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Cell Signaling Technology (CST) の公式ブログでは、実験台に向かう時間に期待すること、ヒント、コツ、情報などを紹介しています。

細胞を手動または自動セルカウンターで正確にカウントする方法

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研究室では、サンプル中の細胞数を知る必要がある場面が多々あります。以下は、動物またヒトの細胞株や初代細胞サンプルのカウントが必要になる例です。

  • プラスミドDNAやsiRNA、またはCRISPRによるノックダウンのためのトランスフェクション反応の準備
  • 培養する細胞株の増殖と生存率のモニタリング
  • 細胞の継代の際における、新しい容器への正確な細胞数の播種
  • 臨床研究室での使用 (赤血球のカウントなど)

手動、または血球計数板による細胞の計数

細胞をカウントする際、精度を確保することが最も重要です。本ブログでは、手動または自動セルカウンターのどちらの場合にも、細胞数のカウントの精度に影響を与える変数を紹介します。

ビデオ:細胞の分割における不可欠なヒント

細胞カウント法と代表サンプルの重要性

細胞のカウントは、手動または自動で行うことができます。自動セルカウンターは、一般的に血球計算盤と呼ばれる専用のチャンバーと光学顕微鏡を用いて行われる手動の細胞カウントと比較して、時間の節約になります。しかし、いずれの方法を行うとしても、適切なサンプリングが、正確な細胞数のカウントにつながります。

研究者は通常、滅菌操作により細胞培養器から小量のサンプル (約10 - 50 μL) を取り出し、そのサンプル中の細胞をカウントし、その後サンプルを廃棄します。これは培養している細胞株の無菌状態を維持するためです。統計学の初級コースを履修したことがある人であれば、サンプリングに基づくあらゆる測定の精度は、代表として選ばれたサンプル集団に依存することをご存知でしょう。細胞数をカウントする場合、サンプリング前の細胞は、塊やダブレットのない均一なシングルセル懸濁液であることが必要です。接着細胞株はトリプシンや他の方法を用いて完全に解離させる必要があります。細胞のカウントを始める前に、サンプルを一部回収し、顕微鏡を用いて塊やダブレットが最小限のシングルセル懸濁液であることを目視で確認することをお勧めします。

ビデオ:滅菌操作で行うべきこと、行うべきではないこと

振盪培養していない場合、浮遊細胞株は容器の底に溜まります。したがって、接着細胞株と浮遊細胞株のいずれの場合も、サンプリング用に少量を取り出す直前に、懸濁液を慎重に上下にピペッティングして再懸濁する必要があります。これにより代表的なサンプルを確保し、細胞カウントの精度を向上させることができます。

自動セルカウンターを用いる場合

自動セルカウンターは、異なる革新的な技術2, 3に基づいた様々な機器が多くのメーカーから発売されており、細胞培養を行う施設では年々普及しつつあります。洗浄して再利用可能なサンプルチャンバーを用いたカウンターや、使い捨てのチャンバーやスライドを用いたカウンターもあります。さらに細胞のカウントに電気抵抗を用いた機器や、蛍光色素や比色分析用色素を用いて生存率や表現型解析を行うことができるイメージングをベースする手法を用いた機器もあります。例えば、手動で生存率のカウントを行う際には一般的にトリパンブルーが用いられてますが (トリパンブルーに関する以下のセクションを参照)、多くの自動システムは負に帯電した色素に適合しています。 

セルカウンターの設置面積 (サイズ)、複雑さ、機能、かかるコストも大きく異なります。自動セルカウンターを使用する場合は、サンプルの準備方法やロードする量、細胞の種類に応じた特別な要件、最適化が必要なソフトウェアや機器の設定 (イメージング時のフォーカスや露出時間など) に関するメーカーの指示に従ってください。

血球計算盤を用いる場合

自動システムが施設にない場合は、グリッドが刻まれた再利用可能または使い捨ての血球計算盤を用いて手動で細胞をカウントすることができます。細胞懸濁液は、グリッドとカバーガラスの間に生じる毛細管現象によってチャンバーに引き込まれ、薄い層を形成します。グリッドとチャンバーの高さを正確に測定することにより、そこに含まれる細胞懸濁液の液量が得られ、細胞密度を算出することができます。

注意:血球計算盤に用いるカバーガラスはとても薄く、免疫組織化学染色や免疫細胞化学アッセイに用いるカバースリップとは形状が異なります。

再利用可能な血球計算盤を用いる場合は、血球計算盤とカバーガラスを清潔に保ち、誤って落とすと簡単に壊れてしまうので、慎重に扱う必要があります。使用前に、血球計算盤とカバーガラスをレンズペーパーで拭き、細胞数のカウントを妨げるほこりや粒子を取り除いて、カバーガラスをチャンバーの上に重ね合わせます。

真核細胞の培養液のカウントに用いられる典型的なグリッドパターンは、ノイバウエルチャンバーです (図1)。血球計算盤は2つの計算室を持ち、それぞれにグリッドで仕切られた3x3の大きな正方形が刻まれています。各大きな正方形は1 mm x 1 mmであり、チャンバーの高さもまた1 mmであるため、この正方形内に含まれる液量は0.1 μLになります。低倍率の顕微鏡 (通常は10倍) の対物レンズを用いることにより、正方形の1つを視野内に収めることができます。 

血球計数板Neubauerチャンバー

図1:2面の計算室を持つ血球計算盤の各面には、9つの大きな区画 (1 mm) が刻まれており、各区画は0.1 μLの液量に相応します。多くの細胞株では、隅の正方形を用いてカウントしますが、赤血球のようなより小さな細胞の場合は、高倍率の顕微鏡で中心部の正方形を用いてカウントします。

手動で細胞を数える場合は、機械式またはデジタル式の数取器があると便利です。また、生細胞と死細胞のカウントを行う場合は (図2)、複数の集団を同時に計数できる2連 (またはそれ以上) の数取器が便利です。

数取器と差動式2キーカウンター図2:シンプルな数取器 (左) と2連数取器 (右)。

血球計算盤を用いた細胞のカウント:カウントしてみましょう!

まず、カバーガラスを血球計算版の上に重ね合わせて、推奨される量の未標識またはトリパンブルーで標識した懸濁液を、ピペットを用いてロードします。液面が屈曲して両側のグリッドを越えていくのを確認してください。ただし、過剰に入れないように注意してください。液量が多すぎると、チャンバー内の高さ/体積が変化し、誤ったカウントになる可能性があります。 

16個の小さな区画からなる4×4のグリッドに細分化された隅の区画の1つからカウントを開始します。計数器を用いて小さな正方形の中にある細胞をカウントし、決められたパターンに従って (例えば1番上の段を左から右へ、1つ下の段へ移り左から右へ、など) 16個の正方形に含まれるすべての細胞をカウントします。重複してカウントすることを避けるために、「小さな正方形の右側や下側の境界線に触れている細胞はカウントする、左側や上側の境界線に触れている細胞はカウントしない」などのルールを決めて、すべての正方形のカウントに適用します (図3)。

血球計数板_数取器と2キーカウンターの比較

図3:1mmの大きな正方形のうちの1つ (左のパネルの色がついた部分) を拡大して中央のパネルに示しています。1番上の左側の小さな正方形をさらに拡大して細胞を描画し、右のパネルに示しています。この例では、小さい正方形の中にある生細胞と死細胞をカウントし、右側と下側の境界線に触れている細胞はカウント、左側と上側の境界線に触れている細胞はカウントしないというルールを適用しました。従って、この簡略化された図では、正しい数は生細胞10個、死細胞3個になります。

1度に1つの大きな正方形 (1 mm) を数えます。トリパンブルー (トリパンブルーに関する以下のセクションを参照) シンプルな計数器を用いている場合は、まず生細胞をカウントして合計数を記録してから、数取器をリセットして青い細胞 (死細胞) をカウントし、これも次の大きな正方形のカウントに進む前に記録しておきます。2連計数器を用いている場合は、1つのチャンネルで生細胞を、もう1つのチャンネルで死細胞をカウントします。いずれにせよ、大きな細胞内の合計数を記録し、計数器をリセットしてから次の正方形のカウントに進みます。終了したら、1つの大きな正方形あたりの生細胞と死細胞の平均値を計算します。 

一般的な手法では、血球計算盤の片側の4つの大きな (1 mm) 角の正方形の細胞をカウントしますが、8つの大きな正方形をカウントする (血球計算盤の両方の計算室を用いる)、または任意の数の正方形をカウントすることもできます。細胞の密度が高い場合はより少ない数のマスを使い、低い場合はより多くのマスを使い、正確な平均値を算出します。密度が高く、何百もの細胞を数えなければならない場合は、懸濁液をさらに希釈し、血球計数盤を洗浄した後、再度カウントしてください。

細胞生存率:トリパンブルーを用いた生細胞と死細胞の識別

細胞の生存率を評価するために、生細胞と死細胞の集団をカウントすることがよくあります。また、培養細胞に何か問題があり、実験結果に影響を与える可能性がある場合に備えて、経時的に生存率のパーセントを記録しておくことも良い習慣です。生存率の測定に日常的に用いられる方法は、トリパンブルー色素排除法です。膜が無傷の生細胞は、トリパンブルー色素が細胞内に入るのを排除し、透明で染色されません。細胞膜が壊れた死細胞や瀕死の細胞は、トリパンブルーが細胞質内に入り込み、青く染まります。

参考:細胞生存率とその測定法

トリパンブルーは様々なサプライヤーから入手可能です。細胞サンプルに配合する色素溶液の量や、生存率を測定する前のインキュベーション時間 (自動または手動の方法どちらの場合についても) はメーカーの説明書に従ってください。CSTの細胞培養室では、カウント前に0.4%トリパンブルー10 μLを細胞サンプル10 μLに加えます。希釈倍率は、サンプル中の細胞の元の密度を逆算するために必要ですので、記録しておいてください。

注意:トリパンブルー標識は、生存率ではなく、細胞の透過性を評価するために使用することもできます。例えば、CST CUT&RUNプロトコールでは、細胞が十分に透過化され、抗体や酵素などの試薬が核内のクロマチンにアクセス・結合できることを確認するために、トリパンブルー染色を用います。

細胞密度の計算

細胞密度 (1mLあたりの細胞数) を計算するには、大きな正方形1つあたりの平均細胞数を104倍し (大きな正方形1つあたりの体積は0.1 μL、0.0001 mL = 1x10-4 mLと覚えておいてください) 、それに希釈倍率をかけます。

例として、8つの大きな正方形をカウントし、以下のような総数になったとします。

正方形 生細胞 死細胞
1 58 2
2 61 3
3 68 4
4 61 3
5 77 2
6 55 3
7 66 2
8 49 1
トータルタンパク質 495 20

 

各正方形の生細胞の平均数を計算するには:

495細胞 ÷ 8正方形 = 61.875細胞/正方形

次に、この数字に104をかけて、その後5をかけます。なぜならこの例では、この細胞はトリパンブルーで染色する際に1:5に希釈されているからです。 

61.857細胞 x 104 x 5 = 309.375 x 104細胞/mL = 3.094 x 106細胞/mL (切り上げ)

これが生細胞の密度です。新しいプレートに細胞を播種する場合は、この数値を用いて、細胞培養ディッシュの面積あたり推奨される細胞数を播種するために必要な液量を計算します。 

生存率の計算

生存率を計算するには、まず生細胞と死細胞を足して、細胞の総数 (535) を求めます。次に、生細胞を細胞の総数で割って、生存率 (パーセント) を算出します:

495 ÷ 515 = 0.961 = 96.1%

細胞株や分割方法によって、基本となる生存率が高くなったり低くなったりすることがあります。実験ノートや細胞培養ログに生存率を書いておくと、時間経過に伴った細胞の生存率をモニタリングできます。 

カウントが終わったら、カバーガラスを外し、70%エタノールを血球計数板とカバーガラスに吹き付ける、または垂らして細胞を死滅させてきれいに拭き取ります。血球計数盤とカバーガラスを純水ですすぎ、水分を拭き取って乾かします。レンズペーパーでもう一度拭き、血球計数盤とカバーガラスをレンズペーパーで包み、ケースや箱に収納してください。

参考文献

  1. Stevenson K, McVey AF, Clark IBN, Swain PS, Pilizota T. General calibration of microbial growth in microplate readersSci Rep. 2016;6:38828. 2016年12月13日発刊 doi:10.1038/srep38828
  2. Smith C. Counting cells by manual and automated methods. Biocompare. https://www.biocompare.com/Editorial-Articles/593111-Counting-Cells-by-Manual-and-Automated-Methods/. Published 2023 年 1月 03 日. アクセス:2023 年 4月 25 日

  3. Easthope E. Accurate cell counting. Biocompare. https://www.biocompare.com/Editorial-Articles/347331-Accurate-Cell-Counting/. Published 2018 年 3月 14 日. アクセス:2023 年 4月 25 日

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Kenneth Buck, PhD
Kenneth Buck, PhD
細胞生物学を学んだKenは、ラトガース大学で博士号を取得し、その後イェール大学でポスドク研究を行い、再生する神経細胞の細胞運動性に関与する細胞骨格の動態とシグナル伝達機構について学びました。CSTでは、他の科学者と協働してマルチメディアによる科学コミュニケーションを構築しています。ビデオのスクリプトを書いているときや、スタジオにいるとき以外は、Kenの庭ともいえる岩でごつごつしたマサチューセッツ州ノースショアで、同僚と共にマウンテンバイクを乗り回しています。

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