CSTブログ: Lab Expectations

Cell Signaling Technology (CST) の公式ブログでは、実験中に起こると予測される事象や実験のヒント、コツ、情報などを紹介します。

免疫蛍光染色の成功のために:固定処理と透過化処理

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免疫蛍光染色の成功、4回シリーズのパート3です。パート1:検証の重要性およびパート2:実験コントロールもご覧ください。

信頼できる免疫蛍光染色 (IF) 結果を得るには、抗体の性能が大変重要です。同じく、抗体を取り入れる前の生体サンプル (実験で使用する細胞または組織) の準備も重要です。サンプルの固定処理および透過化処理は、実験の成否を決める重要なステップです。理想的な固定液を用いれば、クロスリンクと内在性酵素の阻害によって、自己融解による分解を迅速に停止させ、「生きていた時のような」画像を得ることができます。 

CSTの科学者は、固定化と透過化プロトコールを様々な条件で行い、各抗体について最適なシグナルが得られる組み合わせを決定していますので、お客様自身で検討いただく必要がありません。

本記事では、最高のパフォーマンスを発揮するプロトコールが抗体によって異なる例をご紹介します。

細胞の固定:ホルムアルデヒドとアルコール固定の選択

ホルムアルデヒドやホルマリン (溶解したホルムアルデヒドと低濃度メタノールの混合物)、グルタルアルデヒドなどのアルデヒドベースの固定液が最もよく使われています。CSTは、ほとんどの抗体に対して4%ホルムアルデヒドでの固定化を推奨しています。これについては、ホルムアルデヒド固定の免疫蛍光染色プロトコールで詳しく説明しています。アルデヒドは、細胞のタンパク質に反応してクロスリンクすることでサンプルを安定化し、強固にします。アルデヒドは細胞膜を透過して可溶性タンパク質をアルコールよりよく固定しますが、アルデヒドによるクロスリンクで抗原性を失う標的もあります。

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メタノールに代表される脱水/変性固定液は、細胞の高分子の周りの水分を除去することで、生体内で高分子を変性、凝集させます。標的タンパク質の変性により、通常は埋没しているエピトープが外側に現れることがあるため、このアプローチは一部の抗体に対して有効な方法となっています。しかし、脱水固定液は可溶性の抗原や修飾状態に特異的な抗体 (リン酸化特異的抗体など) にはあまり適しません。製品データシートで最適の固定法を確認してください。

CSTの免疫蛍光染色プロトコール

ホルムアルデヒド固定とメタノール固定の比較

HeLa細胞を異なる固定化プロトコールで固定した比較実験により、Keratin 8/18 (C51) Mouse mAb #4546にはメタノール固定が最適であることがわかります。一方、AIF (D39D2) XP® Rabbit mAb #5318にはホルムアルデヒド固定が最適です。

ホルムアルデヒドとメタノール固定の比較

HeLa細胞をホルムアルデヒド固定 (左) またはメタノール固定 (右) 後にKeratin 8/18 (C51) Mouse mAb #4546 (緑、上図) または AIF (D39D2) XP® Rabbit mAb #5318 (緑、下図) で免疫蛍光染色して共焦点顕微鏡で解析しました。赤色はPropidium Iodide (PI)/RNase Staining Solution #4087による染色像です。

マルチプレックス化のための固定と透過化

CSTで推奨するプロトコールが異なる抗体を用いて多重染色する場合、どの抗体を最適条件で使用するか、優先順位を付ける必要がある場合があります。スモールスケールの実験で様々なプロトコールを比較した後、実験規模を拡大することをお勧めします。

透過化:界面活性剤またはアルコールの選択

クロスリンク固定液で固定を行った場合、細胞膜は無傷のまま残り、抗体は細胞内抗原にアクセスすることができません。したがって、細胞外エピトープを認識する抗体を除いて、クロスリンク固定の後に透過化処理をする必要があります。CSTのIFスタンダードプロトコールでは、固定後に、ブロッキングのステップと同時にTritonTM X-100による透過化を行う方法を採用しています。TritonならびにNP-40、TWEEN、Saponin、Digitonin、DOTMACといった他の界面活性剤は、細胞膜から様々な分子を除去して、細胞内への抗体のアクセスを可能にするサイズの「小孔」を開けます。

一方、固定化ステップの後、エタノールやメタノールなどのアルコールで透過化処理をすることもあります。これは、クロスリンク固定液による迅速固定と、アルコールによる変性処理を組み合わせた方法です。これによって一部の標的のシグナルが改善することがあり、特にオルガネラや細胞骨格に結合する標的に有効です。以下に示すように、メタノール透過化処理によって染色性が改善する抗体もいくつかあります。 

Triton X-100とメタノールによる透過化処理の比較

PDI (C81H6) Rabbit mAb #3501β-Actin (8H10D10) Mouse mAb #3700にはメタノール透過化処理が最適:NIH/3T3細胞の共焦点IF解析。NIH/3T3細胞を0.3% Triton® X-100 (左) またはメタノール (右) で透過化処理し、#3501 (緑) および#3700 (赤)で免疫蛍光染色して共焦点顕微鏡で解析しました。DRAQ5® #4084 (DNA蛍光染色試薬) の染色像を青の疑似カラーで示しました。

 固定処理と同様に、最適な透過化処理方法も抗体の種類によって異なります。推奨される方法については、CSTの製品データシートを参考にされるか、ご質問がある場合にはCSTにご連絡ください

免疫蛍光染色実験を成功に導く参考事例

より多くのIF染色のヒントは、本記事でご紹介したすべてのプロトコールが掲載された上に、より多くの有益なヒントが掲載された、以下の包括的な免疫蛍光染色の成功のためのガイドをダウンロードしてください。

 

当社では抗体の推奨希釈率を、どのように決めているかお考えになったことはありますか?このシリーズの最後の投稿、パート4:抗体の希釈とインキュベーションの条件をお読みください。

 

追加リソース:

免疫蛍光染色を成功させるためのさらなるヒントについては、以下のブログをご覧ください。

「免疫蛍光染色の成功のために」シリーズをすべてご覧ください: 

Kenneth Buck, PhD
Kenneth Buck, PhD
細胞生物学を学んだKenは、ラトガース大学で博士号を取得し、その後イェール大学でポスドク研究を行い、再生する神経細胞の細胞運動性に関与する細胞骨格の動態とシグナル伝達機構について学びました。CSTでは、他の科学者と協働してマルチメディアによる科学コミュニケーションを構築しています。ビデオのスクリプトを書いているときや、スタジオにいるとき以外は、Kenの庭ともいえる岩でごつごつしたマサチューセッツ州ノースショアで、同僚と共にマウンテンバイクを乗り回しています。

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