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オートファジー:それは細胞が自らを食べる世界

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「自分喰い」にご興味がなければ、次の文章は読みたくはないでしょうが...あなたの細胞は、今まさに自分たちを食べているところです!1960年代、Christian de Duve氏はこのプロセスに「オートファジー」という名前を付けました。ギリシャ語の「auto (自己)」と「phagein (食べる)」から来た名前です。彼は後に、細胞生物学分野への貢献に対しノーベル生理学または医学賞を受賞しました。「autophagy」と名付けたde Duve氏は、後に皆がその発音に悩まされるようになるとは思いもしなかったでしょう。「オートファジー」?それとも「オートファギー」?ちょっと、トメイト (tom-ay-tow) なのか、トマト (tom-ah-tow) なのかに似ていますが、実はどちらも正しいのです。当のde Duve氏でさえ「名前を付けたのは確かだが、発音の仕方までは決めていない。」と述べています。

このブログでは、飢餓に誘導されるオートファジーのシグナル伝達における、オートファジーのメカニズムとULK複合体、特にULK1の役割をご紹介します。

オートファジー:それは細胞が自らを食べる世界

発音はどうであれ、オートファジーにより大量の細胞質内容物、異常なタンパク質凝集体、過剰であったり損傷したオルガネラを分解し、これにより発生する代謝物を再利用することができます。これは「正常な」細胞ではホメオスタシスを維持するため一定の割合で発生しますが、栄養飢餓や酸素欠乏、小胞体 (ER) ストレスなどストレスの高い状態では、生存機構としても使われます。今では、オートファジーは多数の生理学的および病理学的イベントに関与していることが分かっており、オートファジーに関わる複雑で、高度に制御されたシグナル伝達に対する理解が深まりつつあります。

オートファジーの機構

歴史的にみると、哺乳類のオートファジーシグナル伝達に関する知識の大半は、酵母の研究から得られました。哺乳類のオートファジーは、酵母の頃から高度に保存されていることが分かったのです。酵母の遺伝子スクリーニングにより15個のオートファジー関連遺伝子 (ATG) がみつかり、さらにこれらの遺伝子の変異がオートファジーの欠損の原因となることが分かりました1。今では、36個以上のATGコア遺伝子が酵母で報告されています。哺乳類のオートファジー関連タンパク質の様々な名前は酵母に由来しており、それが哺乳類のオートファジー経路にあるタンパク質の名前の多くに「AtgX」が付いている理由です。

 

栄養飢餓状態のオートファジーにおけるシグナル伝達

アミノ酸やグルコースの欠乏といった栄養飢餓のようなストレスに応答して、細胞内にファゴフォアと呼ばれる二重膜構造が形成され、それが細胞質成分を取り囲むように伸長していきます (カーゴ)。最終的に、カーゴを取り囲んだ膜が閉じ、オートファゴソームと呼ばれる構造を作ります。その後、オートファゴソームは、酸性条件下で最もよく働く酵素混合物を含む膜結合性オルガネラであるリソソームと融合し、オートリソソームを形成します。カーゴはリソソームの酵素によって分解され、結果として生じる栄養素は細胞が再利用できます。

 

ULK1:栄養センシングとオートファゴソーム形成との間の橋渡し

オートファゴソームの形成に先立ち、オートファジーシグナル伝達経路は、ULK1またはULK2、FIP200Atg101およびATG13により構成されるULK複合体 (哺乳類においては-酵母においてはATG1複合体) の活性化によって引き起こされます2このULK1複合体は、栄養素やエネルギーのセンサーであるmTORおよびAMPKを上流とすると、下流のオートファゴソーム形成の間の橋渡しとしての役割を果たします。ULK1およびULK2は、高度にリン酸化されています。40を超えるULK1のリン酸化部位が現在までに報告されています3。活性化されると、ULK1複合体はファゴフォアと結合し、ファゴフォア膜上にULK1の点状構造を形成します。このファゴフォア膜上では、いくつかの他の複合体も動員されますが、その過程はまだよくわかっていません4

 

ULK1によるオートファジーの制御

ULK1のリン酸化がオートファジーの制御の主な機構であり、AMPKとmTORの2つがULK1リン酸化するキナーゼであることが以前から分かっていました。実際、これらのタンパク質が触媒する特定のリン酸化イベントは、オートファジーにおいて重要な役割を果たします。栄養飢餓状態では、AMPKが活性化され、mTORは不活化されています。AMPKは、ULK1のSer 317Ser 467Ser 555、Ser 574、Ser 637、Ser 777をリン酸化することによりオートファジーを促進します。栄養が足りているときは、AMPKは不活性化されており、mTORはULK1のSer757をリン酸化してULK1-AMPKの相互作用を阻害することにより、AMPKによるULK1の活性化を防ぎます。これはオートファジーの「スイッチが切れた」状態です 5、6

ULKはオートファジーシグナル伝達の中心であるだけでなく、コアオートファジータンパク質の中で唯一のセリン/スレオニンキナーゼであることに注目されます。このような事実にもかかわらず、ULK1がリン酸化するタンパク質がどれであるかについては、ほとんど何も分かっていません。Egan氏らは近年、あるULK1コンセンサスリン酸化モチーフを報告しました7。著者らは、ULK1の基質を特定するためにヒトプロテオームを探索し、このモチーフが含まれるタンパク質を見つけようとしました。多数のコアオートファジータンパク質が見つかったことは驚きではありません。この探索により、Atg13Vps34Beclin-1などが見つかりました7

Vps34 (Class III PI3 Kinase) は、オートファジーのもう1つの必須タンパク質であり、またオートファジーシグナル伝達経路の重要な調節因子です 8。Vps34、Beclin-1、p150Atg14が含まれるVps34複合体は、ULK1複合体のちょうど下流にあります。事実、オートファジーにはULK1によるBeclin-1のSer15のリン酸化が必要であることが分かっています9。 

オートファジーシグナル伝達経路を解明すれば、オートファジーの細胞ホメオスタシスの維持における役割と、がん、糖尿病、神経変性疾患のような疾患においてどのように誤制御されているかをより良く理解することができます。ULK1などの必須タンパク質の不活性化によるオートファジーの阻害は、これらの疾患の治療法となり得るのでしょうか?新たな検討材料であることには間違いありません。

追加リソース:

オートファジーシグナル伝達についてもっと詳しく知りたいですか?オートファジー経路のハンドアウトを含む、CSTの細胞成長と生存能力シグナル伝達経路をダウンロードしてください。

 

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ソーク研究所のReuben Shaw博士による、オートファジーとULK1を治療の標的とする生物学的研究についてのオンデマンドのウェビナーをご覧になることもできます。

 

参考文献:

  1. Tsukada M, Ohsumi Y (1993) Isolation and characterization of autophagy-defective mutants of Saccharomyces cerevisiae. FEBS Lett. 333(1-2), 169–74.
  2. Ganley IG, Lam du H, Wang J, Ding X, Chen S, Jiang X (2009) ULK1.ATG13.FIP200 complex mediates mTOR signaling and is essential for autophagy. J. Biol. Chem. 284(18), 12297–305.
  3. Bach M, Larance M, James DE, Ramm G (2011) The serine/threonine kinase ULK1 is a target of multiple phosphorylation events. Biochem. J. 440(2), 283–91.
  4. Itakura E, Mizushima N (2010) Characterization of autophagosome formation site by a hierarchical analysis of mammalian Atg proteins. Autophagy 6(6), 764–76.
  5. Kim J, Kundu M, Viollet B, Guan KL (2011) AMPK and mTOR regulate autophagy through direct phosphorylation of Ulk1. Nat. Cell Biol. 13(2), 132–41.
  6. Egan DF, Shackelford DB, Mihaylova MM, Gelino S, Kohnz RA, Mair W, Vasquez DS, Joshi A, Gwinn DM, Taylor R, Asara JM, Fitzpatrick J, Dillin A, Viollet B, Kundu M, Hansen M, Shaw RJ (2011) Phosphorylation of ULK1 (hATG1) by AMP-activated protein kinase connects energy sensing to mitophagy. Science 331(6016), 456–61.
  7. Egan DF, Chun MG, Vamos M, Zou H, Rong J, Miller CJ, Lou HJ, Raveendra-Panickar D, Yang CC, Sheffler DJ, Teriete P, Asara JM, Turk BE, Cosford ND, Shaw RJ (2015) Small Molecule Inhibition of the Autophagy Kinase ULK1 and Identification of ULK1 Substrates. Mol. Cell 59(2), 285–97.

  8. Jaber N, Dou Z, Chen JS, Catanzaro J, Jiang YP, Ballou LM, Selinger E, Ouyang X, Lin RZ, Zhang J, Zong WX (2012) Class III PI3K Vps34 plays an essential role in autophagy and in heart and liver function. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 109(6), 2003–8.

  9. Russell RC, Tian Y, Yuan H, Park HW, Chang YY, Kim J, Kim H, Neufeld TP, Dillin A, Guan KL (2013) ULK1 induces autophagy by phosphorylating Beclin-1 and activating VPS34 lipid kinase. Nat. Cell Biol. 15(7), 741–50.
Claire S
Claire S
ClaireはCSTのサイエンスライターです。

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