T細胞は高度に専門化されたリンパ球で、適応免疫応答の細胞性免疫において重要な役割を果たします。ヒトの体は、T細胞なしではウイルス感染をうまく撃退したり、組織から前がん性細胞を排除することができません。
T細胞の役割
細胞表面のシグナル伝達受容体の特異的な活性化を介し、特定のT細胞が次のようなことを行います。
- ウイルス感染細胞や、がん細胞など、検出された脅威を殺傷して排除する細胞傷害作用を行使する
- 他の免疫細胞に影響して導くためにサイトカインを分泌すること、および
- 外来の病原性抗原と自己抗原を区別し、免疫細胞が体内の自己細胞に対して不適切な自己免疫応答を防ぐことにより、免疫寛容性を実現する
近年では、がん細胞を標的にして除去するため、エフェクター細胞の機能を調整することを目的に、遺伝子工学的手法でT細胞の改変を行う試みもなされています。このようにT細胞は免疫防御に不可欠で、治療への応用も期待されていることから、T細胞の挙動を制御するシグナル伝達カスケードを完全に明らかにすることは非常に重要です。
T細胞受容体シグナル伝達のインタラクティブパスウェイ図をご覧ください。
T細胞は細胞表面上のCD3の発現によって特定することができ、骨髄の造血幹細胞に由来するリンパ系前駆細胞から発生します。これらの細胞は血流に乗って胸腺に移動し、T細胞受容体 (TCR) の再編成を経てT細胞に分化します。
T細胞には様々な種類がありますが、主なものにCD4陽性ヘルパーT細胞、CD8陽性細胞傷害性T細胞、ナチュラルキラーT (NKT) 細胞などがあります。それぞれのタイプのT細胞の役割は、細胞表面受容体と共刺激分子の活性化によって制御されています。例えば、ヘルパーT細胞は、抗原提示細胞の表面上にあるMHCクラスII分子に結合したペプチド抗原に応答します。
このようなシグナルは、ヘルパーT細胞の急速な増殖とサイトカインの分泌を誘導します。これによって細胞傷害性T細胞の活性化や、B細胞による抗体の分泌が誘導され、免疫応答が制御されます。同様に、細胞傷害性T細胞は、感染細胞やがん細胞の表面上にある、抗原に結合したMHCクラスI分子を認識することで活性化されます。これによって、T細胞はアポトーシスなどを介して標的細胞を殺傷します。NKT細胞は、不変のT細胞受容体を発現しており、従来のT細胞とは異なり、一次抗原による活性化がない場合でも、炎症性サイトカイン刺激に応答してT細胞のエフェクター機能、つまり 増殖促進、サイトカインの分泌、細胞媒介性の細胞傷害機能に関与することができます。NKT細胞は、他のT細胞といくつかの類似点をもちながら、自然免疫系の細胞により近い特徴をもちます。
細胞傷害性T細胞の活性化
細胞表面上の相互作用は、上述の細胞傷害機能の活性化と発現をどのように誘導するのでしょうか?免疫応答を完全に活性化するため、下記のような一連のイベントが発生します:
- TCRに抗原が結合することで、Srcキナーゼファミリータンパク質LckによるTCR/CD3複合体の細胞内モチーフのリン酸化が生じる (この細胞質尾部のモチーフはITAM [Immunoreceptor tyrosine-based activation motif] と呼ばれる)
- Zap-70 (Zeta-chain associated protein kinase 70) がリクルートされ、その基質であるSLP-76がリン酸化される
- 下流アダプタータンパク質 (Vav、NCK、GADS、Itk (Interleukin-2 inducible T cell kinase) など) の会合が促進される
- PKCqやMAPK/Erkなどの下流経路を介したその後のシグナル伝達は、CD28やCD45などの共刺激受容体によって活性化されるPI3K/AKTなどの経路を介した並行シグナル伝達と連携する
- この活性化が重要な転写因子の核移行を誘導し、適切なT細胞のエフェクター表現型に関与する遺伝子の発現を促進する
- NFAT、NF-kB、Fos、Junなどの転写因子が、TCRの活性化に応答して遺伝子発現の変動を仲介する
PI3K / Aktシグナル伝達経路のインタラクティブパスウェイ図をご覧ください。
これらから、T細胞表面受容体の複合的な活性化によって免疫応答は制御されていることが分かります。
その他のリソース
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