CSTブログ: Lab Expectations

Cell Signaling Technology (CST) の公式ブログでは、実験中に起こると予測される事象や実験のヒント、コツ、情報などを紹介します。

よりサステナブルな研究室のための4つの重要な領域

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多くの科学者は、良いことをしたいと願っています。これまで治療不可能だった疾患を治したい、医療へのアクセスを改善したい、人々の生活を改善するための技術を発明したいという夢を持って、多くの科学者がライフサイエンスの分野に足を踏み入れます。しかし、研究は多くのリソースを必要とするため、人々のより健康な生活を追求しつつ、地球をより健康にするソリューションを考えなくてはいけません。

ラボの持続可能性とエネルギー効率

「研究室は、商業用オフィス空間の10倍のエネルギーと4倍の水を消費し、年間推定550万メートルトン (約610万米トン) のプラスチック廃棄物を出します。」出典:Lab Manager

研究室をより地球に優しいものにするために、エネルギー使用量の削減、水の節約、機器の再利用、プラスチック廃棄物の削減、グリーンケミストリーの実践など、様々なソリューションを採用することができます。CSTは、これらのうちの多くを実施しているだけでなく、2029年までに炭素排出量ネットゼロを達成するという野心的な気候目標を掲げ、1% for the Planetを通じて環境・社会問題に取り組む非営利団体に年間総収益の少なくとも1%を寄付することを約束しています。これらのサステナビリティ目標により、環境にそして社会に対し、責任ある方法で科学を前進させることができます。

本ブログでは、研究室をサステナブルに運用するための、弊社の経験に基づいたヒントをご紹介します。 

研究室をサステナブルに運用するためのヒント

水の節約

研究室で節水の取り組みを実施する前に、水の使用状況を理解する必要があります。どのプロセスや作業が水を最も多く利用し、逆に最も少ないプロセスや作業はどれでしょうか?弊社は、施設全体に水道メーターを設置し、これらを理解した上で節水の取り組みを実施する最も効率の良い領域を決めています。弊社が特定した、最も影響を与える領域と採用したソリューションをご紹介します。 

  • シンク:シンクでは手を使う作業が多いため、フットペダルやハンズフリーの蛇口による水の制御は、研究室の水の使用量を削減する便利な方法です。その他の方法として、蛇口の先端にネジで取り付ける低流量エアレーターを設置することにより、水圧を下げることなく蛇口からの水量を1分当たり約15リットルから約5.7リットル未満に抑えることができます。 

  • ウォーターバス:ビーズバスは、水を使用しない再利用可能な金属製ビーズを用いた技術であり、非循環式および非振盪式の実験用ウォーターバスと置き換えることにより、エネルギー消費と水の使用量を削減します。また、この革新的ソリューションには、サンプルのコンタミネーションを低減するという利点があります。 

    ラボのビーズバスでの水の使用
  • 水の灌漑: あるプロセスで生じる廃水を回収し、問題がなければ別のプロセスで再利用することは多々あります。弊社は、施設・環境・衛生・安全 (EHS) チームと協力し、逆浸透膜イオン交換システム (RODI) から排出される廃水を回収し、屋内外の植物の灌漑に再利用しています。現在は、雨水やエアハンドリングユニット (AHU) から回収した水を、弊社のコミュニティーガーデンの水やりに使用することを検討しています。

エネルギーの削減

研究室は、オフィス空間と比較して一平方メートル当たり5 - 10倍のエネルギーを消費しており、エネルギー効率はサステナビリティを向上させるための重要な領域の1つとしてよく挙げられます。弊社は、以下の省エネルギー対策を採用しており、その多くはみなさんの研究室でも簡単に実施することができます。 

  • ドラフトチャンバーおよび安全キャビネット: ドラフトチャンバーを使用する時はドア (またはサッシ) を開けておく必要がありますが、使用しない時は安全性およびエネルギーを節約するために閉じておくべきです。開けたままにすると、可変風量 (VAV) ファンがより高速で運転し続けるため、空気の交換速度が上がり、さらにエネルギーを消費します。サッシを閉めるという行動の変化は、研究室ののHVACシステムに大きな影響を与えます。弊社の研究室は、この問題を解決するためにサッシの自動開閉装置を設置しました。その他の戦略として、社員に「サッシを閉める」ことを思い出させるための張り紙やシールを作成したり、ドラフトの買い替えの際に、特定の化学物質の取り扱い用にダクトレスのドラフトを導入するという方法があります。安全キャビネットについても、開けたままにしない、またはUVライトを点灯したままにしないといった、行動の変化を促すための明確な方針を取り入れることができます。弊社は、安全キャビネットのUVライトを点けたままにしないように、タイマーを設置しました。 

    ドラフトチャンバーの扉を閉める
  • 超低温 (ULT) フリーザー: 研究室で最もエネルギー消費の激しい機器の1つに、通常-80°Cに設定されるULTフリーザーがあります。このULTフリーザーを-70°Cに設定することにより、サンプルの品質を損なうことなく、エネルギー消費を最大30%抑えることができます。 さらに、日頃から堆積した霜を取り除き、定期的に全体の霜取りと清掃を行うことにより、フリーザーの冷却効率が高まるだけでなく、寿命を延ばすことができます。また、フリーザーの霜取りは、サンプルの在庫整理を行う絶好の機会になります。古いサンプルの廃棄、ラベルの更新、在庫管理システムの導入により、サンプルを探す時間を短縮することができます。フリーザーは一日を通して開閉されるため、冷却効率に大きな影響を与えます。

フリーザーの冷却効率を改善する方法をお探しですか?すでに、これらのソリューションの多くを実施していますか?My Green Lab主催のFreezer Challengeをご覧ください。冷却効率を改善する更なるヒントを得たり、コンペティションに参加することもできます。

  • ソーラパネルと蓄電池:建物レベルでは、研究室において再生可能エネルギーの利用を確立するために、ソーラーパネルを設置すると良いでしょう。ソーラーパネルの設置は、地球に優しいだけではなく、多くの場合5年以内に投資金額を超える利益をもたらすため、ビジネスの面から見ても賢明な選択です。弊社は、敷地内での再生可能エネルギーの生産を増加させて、電力系統からの電気の使用量を削減するため、米国の両方の施設にソーラーパネルを設置しました。また、ピーク時の地域の電力系統の需要量を削減し、排出係数の低い電力の使用を最大化するために、蓄電池の導入を検討しています。 

リサイクルと使い捨てプラスチックの削減

科学者は、一般的な人と比べて約15倍ものプラスチック廃棄物を出しています。ピペットチップからプラスチックの細胞培養ディッシュまで、研究室は毎年推定550万メートルトンものプラスチックを消費しており、これは世界のプラスチック生産量の2%に当たります。

「世界では毎年、5,400万トン以上の科学に関連するプラスチック廃棄物が排出されています。」出典:Polycarbin

使い捨てのプラスチック製品への依存を削減することが、廃棄物削減の第一歩となります。弊社は、研究室にサステナブルなソリューションを導入し、プラスチックの使用量を削減するさらなる方法の試験や化石燃料を使用しない他の方法を常に模索し続けています。

  • 削減: 生物由来の素材を用いたプラスチック製品への切り替えは、実験プロセスを変更することなく化石燃料由来のプラスチック製品の使用量を削減する良い方法です。例えば、弊社は90%生物由来のプラスチックを用いて製造されたバイオベースのエッペンドルフチューブを試験しています。ご利用のサプライヤーが、現在研究室で使用している製品のバイオベース製品を提供しているかを確認するか、ACT label databaseで代替となる製品を探してください。最後に、バイオベースという新たな製品を探していることを購買部門や調達部門に相談してください。購買力を結集させることにより、市場全体を変えることができるかもしれません。
    ラボでの低減、再利用、リサイクル
  • 再利用: 弊社の研究室は、空のピペットチップの箱を再利用しています。使用後に洗い、 オートクレーブし、詰め替え用のチップを活用することにより、さらなるプラスチックの購入を避けています。研究室の機器を買い替えるまたはアップグレードする際には、Seeding Labsを介して、必要とする世界中の科学者に古い機器を寄付します。これまで、750ものラボ機器および補充品 (総計600,000ドル相当) を寄付し、これは24の発展途上国にある50の大学に届けられましたそしてこの数は増え続けています

  • リサイクル: 弊社は、リサイクルやコンポストに加え、研究室から出るプラスチック廃棄物に関してはPolyCarbinを試しています。PolyCarbinは、最大85%のリサイクル素材を用いてプラスチック製品を再製造することにより、製造ループを閉じることができます。弊社の研究室で使用した使い捨てのプラスチック製品をPolyCarbinに送ると、リサイクルおよび再製造により新たな研究室用の消耗品に生まれ変わります。現在、弊社の廃棄チップをリサイクルして作られたピペットチップを試験的に導入しています。 

グリーンケミストリー 

研究室での有害化学物質の使用は当然のことと考えられがちですが、必ずしもそうではありません。人間や環境に対する有害性の低い化学物質を用いて、有害な廃棄物の発生を最小限に抑えるためにできることがいくつかあります。弊社の研究室の例を挙げます:

  • ジメチルホルムアミド (DMF): 弊社の抗体開発の中心となるペプチド研究室は、洗浄ステップを省くことにより、ペプチド合成装置で消費されるDMFを17%削減しました。現在、DMFの使用をさらに削減するために、その他の洗浄ステップを省く方法を模索しています。

    グリーンケミストリーでラボのDMFの使用量を低減する

  • ホルムアルデヒド:弊社のエピジェネティクスアプリケーション研究室は、細胞固定プロセスにおける培養細胞の結合や濃縮 (必要に応じて) などのプロセスの変更により、ホルムアルデヒドの使用量を削減しました。これにより、ホルムアルデヒドの消費を95%削減することに成功しました。

  • 代替溶媒:CSTは、様々なプロセスにおいて、より地球に優しい代替溶媒を試験しました。現在、様々なアプリケーション分野における、より地球に優しい代替溶媒を試験しています。有害性や環境フットプリントが低く、廃棄がより簡単な代替品を模索することは大変重要です。

行動を起こす:地球のために研究室のサステナビリティ問題を解決する

近年、研究機関や科学者、一般の人々の間において、サステナブルな研究室のあり方の重要性がますます関心を集めています。しかし、長年続けてきたプロセスや手順の変更に賛同してもらうことは簡単ではありません。これらのサステナビリティソリューションを実施してきた弊社の経験に基づき、研究室を改革する際の考慮事項や行動を習慣化するための作業をいくつかご紹介します。 

  • 多くの場合、最初のステップとして、影響を受ける可能性がある領域を特定します。この領域には研究開発、生産や製造、その他にもエネルギーを消費するまたは廃棄物を出す研究室以外の空間を含みます。プロジェクトの全容を理解することにより、事業計画上に生じる可能性がある課題に対応した、より良い計画を立てることができます。最初から、施設や運営、EHS、リーダーシップチームなどの主要な利害関係者を含めておくことが大切です。

  • 改革を成功させるためには、リーダーシップチームの賛同を得ることも大変重要です。主任研究員やその他のリーダーのサポートを得ることにより、取り組みを実施するために必要なリソースや資金を確保することができます。賛同を得るには、研究や化学が最優先であることに同意しつつ、このような取り組みの利点と研究室全体の使命や目標との整合性を明確に伝えることが重要です。

  • まずは取り組みを小規模で実施して潜在的な問題を特定することにより、研究室全体で実施する前に調整を行うことができます。また、この方法により同僚と協力し合い、勢いをつけることができます。ランチョン勉強会で興味を示す研究者をみつけたり、情報交換会を開催したりして、彼らにとって最も重要だと感じるプログラムに関するフィードバックを得る活動を通じて、意識を高めることができます。

取り組みを計画する際には、My Green Lab (MGL) などの、役立つリソースや進捗を証明するための認定プログラムを提供している非営利団体を必ず確認してください。MGLのACT Label (ACTはAccountability (説明責任)、Consistency (一貫性)、Transparency (透明性) の略) は、サステナブルな研究用製品を選択する際に大変役立つリソースを提供しています。CSTは、MGLのスポンサーであることを大変誇らしく思っており、弊社の研究室や製品を正式に認証する手続きを開始しました。 

真の成功を収め、影響を拡大するには、成功事例の共有が重要です。協力し合い、無駄な労力を避ける必要があります。協力してソリューションを作成・実施することにより、科学におけるサステナビリティを推進し、良い変化を起こし続けることができます。

行動を組み合わせて、ソリューション (および課題) を共有することにより、地球や未来の世代のための健全で多様な世界的科学コミュニティーを築くことができるでしょう!

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弊社のサステナビリティへの取り組みに関する詳細は、こちらのブログ記事をご覧ください。 

サイエンティフィックマーケティングライターであり、CSTのブログマネージャーであるAlexandra Foleyが、本ブログ記事の執筆に協力しました。23-BCH-81596

Anthony Michetti
Anthony Michetti
Anthonyは、コンサルティングやエンジニアリングの会社、大学などで15年以上の経験を持つサステナビリティのリーダーです。気候変動と闘い、地球の健康の改善に、最大のインパクトを与える仕事をしています。生まれも育ちもマサチューセッツ州ナンタケット島であり、環境科学分野で学士号と修士号を取得しました。

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