科学分野では、コミュニケーション術は単なる飾りではありません。先へ進むための重要なものです。特に、間違った情報や「フェイクニュース」が溢れるこの時代に、科学者が、自身の研究成果の発信や共同研究の促進、資金の確保を行い、政策に影響を与え、科学的理解を深めるためには、自身の考えを効果的に表現する能力が不可欠です。科学者は、これらの成果を達成するために、ソーシャルメディアへの投稿およびEメールの作成から助成金申請書や研究論文に至るまで、様々な記述形式の文章を作成することが期待されています1。
多くの国で、今も継続して母国語による学術誌への論文投稿が行われていますが、英語は、科学技術分野における世界の共通語として台頭してきました。そのため、世界中の数百万人もの科学者が、ゲルマン語の複雑な文法や予測不可能なスペリング、統一されていない性質に対処せざるをえない状況にあります。
英語が第二外国語であるか、第一外国語であるかに関わらず、本ブログ記事は科学的文章の作成に役立ちます。
形式と読者を考慮
2024年現在、若手科学者は、様々な読者や各プラットフォームの制約に合わせて文体を調整し、様々な形式で文章を作成することが期待されています。自身のコンテンツを作り上げる際は、読者と効果的につながる方法を考え、出版形式を考慮する必要があります。読者の期待と集中力が持続する時間は、ソーシャルメディアへの投稿なのか、または長文の原稿なのかにより大幅に異なります。
それでは、短編、中編、長編のコンテンツを作成するための一般的なアドバイスを紹介します。
短編のコンテンツ
自身の研究を宣伝し、同じ分野の人とつながるには、LinkedInやX (旧Twitter) への投稿を検討してください。積極的にこれらのプラットフォームで活動することにより、研究トピックに関する迅速なフィードバックを得たり、共同研究者候補を見つけたりできます。ソーシャルメディア用の短いコンテンツは、関連するコンテンツの特定や行動への呼びかけなど、重要な情報を伝えながら、即座に読者の興味を引くものである必要があります。短文という性質上、文法やスペリングを完璧に保つことが不可欠です。コンテンツを投稿する前に、内容を確認してくれる同僚や校正者がいない場合は、簡単なミスの特定と修正に役立つGrammarlyやCopilotのようなバーチャルライティングアシスタントを活用します。
中編のコンテンツ
Eメールの作成やブログへの寄稿は、研究者にとって最も一般的な、中編の作文のうちの2つです。同僚や科学コミュニティ内の他の専門家にEメールを書く際は、専門的な文調を維持しながら、明確で効果的な内容を確保することが重要です。Eメールの場合、内容を要約した明確で分かりやすい件名を書くことにより、受信者はその重要性を理解し、優先順位をつけることができます。送信する前に、メッセージ全体を読み直して、文法的な誤りを見つけるだけでなく、余計な語句を取り除いて、曖昧さを避けることを忘れないでください。自身の意図を簡潔かつ明瞭に伝えることは、相手への敬意を示すことにつながります。
同僚や同じ研究者に礼儀と敬意をもってメールを送ることは、言葉から生じる微妙な誤解を避けるための重要な鍵となります。何かを要求したり、過度に断定的な言葉を使用したりすることを避け、必要に応じて、時間を割いてもらったことや受けたサポートへの感謝を綴ります。メールの受信者との関係に応じて、「〇〇様、〇〇御侍史」などの実務的な挨拶で開始し、同レベルの敬意で署名すると良いと思います。
科学ニュースのお知らせやグループでのブログ、学部や大学のウェブサイトページ用にブログ記事を作成する際は、必ず読者はどのような人なのかを想定してください。自身が非常に専門性の高い分野で働いている、または専門家ではない読者を想定している場合は、科学的な専門用語の使用を避けて、自分にとっては知っていて当然の概念やプロセスについても説明する必要があることを意識してください。
長編のコンテンツ
学術誌に投稿する論文や公式報告書などの公的な長編のコンテンツの作成は、短編または中編のコンテンツの作成と明らかに異なります。これらのコンテンツの作成には、より多くの計画や調査を必要とするだけでなく、より科学的な正確さをもつ構成が要求されます。多くの長編コンテンツ、例えば、非常に限られた専門家向けの、専門性の高い学術誌における科学論文では、概要の説明は最低限であり、多岐にわたる科学的専門用語が含まれています。読者は、その分野における専門知識を持っていると考えられるため、詳細を解説することなく複雑な技術的概念を紹介できます。
しかし、通常、事実に基づいた記述には、信頼できる情報源からの裏付けが必要とされます。そのため、ライター (執筆者) は、異なる参照の記載形式に慣れたり、アメリカ英語とイギリス英語の違いを理解したり、特定の文法構造を避けたりしながら、定められた様式でコンテンツを作成しなければいけません。投稿先のプラットフォームの様式を確認することにより、コンテンツを必要以上に書き直すことを避けることができます。
また、ライターは、盗用することなく言い換えて伝えることを学ぶ必要があります。言い換えにはスキルが必要ですが、大規模言語モデルなどのオンラインツールを使用することにより、簡単に言い換えることができます。しかし、AIは、コンテンツ作成においては新たな未知の技術であるため、ユーザーは注意を払わなければいけません。AIは、必ずしも正確に科学的なコンテンツを作成するわけではなく、潜在的なエラーが含まれる、または原文の内容を歪曲してしまう恐れがあることに注意してください。AIが生成したコンテンツは叩き台として使用することが最善であり、AIプラットフォームから得られたコンテンツが科学的および文法的に正しかったとしても、決してそのまま投稿しないでください。
科学学術誌用のコンテンツを作成する際、ライターは通常、公式的および客観的であり、正確かつ厳然な、正しい文調を使用する必要があります。したがって、特に重要な研究の発見を報告する際には、口語体の使用や感情的でカジュアルな表現を避け、データや証拠、論理的推論に焦点を当てた科学的文章を作成するべきです。そのためには、科学者は、批判的な心構えで文章作成のプロセスにのぞみ、同僚や査読者、編集者から受け取ったフィードバックに基づいて修正や書き直しを行う準備をする必要があります。
読むことの重要性
よいライターであるためには、よいリーダー (読者) でなければいけません。科学の各分野には、共有される語彙や言い回し、様式などの独特な「言葉」が存在します。文献を熟読するリーダーは、自然とこれらの「言葉」に馴染んでいき、やがて、彼らが作成する文章に反映されるようになります。さらに、その分野で成功している著者の様々な文献を読むことにより、自身の文章を作成するためのアイデアが浮かびます。そのため、可能な限り、品質の良い文献を読むことをお勧めします。
作文に磨きをかけるAMA Manual of Style
Journal of the American Medical Association (JAMA) の編集者が公開しているAMA Manual of Style (米国医師会スタイルマニュアル) は、自身の作文に磨きをかけたい科学者に不可欠なリソースです。現在、主要な学術誌の大半がAMAのフォーマットに従っています。句読点や大文字を使用するタイミング、文法などの細かなポイントを通して研究者を導くこのスタイルマニュアルは、言語の基本にとどまらず、絶えず移り変わる科学的探究の場において、研究者が遭遇する無数のジレンマについての知見を提供しています。
AMAスタイルマニュアルには、あなたが知らなかったであろう文法の疑問に対する答えも掲載されています。参考として、掲載されている疑問のうちのほんの一部分を紹介します:
- 「western blot」は大文字にするべきですか? いいえ、それがタイトル内にない限り、すべきではありません!
- 温度を書くときに、°Cと数字の間にスペースを入れるべきですか? いいえ、AMAスタイルは°Cを「4°C」のように書くことを要求しています。
- 「CAR (Chimeric antigen receptor) T-細胞療法」の中のハイフンはどこに入れますか?「CAR-T細胞」ですか? これには100%の共通認識はありませんが、ハイフンは通常、名詞とそれを修飾する形容詞の間に使われるため、その答えは文脈によって異なります。
- 「affect」と「effect」をどのように使い分ければ良いですか?Affectは、通常は動詞として用いられ、それは "to change" (変えること) または "to influence" (影響を与えること) を意味します。Effectは、通常は名詞として用いられ、"change that has been produced" (作られた変化) を指します。文脈から、どちらが正しいかを理解できます。
- New techniques will affect how researchers develop therapeutics. (新たな技術は、研究者が治療法を開発する方法に影響を与えます。)
- New data reveals the effects of the new therapeutic on the disease. (新たなデータにより、疾患への新規治療法の効果が明らかになりました)。
- 「e.g.」および「i.e.」は実際に何を意味し、いつ使うのが正しいですか?"E.g." は、ラテン語の "exempli gratia" であり、 "for example (例えば)" を意味し、しばしばリストの前に用いられます。一方、"i.e." は、"id est" の略であり、"that is (すなわち)" または "in other words (言い換えると)" を意味し、通常は伝えたい内容を明確にするために用いられます。
この広く受け入れられている「指針」を用いて、文章の作成スタイルを研鑽することにより、熟練の研究者と初心者の両方に対し、複雑な概念を分かりやすく伝えることができるようになります。AMAスタイルマニュアルの最新版では、倫理的、法的な考慮点についても解説しており、オーサーシップや利益相反、科学的厳密性などの問題を取り上げ、科学者が厳密性と透明性をもって引用文献と参考文献を紹介するよう注意喚起しています。
練習あるのみ
どの技術でもそうですが、科学的文章を作成できるようになるには、練習が必要です。文章作成をサポートしてくれる良き指導者、または研究を評価してくれる信頼できる同僚を持つことは、驚くほどの価値があります。進歩は緩やかであっても、価値は十分にあるので安心してください。英語の細かな点に注意を払うことは重要ですが、それにこだわりすぎると、広い視野を失う可能性があります。様々な形式の科学的なコンテンツを作成することに慣れてきたら、文法の規則には絶対的なものもあれば、文脈や読者、コンテンツの目的に応じて変形させることができるものもあることが分かってきます。
科学的文章の美しさは、複雑なアイデアを洗練された文章で表現し、抽象的な概念をリーダーの心に響く具体的な形に変える能力に依存します。そのためには、細部への鋭い観察眼、明瞭さへの揺るぎないこだわり、そして真実への深い敬意が必要です。最良な形の科学的文章は、通常のコミュニケーションにおける期待を凌駕し、世界に対する私たちの理解を刺激し、啓蒙し、変容させます。
参考文献
- Abraham G. (2020). The Importance of Science Communication. Metallography, Microstructure, and Analysis. doi.org/10.1007/s13632-020-00613-w
- AMA Manual of Style Committee. AMA Manual of Style: A Guide for Authors and Editors (11th ed.). doi.org/10.1093/jama/9780190246556.001.0001
24-FLE-39450