がん免疫療法の広がりは急激に感じる人が多くいるようですが、実際は100年も前の免疫療法の父と呼ばれるWilliam B. Coleyに遡ります。
1890年代、Coley博士は進行がん患者の腫瘍退縮と、重度の皮膚感染症である丹毒との相関性に気づきました。この所見に基づき、手術のできない肉腫や癌腫患者に生菌投与治療を行いました1。さらに、1909年にPaul Ehrlichは、がんは自然発生的に発生し、免疫系がそれを認識し腫瘍の増殖を抑制しているという、がんの免疫監視仮説を提唱しました2。
しかし免疫療法は、ここ数年でがん治療に欠かせないものになりました。これは大半がPD-1/PD-L1阻害剤の成功によるものであり、その免疫関連副作用 (irAE) は限定的で、長期寛解をもたらすことができています。このことは、腫瘍退縮に至るに必要な用量では毒性が強すぎることが明らかになっているIL-2療法のような以前の免疫療法とは対照的です。何が違うのでしょうか?PD-1/PD-L1阻害剤が腫瘍の免疫回避の仕組みを無効化するのに対し、高用量IL-2のようなアプローチは、ほとんどの場合免疫活性を増強することを目的としています3。残念なことに、PD-1/PD-L1阻害剤が有効な患者数は決して多くありません。この低い奏効率は、腫瘍の別の免疫を回避する仕組みによる結果であると考えられています。
PD-1/PD-L1阻害剤が効果を発揮するには、腫瘍を認識し細胞毒性のようなエフェクター機能を有するT細胞が存在しなくてはなりません。これらのT細胞は、抗原提示細胞である樹状細胞によって活性化される必要があります。しかし、腫瘍はT細胞と樹状細胞をともに抑制します4。たとえT細胞が活性化されたとしても、TIM-3やLag3などの他の抑制性受容体を共発現していることが多く、結果としてPD-1/PD-L1阻害剤だけではT細胞のエフェクター機能を有効にできない可能性があります5。がん微小環境では最終的にT細胞が活性化されなくてはなりませんが、これは制御性T細胞や骨髄由来免疫抑制細胞、抑制性の「M2型」マクロファージなどの細胞と免疫抑制分子の存在のためほとんどありません。
irAEを制限しながらがん免疫療法の効果を劇的に増加させるには、腫瘍それぞれにおいてどの免疫抑制メカニズムが機能を果たしているのかを正確に理解することが必要です。この情報を得る1つの方法は、腫瘍にある免疫細胞のフェノタイプと機能を理解することです。
免疫細胞同定のための表現型ガイド
そこで、腫瘍免疫応答に最も深く関わることが知られている免疫細胞を分類するためのフェノタイピングガイドを新たに作成しました。ガイドには、CD8陽性T細胞や、CD8陽性T細胞に抗原提示する樹状細胞、前述の免疫抑制細胞などが含まれています。また、これらの細胞の機能の指標となるマーカーも含まれています。どの免疫抑制メカニズムが腫瘍免疫応答の妨げになっているのかを理解するために、免疫細胞のフェノタイプと機能の組み合わせを考慮することができ、これにより効果的な治療的介入の機会を見いだせるかもしれません。
フローサイトメトリーによるイムノフェノタイピングは数十年もの間免疫学の主流でしたが、腫瘍免疫学は免疫組織化学 (IHC) によるイムノフェノタイピングを必要とするようになりました。FFPE腫瘍組織は最も利用しやすいサンプルであることが多く、腫瘍内の細胞間の空間的関係の観察により腫瘍免疫応答を理解するために有用な情報を得ることができます。したがって、インタクトな腫瘍組織中の免疫細胞を観察することを念頭に置いて、私たちは最初にこのガイドを作成しました。マルチプレックスIHCには技術的な制約があるため、各細胞タイプの同定を可能にするよく確立されたマーカーの最小セットを掲載しました。将来的には、フローサイトメトリー用の免疫細胞マーカーガイドも作成する予定です。
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参考文献: