細胞老化は、細胞が永続的に増殖を停止した状態であり、様々な環境因子 (電離放射線、化学療法薬、酸化ストレス、DNA損傷、ミトコンドリアの機能障害、がん遺伝子の活性化など) によって引き起こされます。細胞老化は、正常な発生プロセスや創傷治癒の段階、加齢および加齢関連疾患の結果として起こります。したがって、細胞老化がこれらのプロセスにどのように関与するかを明らかにすることで、細胞老化の促進や抑制を利用した疾患の治療法が開発できる可能性があります。
老化した細胞には、巨大な扁平化した形態、核膜の崩壊、リソソームやミトコンドリア機能の代謝調節障害、DNA損傷の発現、細胞周期の停止を制御する遺伝子の発現亢進など、他の細胞とは異なる特徴 (すなわち、細胞老化のマーカー) がみられます。さらに、老化した細胞には様々なサイトカインや増殖因子、プロテアーゼを発現して分泌するSASP (Senescence-associated secretory phenotype) と呼ばれる現象がみられ、これが周辺組織の微小環境に作用します。
老化細胞と非老化細胞細胞は、リソソームやミトコンドリア含量の増加を検出するアッセイによって区別することができます。例えば、β-galactosidaseの発現はリソソーム活性に相関し、β-galactosidase staining kitを用いて検出することができます。これは老化細胞のマーカーとして最もよく利用されるものの1つです。同様に、老化した細胞におけるミトコンドリア含量の増加は、COX IV、Porin (VDAC)、SDHA、その他のミトコンドリアタンパク質を調べることで見積もることができます。老化した細胞ではミトコンドリア含量が増加する傾向がありますが、これらのミトコンドリアの多くが機能不全であることに注意することが重要です。これは一般に、SAMD (Senescence Associated Mitochondrial Dysfunction) 表現型として知られており、ATP産生における酸化的リン酸化の減退と解糖系の亢進、高濃度の活性酸素種がみられます。
In vitroの培養系における形態的な違いとして、老化細胞には巨大な扁平化した形態のほか、Lamin B1の発現低下による核膜の崩壊がみられます。複数のSAHF (Senescence-associated heterochromatin foci) を伴うクロマチンの再編成や、持続的なDNA損傷を老化細胞の特定に利用することもできます。SAHFのマーカーとして、MacroH2A、HP1 (Heterochromatin protein 1)、H3K9Me2/3 (ヒストンH3の9番目のリジンのジメチル化やトリメチル化) などが利用されています。同様に、早期および持続的なDNA損傷のマーカーであるヒストンγ-H2A.Xのリン酸化も、老化した細胞のマーカーとして機能します。
ATM やATR などのDNA損傷応答 (DDR) で活性化されるセリン/スレオニンキナーゼ、がん抑制タンパク質p53なども細胞の老化で活性化され、老化細胞のマーカーとして利用することができます。DDRはp16、p21、p27の活性化に集約し、RB (Retinoblastoma) のリン酸化レベルの低下を介して最終的に細胞周期からの離脱を誘導します。Senescence Marker Antibody Sampler Kitは、これらの研究でよく利用される老化マーカーの詰め合わせです。
SASP (Senescence-associated secretory phenotype) によって分泌されるタンパク質は、様々な環境下で老化細胞の存在を確認するために利用することができます。これには多くの炎症性サイトカイン (IL-6やIL-1βなど)、プロテアーゼ (MMP3)、増殖因子 (EGFやVEGFなど) が含まれます。SASP antibody sampler kitをご利用いただくことで、様々なSASPコンポーネントを経済的に検出することができます。
老化細胞の検出や研究には、上記のようなマーカーが利用されていますが、全ての老化細胞でこれらのマーカーが均一に発現している訳ではないことに注意することが重要です。また、アポトーシスなどの他の細胞プロセスにも共通してみられるマーカーもあります。したがって、老化細胞の集団を特定する場合は、複数のバイオマーカーを別個に解析して検証する必要があります。
細胞老化のマーカー、シグナル伝達経路、研究に用いる試薬類の詳細情報は、老化のシグナル伝達のCSTリソースのページをご覧ください。