免疫蛍光染色4回シリーズのパート4です。パート1:検証の重要性、パート2:固定処理と透過化処理、パート3:実験コントロールをご覧ください
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サンプルの調製が終わったら、次は免疫蛍光染色に欠かせない確実に検証された抗体を使いインキュベートします。IF実験に習熟されている研究者なら、恐らくはデータシートやWebページで推奨希釈率を確認されることでしょう。しかし、こうした情報がどのような根拠によるものか、疑問に思ったことはありませんか?
CSTは、バックグラウンドを最小限に抑えつつ最適なシグナルを得ることができる推奨希釈率を提示するため、陽性細胞株と陰性細胞株を用いて日常的にタイトレーションを行っています。標的タンパク質を発現しない細胞のバックグラウンドノイズ (Negative Mean Fluorescence Intensity, MFI(-)) と、目的の標的タンパク質を発現する細胞における蛍光輝度 (Positive Mean Fluorescence Intensity, MFI(+)) を比較することにより、シグナル/ノイズ (S/N) 比を算出することができます。
下図はMucin-1 (MUC-1) 抗体を用いたタイトレーションの一例です。赤枠で囲まれているのが最適濃度/ 推奨希釈率です。Mucin-1を発現するZR-75-1細胞を上段に、Mucin-1を発現しないHCT 116細胞を下段に示しました。赤枠で囲まれた推奨希釈率では、ZR-75-1細胞で高いシグナルが観察され、HCT 116細胞ではほとんどバックグラウンド (すなわちノイズ) が観察されません。
IF解析のための#14161 MUC1 (D9O8K) XP®Rabbit mAb濃度の最適化。ZR-75-1細胞 (MUC1陽性、上段) とHCT 116細胞 (MUC-1陰性、下段) の共焦点IF解析:#14161 (緑) を記載の希釈率で染色。赤色はPropidium Iodide (PI)/RNase Staining Solution #4087による染色像です。
ZR-75-1細胞のMFI(+)、HCT 116細胞のMFI(-)、MFI(+) をMFI(-) で割り算したS/N比を示したプロットを下図に示します。
#14161 MUC1 (D9O8K) XP® Rabbit mAbの希釈に応じたS/N比の解析。標的タンパク質を発現するZR-75-1細胞 (MFI(+) 、オレンジ) と発現しないHCT 116細胞 (MFI-、青) の平均蛍光強度 (Mean Fluorescence Intensity:MFI) の定量結果と、S/N比 (緑) を示しています。
抗体の濃度が低すぎる場合、蛍光シグナルが不鮮明になり、バックグラウンドノイズと区別ができなくなります。反対に、濃度が高すぎるとバックグラウンドレベルが上昇してS/N比は低下します。推奨希釈液は、製品のデータシートでご確認ください。
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CSTの一次抗体の希釈率は、すべて4°Cで一晩反応させることを前提に設定されています。ただし、CST抗体が短時間のインキュベーションで機能しないわけではありません。自動化されたプラットフォームでは、短時間のインキュベーションがしばしば行われています。反応時間の短さを補うために、一次抗体濃度を高くすることも可能ですが、これにはコストがかかります。
また、反応温度も変更する必要があります。次に紹介するのは、反応時間ならびに温度が、シグナル強度に与える影響を調べた実験です。
間葉系のSNB-19細胞は、中間径フィラメントのVimentinを発現しますが、接着分子であるE-Cadherinを発現しません。一方、上皮系のHT-29細胞は、E-Cadherinを発現しますがVimentinは発現しません。両細胞株について、Vimentin (D21H3) XP Rabbit mAb #5741とE-Cadherin (24E10) Rabbit mAb #3195を用いて、推奨希釈率で様々な温度と一次抗体のインキュベーション時間で試験しました。
Vimentin陽性のSNB-19細胞における#5741 Vimentin (D21H3) XP Rabbit mAbのシグナル強度は、推奨反応条件である4°C/一晩の条件において最適なシグナルレベルが認められた一方で、高温/短時間の反応ではシグナルが著しく低下しました。比較対象として、Vimentin陰性のHT-29細胞を#5741で一晩染色したデータも示しています。
Vimentin陽性SNB-19細胞およびVimentin陰性HT-29細胞の共焦点IF解析:#5741 Vimentin (D21H3) XP® Rabbit mAb (白) で染色。推奨希釈率での一次抗体のインキュベーションを、4°C、21°C、37°Cで、1時間、2時間または一晩 (O/N) 実施しました。CSTが推奨する一次抗体反応条件下 (4°C、一晩) ではバックグラウンドがほとんどなく、最大のシグナルが得られました (赤枠内)。青= Hoechst 33342 #4082 (蛍光DNAダイ)。
Vimentin陽性細胞におけるVimentin (D21H3) XP Rabbit mAb #5741のシグナルレベルのハイスループットレーザー走査型イメージングサイトメーターによる定量解析によって、MFI(+) がO/Nインキュベーション (左下図) で増加することが示されます。1時間または2時間のインキュベーションでは、温度を上げることでMFI(+) とS/N比が上昇するものの、O/Nインキュベーションに匹敵するほどではありません。
E-cadherin (24E10) Rabbit mAb #3195については、#5741ほど顕著ではありませんが、4℃と21℃においてO/NインキュベーションでMFI (+) とS/N比が上昇します (右下図)。興味深いことに、温度上昇 (37ºC) は、O/NインキュベーションにおけるMFI (+) とS/N比の低下をもたらしており、これは抗原内のエピトープと抗体の結合の喪失によるものと考えられます。この現象がVimentin抗体で観察されないのは、おそらくVimentin中間径フィラメントの安定性が高いためと考えられます。#3195のS/N比がもっとも高くなるのは高温でインキュベーションした時ですが、4℃でO/Nインキュベーションも最適条件に近く、S/N比は十分に良好です。
すべての抗体が温度やインキュベーション時間の変更に対して同じ応答を示す訳ではありません。より短いインキュベーション時間に興味のある研究者にとっては (例えば多検体のハイスループット解析を行う方)、このようなタイプの最適化を行うことはとても有益なことです。インキュベーション時間を短縮したり、温度を変更する際には、標的タンパク質の存在量や抗体の安定性を慎重に考慮する必要があります。
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