線維症は、組織と内臓の瘢痕化と硬化を特徴とする疾患です。線維症は体のすべての組織に影響し、そのままにしておくと臓器不全や死に至ることがあります。線維症の原因は何でしょうか?信じられないかもしれませんが、線維症は傷の治癒がうまくいかなかったことから生じます。
筋線維芽細胞:傷の治癒における主要なプレーヤーと線維症
上皮細胞の損傷に応答して放出されるTGF-βやその他の因子は、局所の炎症化と創傷修復に重要な細胞である筋線維芽細胞の活性化を制御します。この細胞は活性化すると、組織の完全性を回復させ、実質細胞の置換を促進するため、細胞外環境 (ECM) をリモデリングするコラーゲンとフィブロネクチンを発現します。創傷治癒の過程は、筋線維芽細胞のアポトーシスと炎症の軽減で終わります。
パスウェイをダウンロード: 線維症シグナル伝達経路の機構
しかしながら、組織が毒素、感染性病原体、自己免疫応答などにより持続的に損傷されると、この創傷修復は失敗します。慢性的な損傷は制御されない筋線維芽細胞の活性化をもたらし、病理学的に過剰なECMの沈着が生じます。これにより、マクロファージと免疫細胞の浸潤を伴う慢性炎症環境が形成されてしまいます。このような細胞環境では、TGF-βファミリーのメンバーや、線維化の主要なエフェクターとして機能する他のシグナル伝達分子など、多量のサイトカインや成長因子が放出されます。
インタラクティブパスウェイ図:TGF-β / Smadシグナル伝達のインタラクティブパスウェイ図
がんにおける線維症の二重の役割
がん関連線維症は、がんの挙動に大きな影響を及ぼす腫瘍微小環境 (TME) の重要な側面です。しかし、線維症が腫瘍の成長を主に促進するのか抑制するのかは、疑問のままです。組織線維症の発生に重要な線維芽細胞や間葉系幹細胞 (MSC) のような細胞は、独立したあるいはがん細胞に関連した2つの表現型を持ちます。がん関連線維芽細胞とがん関連MSCには、がん細胞のクロストークを促進し、ECMの沈着に影響し、免疫系に腫瘍化促進環境を形成させる独自の分子プロファイルがあります。逆に、正常組織の線維芽細胞とMSCは、がんの発生を制限し、上皮細胞の分化に影響し、がん細胞の浸潤を制限するのに重要です。
最近、肝臓の線維症は製薬業界の非常に重要な研究分野となっています。最も研究されている肝疾患はNASH (Non-Alcoholic Steato-Hepatistis:非アルコール性脂肪肝炎) であり、過度のアルコール摂取が病因ではない肝疾患であることから名付けられました。
NASHの前状態はNAFLD (Non-Alcoholic Fatty liver Disease:非アルコール性脂肪性肝疾患) と呼ばれます。NAFLDの患者は危険因子によって、あるいはおそらく肥満、高コレステロール、高トリグリセリド、メタボリックシンドロームなどの原因因子でさえ、肝臓に過剰な脂質を蓄積します。実際、一部の患者から、NALFDがメタボリックシンドロームのこれまで認識されていなかった側面であると示唆されています。NALFDは時間の経過とともに悪化し、最終的には異常に蓄積した脂質の毒性作用により肝臓で炎症が発生し、肝細胞がアポトーシスを開始するNASHにつながる可能性があります。肝臓の筋線維芽細胞である肝星細胞 (HSC) が活性化され、肝臓はコラーゲンやフィブロネクチンなどECMの構成因子で満たされます。このプロセスが続くと肝臓には瘢痕組織が充満し、機能的な実質細胞は失われます。この時点で肝硬変となり、肝細胞がんの発生に最適な環境となります。この段階で可能な治療法は肝臓移植だけです。
西洋型食生活の流行とそれに関連するすべての問題により、現在、米国人口の25 - 35%がNALFDであると推定されています。NAFLD患者の約20%はNASHに進行します。ただし、この20%の診断における問題の1つは、NALFDが無症状であるため、通常、定期的な血液検査の肝臓パネルでしか気付けないことです。肝臓は複雑なため、この疾患には様々な側面を対象とした組み合わせ治療が確実に必要となるでしょう。すでにNALFDやNASHには非常に多くの患者がいますが、これらの病態から回復あるいはその進行を止めることが証明された承認薬は市場になく、製薬企業の間では新しい治療法の開発に向けた激烈な競争が行われています。