CSTブログ: Lab Expectations

Cell Signaling Technology (CST) の公式ブログでは、実験中に起こると予測される事象や実験のヒント、コツ、情報などを紹介します。

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細胞周期の停止がいつ、なぜ起こるかを理解することは、発生、加齢、がんの研究をはじめ、それ以外の多くの研究分野にとっても重要です。

最高のツールが最高の結果を生み出すことは、誰もがよく知っています。ここでご紹介する老化研究のためのトップ10の標的リストは、そのすべてをカバーしています!

#1:β-Galactosidase Staining Kit

老化細胞は、pH依存的にβ-ガラクトシダーゼを発現することが知られており、特にpH 6で検出が可能です1 CSTの包括的なSenescence β-Galactosidase Staining Kit #9860には、細胞だけでなく凍結組織の、pH 6におけるβ-ガラクトシダーゼの検出に必要なすべての試薬が含まれています。複数の細胞集団あるいは組織サンプルを迅速かつ簡単に試験するのに最適です。原理は簡明であり、青色の染色は明るく鮮明です。

未処理の老化MCF-7細胞におけるpH 6.0でのβ-ガラクトシダーゼ染色

Senescence β-Galactosidase Staining Kit #9860を用いて、​Etoposide #2200処理 (12.5 μM、24時間) 後に4日間培養した、老化したMCF-7細胞 (右) と未処理の細胞 (左) を、pH 6.0でβ-ガラクトシダーゼ染色しました。

#2:p53 とリン酸化p53

がん抑制タンパク質p53は、非常によく研究されており、誰もがご存じかもしれません。DNA損傷応答 (DDR) 経路における主要なプレーヤーであるp53腫瘍抑制因子タンパク質は、細胞周期でも非常に重要な調節因子です。リン酸化p53の蓄積は、サイクリン依存性キナーゼ阻害剤 (CDKI) の活性化を促進し、最終的に細胞周期停止につながります。老化マーカーp53を用いた免疫蛍光染色による解析

HT-29細胞を p53 (7F5) Rabbit mAb #2527 (緑) を用いて免疫蛍光染色 (IF) し、共焦点顕微鏡で解析しました。アクチンフィラメントをDY-554 phalloidin (赤) で染色しました。

老化細胞の細胞周期停止は、蓄積して複数の異なるCDKIを活性化するリン酸化p53に大きく依存します。p53とリン酸化p53の量の比較は、多くの場合、DDR経路と老化を研究する上で重要なステップになります。

老化マーカーphospho-p53を用いた免疫蛍光染色による解析

未処理 (左) あるいはEtoposide処理 (右) したMCF-7細胞をPhospho-p53 (Ser46) Antibody #2521 (緑) を用いて免疫蛍光染色し、共焦点顕微鏡で解析しました。アクチンフィラメントをDY-554 phalloidin (赤) で染色しました。

#3:p21

最もよく確立された老化マーカーの1つであるp21は、p53の下流で調節されるサイクリン依存性キナーゼ阻害剤 (CDKI) です。CDK2と会合した場合に、p21は、G1/S期を介した進行をブロックすることにより細胞周期の阻害剤として機能します。

MCF7細胞をp21抗体を用いて免疫蛍光染色による解析をしました。

MCF7細胞を、p21 Waf1/Cip1 (12D1) Rabbit mAb #2947 (赤) とPhospho-Histone H3 (Ser10) (6G3) Mouse mAb #9706 (緑) を用いてIFして解析しました。DRAQ5® #4084を用いてDNAを染色し、青の疑似カラーで示しました。

#4:p16

もう1つの一般的かつ信頼できる老化マーカーであるp16は、CDKIのINK4ファミリーのメンバーであり、CDK4およびCDK6とともに、p16はG1期に細胞周期を停止します3 p16の発現は細胞の老化を促進すると考えられています。2

p 16を用いたHeLa細胞とHUVEC細胞からの抽出物のウェスタンブロット解析

HeLa細胞とHUVEC細胞の抽出物を p16 INK4A (D3W8G) Rabbit mAb #80772 (上) または β-Actin (D6A8) Rabbit mAb #8457 (下) を用いてウェスタンブロット (WB) で解析しました。

#5: LaminB1

老化細胞はしばしば形態学的な変化を示すため、LaminB1は老化の別の有用な指標になります。核の形態のマーカーであるLaminB1の発現は、老化したヒトとマウスの細胞では失われています4 LaminB1の消失、およびp21p16の蓄積の増加は、すべて老化の古典的な特性です。

Lamin B1およびβ-Actinを用いたHT-29細胞の免疫蛍光染色による解析

HT-29細胞を、Lamin B1 (119D5-F1) Mouse mAb #68591 (緑) と β-Actin (13E5) Rabbit mAb (Alexa Fluor® 647 Conjugate) #8584 (赤) を用いてIFして解析しました。Propidium Iodide (PI)/RNase Staining Solution #4087 (蛍光DNA色素)を用いてDNAを染色し、青の疑似カラーで示しました。

#6:  老化関連分泌表現型 (SASP)

老化細胞には多くの共通の特徴がありますが、同一ではありません。老化細胞の集団それぞれは、固有のレベルのサイトカイン、成長因子、およびプロテアーゼによって特徴づけられます。これらを老化関連分泌表現型 (SASP) と呼びます。SASP Antibody Sampler Kitには、ウェスタンブロッティング、免疫蛍光染色、フローサイトメトリーおよび免疫沈降を含む様々なアプリケーションで検証された、厳選された抗体が含まれています。このキットにより、細胞集団に特異的なSASPプロファイルを決定できます。

組換えヒトInterleukin-1βのウェスタンブロット解析

Recombinant Human Interleukin-1β (hIL-1β) #8900を、IL-1β (D3U3E) Rabbit mAbを用いてWBで解析しました。

#7:網膜芽細胞腫タンパク質 (Rb) およびリン酸化Rb

通常、網膜芽細胞腫タンパク質 (Rb)のリン酸化は、標的の転写抑制を緩和し細胞周期を進行させるために必要です。p21およびp16を含むCDKIは細胞周期を阻害し、Rbの過剰活性化を誘導します。これは、最終的に細胞周期の停止と老化を促進します4

RB抗体を用いたSH-SY5Y細胞の共焦点免疫蛍光染色

SH-SY5Y細胞を、RB (4H1) Mouse mAb #9309 (緑) を用いてIFして解析しました。アクチンフィラメントをAlexa Fluor 555 phalloidin (赤) で染色しています。

細胞周期を進行させるには、Rbがリン酸化される必要があるため、リン酸化Rbは老化細胞には見られません。p53と同様に、老化を研究する上でRbとリン酸化Rbの比較解析が最も重要です。

網膜芽細胞腫タンパク質 (Rb) とリン酸化Rbを用いた共焦点免疫蛍光染色による解析

MCF7細胞 (左) とBT-549細胞 (右) の未処理 (上) または λ phosphatase処理 (下) した細胞を、 Phospho-Rb (Ser807/Ser811) (D20B12) XP® Rabbit mAb #8516 (緑) を用いてIFして解析しました。アクチンフィラメントは、DY-554 phalloidin (赤) で染色しました。青の疑似カラー=DRAQ® #4084 (蛍光DNA色素)。

#8:gamma-H2A.X

Gamma-H2A.Xは、ヒストンH2Aのバリアントであり、DDR経路の古典的なマーカーです。DNAが損傷を受けると、H2A.XのSer139部位がリン酸化されてgamma-H2A.Xが形成されます5。 この修飾は、DNA損傷に対する応答として迅速そして確実に生じ、修復が必要な部位をマークするため、DDR経路と老化の研究の強力なツールとなります。

未処理あるいはUV処理したパラフィン包埋HT-29細胞をPhospho-Histone H2A.Xを用いて免疫組織化学染色で解析しました

パラフィン包埋HT-29細胞の未処理 (左) またはUV処理 (右) したスライドを、 Phospho-Histone H2A.X (Ser139) (20E3) Rabbit mAb #9718を用いてIFして解析しました。

#9:53BP1

p53結合タンパク質という直接的な名称でよばれる53BP1は、もともとはp53の結合パートナーとして同定され、その転写活性を増大させると考えられています6,7 53BP1は、DNA修復において重要な役割を果たします。また、53BP1は、DNA修復部位にリクルートされ、これらの部位における53BP1の保持は、gamma-H2A.Xに依存することが分かっています8

HeLa細胞を53BP1 Antibodyを用いて免疫蛍光染色し、53BP1共焦点顕微鏡で観察しました。

HeLa細胞を53BP1 Antibody #4937(緑) を用いて免疫蛍光染色し、共焦点顕微鏡で解析しました。アクチンフィラメントをAlexa Fluor® 555 phalloidin (赤) で染色しました。

#10: Ki-67

何かを検出する最善の方法の1つは、それが何をしていないかを特定することです。Ki-67は、増殖細胞のマーカーとして頻繁に使用される核タンパク質です。G1期から有糸分裂の終わりまでにかけて検出されますが、細胞がG0の旧式にある時には検出されません9老化細胞の特性は、細胞周期からの永久的な逸脱であるため、老化細胞はKi-67を発現しません。

Ki67を用いたヒト乳管がん組織のIHC解析

パラフィン包埋ヒト乳がんをKi-67 (8D5) Mouse mAb #9449を用いて免疫組織化学染色し、解析しました。

老化研究に用いる抗体の選択 

老化細胞のマーカーはたくさんあるのに、なぜ1つだけを選ぶのですか?これらの基本的なマーカーがいくつか含まれているSenescence Marker Antibody Sampler Kitからスタートすることをお勧めします。老化細胞の同定を始めるのに最適です。 

また、関連する標的の特定にDNA損傷応答 (DDR) のインタラクティブパスウェイ図をご利用ください。

 

参考文献:

  1. Hernandez-Segura A, Nehme J, Demaria M. Hallmarks of cellular senescence. Trends in Cell Biology. 2018;28(6):436-453. doi:10.1016/j.tcb.2018.02.001
  2. LaPak KM, Burd CE. The molecular balancing act of p16(INK4a) in cancer and aging. Mol Cancer Res. 2014;12(2):167-183. doi:10.1158/1541-7786.MCR-13-0350
  3. He S, Sharpless NE. Senescence in Health and Disease. Cell. 2017;169(6):1000-1011. doi:10.1016/j.cell.2017.05.015
  4. Gorgoulis V, Adams PD, Alimonti A, et al. Cellular Senescence: Defining a Path Forward. Cell. 2019;179(4):813-827. doi:10.1016/j.cell.2019.10.005
  5. Sharma A, Singh K, Almasan A. Histone H2AX phosphorylation: a marker for DNA damage. Methods Mol Biol. 2012;920:613-626. doi:10.1007/978-1-61779-998-3_40
  6. Iwabuchi K, Bartel PL, Li B, Marraccino R, Fields S. Two cellular proteins that bind to wild-type but not mutant p53. Proc Natl Acad Sci U S A. 1994;91(13):6098-6102. doi:10.1073/pnas.91.13.6098
  7. Ward IM, Minn K, Jorda KG, Chen J. Accumulation of checkpoint protein 53BP1 at DNA breaks involves its binding to phosphorylated histone H2AX. J Biol Chem. 2003;278(22):19579-19582. doi:10.1074/jbc.C300117200
  8. Wang B, Matsuoka S, Carpenter PB, Elledge SJ. 53BP1, a mediator of the DNA damage checkpoint. Science. 2002;298(5597):1435-1438. doi:10.1126/science.1076182
  9. Lawless C, Wang C, Jurk D, Merz A, Zglinicki Tvon, Passos JF. Quantitative assessment of markers for cell senescence. Experimental Gerontology. 2010;45(10):772-778. doi:10.1016/j.exger.2010.01.018
Tamar Aprahamian, PhD
Tamar Aprahamian, PhD
Tamar Aprahamian博士は、JetPub Scientific Communications社の創始者であり、ライフサイエンス業界や学術機関向けに戦略的サポートと質の高いライティングサービスを提供しています。以前は、学術機関およびバイオテクノロジー関連のベンチャー企業で勤務していました。また、助成金研究部門や学術誌の査読者を務めるほか、研究プログラムに関連した38本の論文を発表しています。Tamar博士は、タフツ大学で細胞生物学、分子生物学、発生生物学の博士号を取得しました。

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