パーキンソン病 (PD) は、中脳黒質ドーパミン作動性神経細胞内に折り畳み構造が異常なα-Synucleinタンパク質が凝集してレビー小体を形成することを特徴とする、進行性で着実に悪化する神経変性疾患です。このレビー小体の蓄積は、最終的に神経細胞の破壊につながります1,2 。
PDでは、症状が目に見える頃にはすでに様々な細胞内経路が撹乱されており、特にオートファジーやマイトファジーに関連する経路の機能不全が、何年もかけて徐々に運動機能を低下させる一因となっています。世界中で1,000万人以上がPDに罹患しており、米国における医療費が年間520億ドルを超える現状において、より早期かつ正確な診断法の必要性が、かつてないほどに高まっています3,4。
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現在、パーキンソン病には確定診断が確立されていません。そのため、神経科医は患者の病歴、運動症状、画像診断、治療薬への応答を基に診断します。しかし、主な症状が現れる前に疾患を検出できるとしたらどうでしょうか?それを可能にするのが、タンパク質と遺伝子の両方のバイオマーカーです。これらのバイオマーカーは、疾患進行の初期段階における信頼できる生物学的シグナルの特定や、PDの病因となる細胞レベルおよび分子レベルのメカニズムの解明に役立ちます。
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レビー小体関連タンパク質
折り畳み構造に異常があるタンパク質が凝集してできるレビー小体は、シナプス放出やミトコンドリア機能などといった神経プロセスを阻害します。その中心となるタンパク質が、PDに関連する主なタンパク質であるα-Synucleinです。
#1:α-Synuclein
α-Synucleinは、小胞輸送に含まれるシナプス前タンパク質です。その折り畳み構造に異常が生じると、パーキンソン病の病理学的な特徴の1つであるレビー小体を形成します。このタンパク質は、PDを特定し、潜在的な治療法を評価するための重要なバイオマーカーとなっています。
2023年、Michael J Fox財団は、脳脊髄液サンプル内の折りたたみ構造に異常があるα-Synucleinを検出する、α-Synucleinシード増幅アッセイを公開しました。このアッセイは、運動症状が現れる前のPD患者の87%を正確に特定できたため、α-Synucleinを標的とするモノクローナル抗体療法に大きな関心が集まり、現在いくつかの企業がこれらの治療法を研究しています5 。
#2:リン酸化α-Synuclein
Synucleinはパーキンソン病の中で最も研究されているタンパク質の1つであり、それには十分な理由があります。レビー小体に見られるα-Synucleinの90%以上がリン酸化されているため、リン酸化α-SynucleinはPDの強力な指標となります。このタンパク質は、脳脊髄液中で検出可能であり、研究者は潜在的なバイオマーカーとして、そしてPDの診断法としての可能性について積極的に調べています6 。
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α-Synucleinのリン酸化状態の評価に役立つ抗体製品をご覧ください: • PhosphoPlus® α-Synuclein (Ser129) Antibody Duet #29087 |
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#3:DOPA decarboxylase (DDC)
DOPA decarboxylase (DDC) は、L-DOPAの脱炭酸反応を触媒し、ドーパミンを生成するホモ二量体の酵素です。近年、DDCは、PD患者の脳脊髄液および尿で上昇していることが分かり、DDC値の上昇の検出によりPD患者とアルツハイマー病患者を区別できる可能性が出てきました7。 このように、DDCは、PDと他の神経変性疾患の区別に使用できるかもしれない潜在的なバイオマーカーです。
#4:Glucocerebrosidase (GCase/GBA)
もともとはゴーシェ病と関連するとされていたGCaseは、レビー小体形成と密接に関連していることから、PD研究において関心を集めています。GCaseをコードするGBA遺伝子の突然変異は、PDとレビー小体型認知症の両方の重大な危険因子であると考えられています。
免疫したgba+/+マウスおよび gba-/-マウスの神経細胞抽出物を、GCase/GBA (E2R1L) Rabbit mAb #88162 (上)またはβ-Actin (D6A8) Rabbit mAb #8457 (下) を用いてウェスタンブロット (WB) で解析しました。免疫したgba+/+マウスおよびgba-/-マウスの神経細胞は、米国国立衛生研究所の国立ヒトゲノム研究所に所属する医師であるEllen Sidransky博士のご厚意により提供いただきました。
GCaseは、糖脂質を分解するリソソーム酵素です。GBAに突然変異が生じると、このプロセスが撹乱され、PDの特徴であるα-Synucleinの凝集が誘導されます。その重要な役割から、GBA遺伝子置換療法は、潜在的な治療法として検討されており、現在1つの臨床試験 (NCT04127578) が進められています8。
ミトコンドリアの制御
ミトコンドリアは、ATPを非常に効率よく生産します。分裂や融合、マイトファジーを介したリサイクルにより、常に健康なミトコンドリアが維持されています。しかしPDでは、レビー小体がこれらのプロセスを阻害し、神経細胞障害の主な原因であるミトコンドリアの機能不全を引き起こします。ミトコンドリアの制御に関与するタンパク質のいくつかはレビー小体による影響を受けるため、これらはPD研究における貴重なバイオマーカーかつ潜在的な創薬標的となります。
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関連する抗体およびSamplerキットをご覧ください: • Mitophagy Antibody Sampler Kit #43110 |
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#5:Parkin
Parkinは、ミトコンドリアのリサイクリングをサポートするユビキチンリガーゼです。PINK1によりリン酸化されると、マイトファジーによる損傷したミトコンドリアの除去を促進します。Parkin遺伝子の突然変異は、若年性PDと関連しており、Parkinが疾患進行における重要な役割を担っていると考えれらえます。このように、Parkinの同定はPDにおけるミトコンドリアの役割の理解に役立ちます9。
#6:リン酸化PINK1 (Ser228)
PINK1は、ミトコンドリアの健全性を制御するセリン/スレオニンキナーゼです。ミトコンドリアが酸化ストレスなどにより損傷を受けると、PINK1がリン酸化され、続いてParkinがリン酸化されることよりマイトファジーが開始されます。PINK1の突然変異は、このプロセスを撹乱し、ミトコンドリアの蓄積とさらなる神経への損傷につながります。リン酸化PINK1は、神経細胞における酸化ストレスのマーカーであり、PDの病態を理解するための重要なツールとなります9 。
#7:DJ-1
DJ-1は、抗酸化剤として機能し、ミトコンドリアを酸化ストレスから保護する酸化還元感受性タンパク質です。DJ-1の突然変異は、若年性PDと関連しています。
野生型MEF細胞、DJ-1 (-/-) MEF細胞、HeLa細胞、C6細胞の抽出物を、DJ-1 (D29E5) XP® Rabbit mAb #5933 (上) および β-Actin (D6A8) Rabbit mAb #8457 (下) を用いてWBで解析しました。野生型MEF細胞とDJ-1 (-/-) MEF細胞は、ドイツのチュービンゲン大学のPhilipp Kahle博士のご厚意により提供いただきました。
神経細胞の健康と維持
折り畳み構造に異常があるタンパク質の除去と神経細胞の恒常性の維持には、いくつかのタンパク質が関与しています。これらのプロセスが機能不全になると、PDなどの神経変性疾患が引き起こされます。いくつかの鍵となるタンパク質が、神経細胞を保護して老廃物を適切に除去する役割を担っており、脳の支持細胞であるアストロサイトもまた、神経細胞の健康と疾患の進行に影響を及ぼしています。
#8:UCHL1
Ubiquitin carboxyl-terminal hydrolase L1 (UCHL1) は、様々なタンパク質を分解するための基質となるユビキチンプールを維持する、脱ユビキチン化酵素です。神経細胞で高発現しており、折り畳み構造に異常があるタンパク質から神経細胞を保護しています。しかし、このタンパク質は突然変異や酸化ストレスによりその機能を失います。近年、PDの病態生理に関与することが示唆されています11。

ラット小脳組織を、UCHL1 (D3T2E) XP® Rabbit mAb #13179 (緑) および GFAP (E8S7G) Mouse mAb #95717 (赤) を用いてIFで解析しました。未結合の二次抗体結合部位をRabbit (DA1E) mAb IgG XP® Isotype Control #3900でブロックした後、組織をIba1/AIF-1 (E4O4W) XP® Rabbit mAb (Alexa Fluor® 647 Conjugate) #78060 (シアンの疑似カラー) で染色し、 ProLong® Gold Antifade Reagent with DAPI #8961 (青)で封入しました。
#9:LRRK2
Leucine-rich repeat Kinase 2 (LRRK2) は、細胞の老廃物処理において重要な役割を担うリソソーム機能の維持に不可欠なタンパク質です。LRRK2の突然変異は、家族性PDの最も一般的な遺伝的要因のうちの1つです。これらの突然変異は、キナーゼ活性を亢進させて、リソソームの機能不全と神経突起の欠失を誘導します。これらは、PDを進行させる主な要因となります。LRRK2は、Rabファミリーに属するいくつかのGTPaseをリン酸化するため、細胞内の膜輸送を制御していると考えられます。神経細胞の健全性におけるその役割から、LRKK2は治療法開発の主な標的となっています12 。
ヒトLRRK2コンストラクトをトランスフェクションした2293T細胞において、LRKK2が高発現していることを確認しました。モックをトランスフェクションした細胞とヒトLRRK2をエンコードする発現コンストラクトをトランスフェクションした細胞のライセートにおけるタンパク質濃度、およびPathScan® RP Total LRRK2 Sandwich ELISA Kit #69930を用いて測定した450 nmの吸光度を図に示しています。293T細胞は、野生型ヒトLRRK2を発現するコンストラクトまたはモックをトランスフェクションした後に溶解しました。
#10:VPS35
Vacuolar Protein Sorting 35 (VPS35) は、脳で高発現している、膜貫通タンパク質の選別とリサイクルを担うレトロマー複合体の重要な構成要素です。このタンパク質は、α-Synucleinの輸送やミトコンドリアのリサイクルおよび維持をサポートします。VPS35 遺伝子のD620Nの突然変異は、遅発性の家族性PDと関連しています。これらより、VPS35の発現と機能の研究は、進行したPDの治療標的の同定に役立つと考えられます13。
PD研究に的を絞ったアプローチ
以下のツールボックスは、パーキンソン病に関連する包括的かつ的を絞ったタンパク質のリストであり、これらのタンパク質はPDの病態生理学の研究をサポートし、診断や最終的な疾患治療のためのバイオマーカーとなりうる可能性があります。
| 標的 | 製品 | アプリケーション | 交差性 |
| α-Synuclein | α-Synuclein (E4U2F) XP® Rabbit mAb #51510 | WB, IP, IHC, IF | H, M, R |
| リン酸化α-Synuclein | Phospho-α-Synuclein (Ser129) (D1R1R) Rabbit mAb #23706 | WB, IP, IF | H, M, R |
| DDC | DDC (D6N8N) Rabbit mAb #13561 | WB, IP | H, M, R |
| DJ-1 | DJ-1 (D29E5) XP® Rabbit mAb #5933 | WB, IP, IF | H, M, R, Hm, Mk |
| GCase/GBA | GCase/GBA (E2R1L) Rabbit mAb #88162 | WB | H, M, R |
| LRRK2 | LRRK2 (D18E12) Rabbit mAb #13046 |
WB, IP | H, M, R |
| Parkin | Parkin (D4Z1W) Rabbit mAb #32833 | WB | H, M, R |
| PINK1 | PINK1 (D8G3) Rabbit mAb #6946 | WB, IP | H |
| UCHL1 | UCHL1 (D3T2E) XP® Rabbit mAb #13179 | WB, IHC, IF, F | H, M, R, Mk |
| VPS35 | VPS35 (E6S4I) Rabbit mAb #81453 | WB | H, M, R, Mk |
| ELISAキットとマッチド抗体ペア | |||
| α-Synuclein | Total α-Synuclein Matched Antibody Pair #39702 | ELISA | M, R |
| α-Synuclein | Pathscan® Total α-Synuclein Sandwich ELISA Kit #54269 | ELISA | M, R |
| LRRK2 | PathScan® RP Total LRRK2 Sandwich ELISA Kit #69930 | ELISA | H, M |
参考文献
- Dawson TM, Ko HS, Dawson VL. Genetic animal models of Parkinson's disease. Neuron. 2010;66(5):646-661. doi:10.1016/j.neuron.2010.04.034
- Sharma B, Shekhar H, Sahu A, et al. Epigenetic insights into prostate cancer: exploring histone modifications and their therapeutic implications. Front Oncol. 2025;15:1570193. Published 2025 Apr 28. doi:10.3389/fonc.2025.1570193
- Parkinson'sFoundation. Who Has Parkinson's? 2025[2025引用; 以下から利用可能:https://www.parkinson.org/understanding-parkinsons/statistics.
- Willis AW, Roberts E, Beck JC, et al. Incidence of Parkinson disease in North America. NPJ Parkinsons Dis. 2022;8(1):170. Published 2022 Dec 15. doi:10.1038/s41531-022-00410-y
- Alfaidi M, Barker RA, Kuan WL. An update on immune-based alpha-synuclein trials in Parkinson's disease. J Neurol. 2024;272(1):21. Published 2024 Dec 12. doi:10.1007/s00415-024-12770-x
- Wang Y, Shi M, Chung KA, et al. Phosphorylated α-synuclein in Parkinson's disease. Sci Transl Med. 2012;4(121):121ra20. doi:10.1126/scitranslmed.3002566
- Shebl, N., Salama, M. Exploring dopa decarboxylase as an ideal biomarker in Parkinson’s disease with focus on regulatory mechanisms, cofactor influences, and metabolic implications. npj Biomed. Innov. 2025;2(2). https://doi.org/10.1038/s44385-024-00005-7
- Blandini F, Cilia R, Cerri S, et al. Glucocerebrosidase mutations and synucleinopathies: Toward a model of precision medicine. Mov Disord. 2019;34(1):9-21. doi:10.1002/mds.27583
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- Repici M, Giorgini F. DJ-1 in Parkinson's Disease: Clinical Insights and Therapeutic Perspectives. J Clin Med. 2019;8(9):1377. Published 2019 Sep 3. doi:10.3390/jcm8091377
- Buneeva O, Medvedev A. Ubiquitin Carboxyl-Terminal Hydrolase L1 and Its Role in Parkinson's Disease. Int J Mol Sci. 2024;25(2):1303. Published 2024 Jan 21. doi:10.3390/ijms25021303
- Sosero YL, Gan-Or Z. LRRK2 and Parkinson's disease: from genetics to targeted therapy. Ann Clin Transl Neurol. 2023;10(6):850-864. doi:10.1002/acn3.51776
- Wu A, Lee D, Xiong WC. VPS35 or retromer as a potential target for neurodegenerative disorders: barriers to progress. Expert Opin Ther Targets. 2024;28(8):701-712. doi:10.1080/14728222.2024.2392700

