid progenitor) の産生に始まり、その後、様々な刺激に応答してさらに分化が進行します。CLPはさらに、免疫において重要な役割を果たす特殊なリンパ球細胞に分化します。
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リンパ系細胞の種類
リンパ系細胞には、適応免疫に関与するT細胞やB細胞、自然免疫系の一部であるナチュラルキラー細胞 (NK細胞) などがあります。
様々なリンパ系細胞が、健常状態や疾患状態においてどのように機能するかを研究するために、不均一な細胞集団から特定の細胞サブタイプを検出して定量する必要があります。細胞タイプに特異的なマーカーに対する抗体を利用した、フローサイトメトリーや免疫組織化学染色 (IHC) などの手法で、目的の細胞を可視化することができます。
一般的なマーカーは、CD (Cluster of differentiation) 分子、転写因子、ケモカイン受容体にクラス分けすることができます。
リンパ系細胞の機能の概要
最終分化したリンパ系細胞は免疫応答において次のように様々な役割を果たします。
- 細胞障害性T細胞 (CD8陽性細胞) は、T細胞受容体 (TCR) で特異的な抗原を認識すると、細胞傷害顆粒を放出して感染した細胞や悪性腫瘍細胞を殺傷します。また、この細胞は、長期間生存する記憶細胞を形成することができます。
- ヘルパーT (Th) 細胞 (CD4陽性細胞) も、TCRで抗原を認識することで活性化されます。この細胞は、サイトカインの分泌や細胞表面に発現する免疫調節受容体を介して他の細胞の機能に影響を及ぼすことで、免疫応答を調整します。細胞障害性T細胞と同様に、ヘルパーT細胞も長期間生存する記憶細胞を形成することができます。
- B細胞は、抗体を発現する細胞で、標的となる抗原に遭遇すると急速にクローンを拡張し、短命な形質細胞と持続的なメモリーB細胞を形成します。
- NK細胞は、感染した細胞や悪性腫瘍細胞を殺傷します。感染した細胞や形質転換した細胞が発現するリガンドに結合する活性化受容体からのシグナルと、MHC I分子に結合する抑制受容体からのシグナルのバランスによって、細胞傷害活性が制御されます。
リンパ系細胞の種類とマーカー
リンパ系細胞の大まかな小分類 (サブセット) は1 - 2種のマーカーを利用することで識別することができますが、それぞれのサブセットの中で特定のタイプの細胞を同定する場合、多くは特定のマーカー群を検出する必要があります。
T細胞マーカー
すべてのT細胞は、CD3を発現しますが、細胞傷害性T細胞とヘルパーT細胞に分化すると、これらの細胞はそれぞれCD8とCD4を発現します。
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以下のマーカーを用いて、ヘルパーT (Th) 細胞をさらに細分化できます。例えば:
- Th1細胞は、T-BetとIFNγの発現により同定できます。
- Th2細胞は、GATA-3とIL-4の陽性染色が見られます。
- Th17細胞は、RORγtとIL-17の両方を発現します。
- 制御性T細胞 (Treg) は、FoxP3とCD25の発現により特定できます。
Treg:パラフィン包埋ヒト扁桃組織を、リコンビナントモノクローナル抗体FoxP3 (D2W8E) Rabbit mAb #98377を用いてIHCで解析しました。
- 濾胞性ヘルパーT細胞 (Tfh) は、Bcl-6、CXCR5、IL-21を発現します。
- γδT細胞は、γ鎖とδ鎖からなるヘテロ二量体T細胞受容体を発現する、CD3陽性T細胞の非従来型サブセットです。αβ鎖のTCRを発現する通常のT細胞とは異なり、γδT細胞はCD4かCD8の共受容体のいずれも発現しておらず、末梢血中の存在量は非常に少量です。この細胞は、粘膜上皮組織に定在する傾向があり、細胞ストレスや変異に応じて発現量が増加する抗原を、古典的なMHC拘束とは異なる方法で認識します。
γδT細胞:パラフィン包埋ヒト胸腺組織を、リコンビナントモノクローナル抗体TRDC/TCRδ (E2E9T) XP® Rabbit mAb #55750を用いてIHCで解析しました。
B細胞マーカー
B細胞は、T細胞と同様に、たった1種類のマーカー (CD19) を利用して特定されます。しかし、ナイーブB細胞、プラズマ細胞、メモリーB細胞を区別するには、異なるマーカーを組み合わせて検出する必要があります。
B細胞:パラフィン包埋ヒト扁桃組織を、リコンビナントモノクローナル抗体CD19 (Intracellular Domain) (D4V4B) XP® Rabbit mAb #90176を用いてIHCで解析しました。
以下のマーカーを用いて、B細胞をさらに細分化できます。
- ナイーブB細胞は、IgD陽性、CD27陰性です。さらに、CD24とCD38は、トランスジショナルB細胞とナイーブB細胞のマーカーとして使用できます。
- 形質細胞は、BCMA、CD138、またはCXCR4のいずれかを用いて特定できます。CD10は、ヒトの形質細胞マーカーとしても使用できます。
形質細胞:パラフィン包埋ヒト結腸組織を、リコンビナントモノクローナル抗体TNFRSF17/BCMA (E6D7B) Rabbit mAb #88183を用いてIHCで解析しました。
- メモリーB細胞はクラススイッチの前後でIgDとCD27の発現が異なり、クラススイッチを受けた細胞はIgD- CD27+、受けていない細胞はIgD+ CD27+となります。
NK細胞マーカー
NK細胞もメモリーB細胞と同様、細胞の機能によってマーカーの発現に違いがみられます。一般的に、成熟したNK細胞と未熟なNK細胞はCD56 (NCAM1とも呼ばれる) またはNKG2Aを用いて識別することができますが、異なる機能プロファイルを持つサブセットは、CD16、NCR、TCR Vα24 Vβ11などの追加のマーカーを発現する場合があります。また、細胞傷害性応答を調節する活性化受容体と抑制性受容体の発現によっても、その機能状態は影響を受けます。
NK細胞:パラフィン包埋ヒト腎細胞がん組織を、リコンビナントモノクローナル抗体のNCAM1 (CD56) (E7X9M) XP® Rabbit mAb #99746を用いて、IHCで解析しました。
以下のマーカーの組み合わせは、NK細胞の機能的サブセットを特定するのに役立ちます。
- 未熟なNK細胞は、未熟なNK細胞受容体を標的とするNKG2Dによって識別することができます。
- 成熟度の低いサイトカイン産生NK細胞は、CD56に対する強い明るいシグナルと、CD16に対する陰性/シグナルなしという特徴を持っています。
- 成熟した細胞傷害性NK細胞は、CD56シグナルが弱く、CD16シグナルが陽性であることで識別できます。
T細胞の活性化とT細胞受容体 (TCR) シグナル伝達
T細胞は、T細胞受容体 (TCR) が病原性抗原を認識し結合すると活性化されます。各々の細胞のTCRは異なる抗原に親和性を持っているため、抗原認識において、T細胞や適応免疫系は高度に専門化されています。
T細胞受容体が抗原に結合すると、一連の細胞内シグナル伝達経路が活性化され、T細胞の活性化が起こります。その後、TCRを発現するT細胞は、このように抗原を認識することで自己増殖します (したがって、同一抗原を認識するT細胞の数が増えます)。こうして感染した細菌や寄生生物など有害な抗原に対処が可能な細胞のプールを拡大します。
TCRシグナル伝達に関与する分子の理解は、免疫腫瘍学の基礎となっています。免疫腫瘍学では、T細胞の活性化と持続性を高めることを目的とした治療法が研究されています。上記のマーカーを使用して、その結果生じた細胞亜集団を同定することは、基礎研究と治療開発の両方で免疫応答を特性解析する上で不可欠です。
免疫細胞マーカー経路ガイド
フローサイトメトリーまたはIHCに最適化された、ヒトおよびマウスの免疫細胞の主要な細胞および機能状態マーカーの探索に、免疫細胞マーカーガイドをダウンロードしてご活用ください。
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2025年4月更新。2022年1月発行。25-ICT-56550