カリフォルニア州サンディエゴで開催された今年のAACR (American Association of Cancer Research) 年次大会では、空間生物学や細胞療法、標的タンパク質分解、オミクス、様々な種類の大規模なコンピューター解析が注目を集めました。AACR史上最大規模となる、7,200題を超える口頭発表や3,000題を超えるポスター発表、数十のシンポジウムが開催され、参加者は、がん治療の未来を垣間見ることができました。
AACRの前会長であるPhil Greenberg博士は、最新の技術の進歩により、今後数十年のうちに「がんの予防法や診断法、治療法は飛躍的に進展するだろう」と開会の挨拶で述べました。また、Greenberg博士は、こうした最新の進歩が盛り上がりをみせる中で、一般の人々と明確かつ簡潔なコミュニケーションを継続的に行う必要性についての注意を促しました。COVID-19のパンデミックは、科学者の科学的理解と一般の人々の見識との間に乖離があることを浮き彫りにしました。科学者は、この理解の乖離を埋めるために、一般の人々への働きかけを他の専門的なスキルアップと同様に行い、科学者ではない人との効果的な科学的コミュニケーションを可能にするロールモデルや指導者を探す必要があるとGreenberg博士は述べています。
AACR 2024でのCSTのブース。
科学研究コミュニティにおいても、人工知能や大規模言語モデル、複雑なコンピューター解析の利用が増加しており、分野横断的なコラボレーションと効果的なコミュニケーションの必要性が高まっています。
「大規模なデータセットや大量の臨床データ、複雑なバイオインフォマティクスツールを使用する時代が到来しています。これらの情報のすべてを、効果的な科学や追跡実験、治療に適切に活用するためには、強力な解析手法が必要です。」と、CSTの免疫学部デベロップメントサイエンティストであるBrad Hoganは述べます。「これは、特定の1つか2つの経路における、特定の1つか2つの遺伝子またはタンパク質だけに焦点を当てていた私の博士時代とは大きく異なります。」
「コンピューター科学者は、今やがんとの戦いの最前線に立つ中心的な存在です。生物学分野の教育を受けた私たちが、大規模なコンピューター解析の影響を理解できるように、AACRなどの産業学会に参加される方も増えています。」と、CSTの製品デザイン・戦略部シニアダイレクターであるAntony Woodが補足します。データサイエンスが学術的、理論的な領域から本格的なトランスレーショナル医療へと移行するにつれ、互いの分野での経験が限られている研究者同士間での新しいコミュニケーションやコラボレーションの方法が必要となります。
このような研究者間の障壁を取り壊す方法から、私たちは、効果的な科学コミュニケーションのとり方について多くを学ぶことができます。AIやデータサイエンスのニュアンスの違いに戸惑ったことがある生物学研究者は、新しい技術分野に馴染むことはいかに大変かという、この感覚を忘れないでください。この経験や、コラボレーションを成功させるために有効であった戦略が、科学者と科学者以外の人の間で成立する、より数多くの影響力のある会話の促進に役立ちます。複雑な概念やアイデアを明確に表現し、科学を一般の人々にも理解しやすく、親しみやすくする能力は、今後の研究にとって極めて重要です。
AACRに参加したCSTの科学者と会話を始めるにあたり、大会で最も興奮したこと、そして、この大会が「がん研究の未来」にとって何を意味するのかを聞きました。以下に、彼らのコメントを掲載します。
Amrik Singh(CST免疫学製品デザイン・戦略部フェロー)
「AACR2023やSITC2023の流れを引き継ぎ、固形がん治療のための、革新的な細胞ベースの免疫療法の開発に大きな注目が集まっています。ゲノムワイドなCRISPRスクリーニングと合成生物学により、固形がんへの強力な攻撃を促進する、T細胞を改変して再配置するという前例のない数の新たなアプローチが生み出されています。」
Antony Wood(製品デザイン・戦略部シニアダイレクター)
「シングルセルレベルのトランスクリプトミクスやプロテオミクス、遺伝学、そしておそらくはリン酸化プロテオミクスを駆使した、がんという疾患の複雑性を理解するための大規模言語モデル(LLM)は、ロースループットな非臨床研究段階ではなく、大規模なコンピューター解析によって治療上の脆弱性の確実に予測する段階に入りつつあります。 さらに、病理診断用のAIベースの画像解析手法も登場しています。問題は、このような技術が「いつ」 コミュニティや規制当局に採用されるのかということです。「採用されるかどうか」の問題ではありません。しかし、注意も必要です。AIを使用する際は、いつ、どんな時であっても、研究室で開発された他の種類のツールや技術、治療法と同じように、厳密な検証方法を用いて結果を確認することが重要です。」
Brad Hogan(イムノロジーデベロップメントサイエンティスト)
「多くの科学者が現在、一般的に「-オミクス」と呼ばれる様々な大規模データセットを活用することで、新たな治療標的だけでなく、併用療法に理想的な標的や、非常に有望な効果を持つがん治療用の特別な抗体デザインをゼロから見つけ出すことができるという事実に大変感動しました。トリプルネガティブの乳がんや非小細胞肺がん、膵臓がんなどの特に治療が困難ながんに対する、特異的かつ有効な治療法を生み出すために、これらの大規模なオミクスデータセットを機械学習と結びつける能力は非常に斬新であり、有効な治療法が増えることを期待しています。」
Jeremy Fisher(コンジュゲーションアソシエイトダイレクター)
「マルチプレックスかつマルチモーダル (複数のデータセットを使用すること) な戦略は、二重特異性抗体薬物複合体や三重特異性キラー細胞エンゲージャーのような新規治療薬から、完全に統合された空間プロテオミクスやトランスクリプトミクス、3Dイメージングに至るまで、がん研究のあらゆる局面に根付いています。さらに、ライブセル解析とマルチスケールモデリング用の新たなツールは、タンパク質発現や細胞の表現型の調査に使用されるほとんどのプラットフォームの確率的性質に適合します。
免疫系とがん微小環境とのダイナミックな相互作用の時空間的な理解は、治療法開発における新たな選択肢を導くでしょう。」
AACR 2024におけるCell Signaling Technologyの成果
毎年、CiteAb社はAACRにおいて、研究試薬部門のライフサイエンス関連組織を表彰し、業界への貢献を称えています。これらの賞は、様々な分野の科学論文における製品の引用頻度などの、いくつかの要素に基づいて決定されています。CSTは、今年は3部門で表彰されました:
- Award for Significant Individual Impact:CSTの最高科学責任者であるRoberto (Roby) Polakiewicz, PhDは、新たな抗体作製方法の開発や、抗体作製会社に対する科学的再現性の基準の提唱など、高品質な抗体の作製への取り組みが評価されました。
- Antibody Supplier Succeeding in South Korea: CiteAb社がまとめた抗体試薬の引用数データベースの解析によると、CSTは、韓国においてここ一年で最も抗体が引用された企業であったため表彰されました。
- Innovation Award: SignalStar™ Multiplex Immunohistochemistry (mIHC) アッセイは、CiteAb社のInnovation Award部門で高く評価されました。このソリューションは、柔軟性がある、すぐに使用可能な空間生物学研究用のツールであり、ハイスループットなマルチプレックスIHCアッセイを用いて、わずか2日間で最大8種類の標的を増幅できます。
左から:CiteAb社のCEOであるAndrew Chalmers氏、CSTのマーケティング部シニアバイスプレジデントのHarjit Kullar博士、CSTのCOOであるCraig Thompson氏
CSTのポスターとプレゼンテーションのハイライト
ポスター:Quantitative evaluation of biomarkers for TGF-β-induced epithelial-mesenchymal transition in biochemical, cellular, & 3D spheroid model systems |Tony Wood, PhD, Sr Director of Product Design & Strategy, CST with Agilent Technologies |
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ポスター:A Systematic Comparison of Common mIHC Methodologies to the Novel SignalStar Assay in the Characterization of the TME | Jennifer Ziello, MS, Sr Research Associate, CST |
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ポスター: Spatial Architecture of Tumor and Immune Cell Lineages in Syngeneic Mouse Tumor | Lisa Arvidson, PhD, Custom Antibody Conjugation Team Lead, CST with Leica Microsystems |
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ポスター:A Novel Monoclonal Antibody for the Detection, Enrichment & Activation of Cells Expressing scFv-Based Chimeric Antigen Receptors | Amrik Singh, PhD, Senior Fellow, Immunology, CST |
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ポスター:Selecting Your Epigenomic Assay: Comparing ChIP-seq, CUT&RUN, and CUT&Tag | Angela Guo, PhD, Scientist, Epigenetic Applications, CST |
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