CSTブログ: Lab Expectations

Cell Signaling Technology (CST) の公式ブログでは、実験中に起こると予測される事象や実験のヒント、コツ、情報などを紹介します。

基準の設定:YCharOSを介したCSTの抗体検証への取り組み

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複雑な生物医学研究領域において、抗体は、科学的発見のための重要なツールであり、細胞プロセスや疾患の発症機序、治療への応用の可能性の理解に不可欠です。しかし残念ながら、抗体試薬の信頼性が懸念される事例が多々あります。CSTは、科学者で構成される企業であるため、研究者が高品質な抗体を選択および検証する際に直面する課題を身をもって理解しています。そのため、弊社は25年以上にわたり、科学研究と発見を促す高品質な試薬のみを製造することに一貫して取り組んでおり、製品性能における業界基準を設定していることを誇りに思います。

この取り組みにおいて最も重要なことは、カナダの独立した公益オープンサイエンス企業であるYCharOS (イカロスと発音します) などの組織と共に作業することです。この組織は、すべてのヒトタンパク質に対する抗体の特性解析を行うことを目的としています。CiteAb社によると、現在、およそ350社の世界的な抗体メーカーにより製造された約770万種類の研究用抗体製品が市場に出回っているため、YCharOSの取り組みは、抗体検証における長年の問題に対する革新的なアプローチを示すための巨大な事業となっています。CSTにおける私の役割の1つは、YCharOSの研究者に抗体やデータ、科学的知識を提供し、共に実験結果を評価して、製品性能を確実なものとすることです。

YCharOS独自の抗体の特性解析アプローチは、研究コミュニティにおける抗体検証への取り組みを大きく変えるかもしれません。本ブログ記事では、YCharOSによる交代の評価方法を探索し、科学研究におけるその取り組みの重要性についてCSTはどのように考えているのかを解説します。

科学的再現性:極めて重大な問題の発生

10年以上もの間、研究の再現性は科学研究コミュニティにとって重大な問題であり、その要因として抗体の検証が不十分であることが挙げられています。この問題は、市販抗体の約半数が、異なるアプリケーションにおいて一貫した性能を示さないことを明らかにした大規模研究により、はっきりと浮き彫りにされました1,2 抗体の検証は、信頼できる研究を行う上で不可欠ですが、多くの研究者はその複雑なプロセスに悪戦苦闘し、時には十分な検証を実施できていません2,3,4

研究用抗体のサムネイルは信頼できますか? 関連ブログ: お使いの研究用抗体は信頼できますか?

抗体の検証が不十分となる原因は、抗体の適切な検証方法をめぐる議論が今も続いていることにあります。2016年、これらの抗体検証おける懸念事項に対処するため、様々な研究分野の国際的な科学者による臨時の委員会International Working Group for Antibody Validationが設立されました。著名な研究者であるAled Edwards氏とDavid Rimm氏を含むこのグループは、抗体検証手順のガイダンスを提案し、検証は抗体に依存しない定量方法 (すなわち直交検証) または遺伝学的アプローチで裏付けを行うべきであると提言しました5,8 中でも、ノックアウト (KO) 戦略を用いた遺伝子コントロールは、標的タンパク質の遺伝子が欠失している状況下における抗体の特異性を確認するための、追加的なアプローチとして注目を集めています。しかしながら、多くのタンパク質においてKO細胞株やKO動物は入手困難である、またはこれらの作製には多くの時間やコストがかかるため、この戦略の普及には限界があります8

これらの課題を解決するために、Aled Edwards氏やPeter McPherson氏、Carl Laflamme氏らは、仲間と共に、市販のモノクローナル抗体やリコンビナント抗体の検証に焦点を当てた、独立した第三者機関であるYCharOSを設立しました。この組織は、独自の構成で運営されており、「非営利目的であること」「出資者を持たないこと」「知的財産権や特許を取得しないこと」「制限することなくすべてのデータを公開すること」を約束しています6,7,8

YCharOSプラットフォームの方法論:協力的で透明性の高いアプローチ

YCharOSプラットフォームは、有名な抗体メーカーなどの企業や、アカデミアの研究者と協力して活動しているところが他とは異なります。その中心となる方法論は、以下に重点を置いています:

  1. バイアスのない転写産物データベースを用いて、ポジティブコントロール細胞株における標的タンパク質の内在的な発現量を確認する
  2. アイソジェニックコントロールとしてノックアウト (KO) 細胞株を使用する8,9

YCharOSは、ウェスタンブロット (WB:図1Aおよび1D)、免疫沈降 (IP:図1Bおよび1E)、蛍光免疫染色 (IF:図1Cおよび1F) の3つのアプリケーションを用いて抗体性能の評価を行います。この包括的な評価により、異なるサプライヤーが提供する、各標的タンパク質に対する様々な抗体を、野生型およびノックアウトのコントロールを用いて直接比較することができます8,9 (図1A-F)。

YCharOS抗体検証試験データ図1A、1B、1C:Ayoubi et al., Elife, 2023のデータを許可を得て改変しています。図1D、1E、1F:Riham Ayoubi et al., April 2024から引用しています。これらの文献は、CC by 4.0.のライセンス下で公開されています。

図1:ウェスタンブロット (AおよびD)、免疫沈降による濃縮物 (IP) と出発材料 (SM)、未結合画分 (UB) を比較した免疫沈降後のウェスタンブロット (BおよびE)、野生型 (WT) とノックアウト (KO) モザイク細胞株の蛍光免疫染色 (IF) による抗体の特性解析結果を示しています。

CSTは、YCharOS から提供される、KO細胞を用いたウェスタンブロットによる抗体の特性解析データを製品ウェブサイトで積極的に公開しており、科学者が自身の研究ニーズに最適な製品を探すサポートを行っています。

CST製品である以下のRab3A (D7B10) Rabbit mAb #12214のウェブサイトなどで、YcharOSのデータをご覧いただけます: 

CST Rab3A antibody YCharOS Validation Data_border

図2:CSTのRab3A (D7B10) Rabbit mAb #12214の製品ウェブサイトでは、YCharOSのデータが公開されています。

 

YCharOSプラットフォームの主な強み

  • 包括的な検証戦略 YCharOSプラットフォームでは、従来の直交的アプローチを補完するのに役立つ遺伝的戦略を活用しています。KO細胞株は、研究者が特異的な抗体結合と非特異的な抗体結合をさらに特性解析および区別するのに役立つ可能性があります。 
  • 拡張性の高さとアクセスのしやすさ: YCharOSプラットフォームの最も魅力的な側面の1つは、そのアクセスのしやすさです。YCharOSの特性解析プロトコールにおける技術的な制限は、最小限になるように設計されています。2024年3月現在、このプラットフォームはすでに、96種類のヒトタンパク質を標的とする859種類の抗体を試験しており、その拡張性の高さを実証しています9。この取り組みは、市販のリコンビナント抗体やモノクローナル抗体の80%を試験できると期待されます9
  • オープンデータの普及: 透明性を維持することが、YCharOSのアプローチの基本です。すべての特性データは、デジタルオブジェクト識別子 (DOI) 付きで、ZENODOを通じて無料公開されています。このオープンサイエンスへの貢献により、世界中の研究者は包括的な抗体性能データにアクセスし、より多くの情報に基づいた試薬の選択が可能になります9

YCharOSは、特性解析プラットフォームへの免疫組織化学染色などの新たなアプリケーションの追加に積極的に取り組んでいます。 

「CSTは、YCharOSのワークフローには含まれていない免疫組織化学染色で、厳密な抗体試験を行っています。」と、YCharOSのDirector of OperationsであるRiham氏が述べます。「私たちは、この重要なアプリケーションにおける抗体の特性解析への取り組みを拡大する中で、優れたCST科学者から受けた実践的なトレーニングに感謝しています。」 

YCharOSは、自らが与える影響力が大きい一方で、現在の活動における限界を認めています。同組織は、WBやIP、IFのプロトコールを用いた試験に成功していますが、緩衝液やブロッキング試薬、抗体希釈液、その他のプロトコールにおける違いが抗体性能に影響を及ぼす可能性があるため、単一のプロトコールを用いた試験には限界があると感じています。さらに、解釈が難しい結果が得られた場合や目的の標的タンパク質に精通している必要がある場合には、解釈を容易にするような特徴をレポートに注釈できません。例えば、使用する細胞株における標的タンパク質またはそのアイソフォームの発現量は、抗体の性能に影響を与える重要な要素です。翻訳後修飾や必須遺伝子に対する抗体の評価を行う際に、特定の条件下では、さらなる最適化が必要となる場合があります。しかし、この率直かつ透明性の高いアプローチは、科学的厳密性への取り組みに明らかに貢献しています。

研究者への呼びかけ

メーカー視点からすると、YCharOSは単なる検証を行うだけの組織ではなく、継続的に改善を促す触媒となります。このプラットフォームは、Cell Signaling Technologyなどのメーカーに対し、特異性に関する積極的な補強と、いくつかのケースでは批判的なフィードバックを提供し、製品ラインを継続的に再評価し、強化することを可能にしています。

優れた抗体を提供するための継続的な取り組みの一環として、弊社はすべてのお客様に以下をお勧めしています:

  1. 抗体を選択する際は、YCharOSのデータを確認
  2. 弊社が提供するアプリケーションごとの検証データ (Simple WesternやIHC、ChIP、フローなどを含む) と製品ページに記載の査読付き論文における引用の詳細を確認
  3. テクニカルサポートチームへの問い合わせ
    1. CST科学者によるアプリケーションごとのガイダンスについて 
    2. 弊社の広範なロット間の一貫性試験について
    3. お客様固有の研究ニーズについて
  4. 弊社製品を用いた実験内容の共有 

弊社と共に科学の発展を促進

CSTは、より良いツールがより良い科学につながると信じています。弊社は、YCharOSプラットフォームを単なる方法論としてではなく、確実で再現性のある科学的研究に対する弊社の長年にわたる信念に共鳴する運動として捉えています。特異性や透明性、共同開発を優先することにより、弊社は単に抗体を販売しているのではありません。科学的知識とツールの信頼できる基盤によって、実験の未来を築くサポートをしているのです。

CSTは、現役の研究科学者が設立・運営する企業であることを誇りに思います。これが、弊社が抗体開発に取り組む際の視点であり、最高の製品品質の確保に尽力する理由です。それは、厳格な抗体検証手順や詳細な製品データの提供、充実したテクニカルサポートによって実証されています。

弊社の受賞歴のある抗体製品や、YCharOSなどのイニシアチブを介した品質への取り組みがどのように科学的発見を促すかに関する詳細はこちらをご覧ください:

参考文献

  1. Berglund L, Björling E, Oksvold P, et al. A genecentric Human Protein Atlas for expression profiles based on antibodies. Mol Cell Proteomics. 2008;7(10):2019-2027. doi:10.1074/mcp.R800013-MCP200
  2. Baker M. Many researchers fail to validate antibodies for their experiments. Nature. 2016;doi:10.1038/nature.2016.20192    
  3. Andersson S, Sundberg M, Pristovsek N, et al. Insufficient antibody validation challenges oestrogen receptor beta research. Nat Commun. 2017;8:15840. Published 2017 Jun 15. doi:10.1038/ncomms15840
  4. Voskuil JLA, Bandrowski A, Begley CG, et al. The Antibody Society's antibody validation webinar series. MAbs. 2020;12(1):1794421. doi:10.1080/19420862.2020.1794421
  5. Uhlen M, Bandrowski A, Carr S, et al. A proposal for validation of antibodies. Nat Methods. 2016;13(10):823-827. doi:10.1038/nmeth.3995
  6. Biddle MS, Virk HS. YCharOS open antibody characterisation data: Lessons learned and progress made. F1000Res. 2023;12:1344. Published 2023 Oct 16. doi:10.12688/f1000research.141719.1
  7. Ayoubi R, Ryan J, Biddle MS, et al. Scaling of an antibody validation procedure enables quantification of antibody performance in major research applications. Elife 2023;12:RP91645. Published 2023 Nov 23. doi:10.7554/eLife.91645
  8. Monteiro, F.L., Voskuil, J.L.A. & Williams, C. YCharOS protocol for antibody validation. Nat Protoc.2024. https://doi.org/10.1038/s41596-024-01108-6    
  9. Ayoubi R, Ryan J, Gonzalez Bolivar S, et al. A consensus platform for antibody characterization. Nat Protoc. Published online 2024 年 12月 17 日. doi:10.1038/s41596-024-01095-8

Srikanth Subramanian, PhD
Srikanth Subramanian, PhD
Srikanth Subramanian博士は、Cell Signaling Technologyのシニアプロダクトサイエンティストです。Srikanth博士は、ノースイースタン大学で分子生物学の博士号を取得しました。

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