Tauは主に脳に発現する微小管結合タンパク質であり、軸索の微小管を安定化する機能を持っています。Tauには8つの異なるアイソフォームが存在することが知られています。Tauは複数の特異的なリン酸化部位を持ち、リン酸化を受けることで微小管への親和性が低下します。Tauは健常な脳においてもリン酸化を受けますが、ADなどの神経変性疾患では非常に高レベルにリン酸化されることが知られています。
アルツハイマー病におけるTauタンパク質と神経原線維変化
アルツハイマー病でみられる神経原線維変化は、Tauタンパク質が高度にリン酸化されることで引き起こされます。Tauのリン酸化は通常、キナーゼであるGSK3やCDK5により多数の部位で発生し、微小管を結合する能力が低下します。
高レベルにリン酸化されることで、Tauは微小管から解離します。この結果、微小管は不安定化し、Tauは多量体化します。神経原繊維変化は、2本のフィラメントがらせん状により合わさった構造の集合体で、高度にリン酸化されたTauから成ることが分かっています。このようなTauの異常構造体はアルツハイマー病ほかにもいくつかの神経疾患で観察され、Tauタンパク質の異常が見られる疾患の総称としてタウオパチーという言葉が用いられます。Tauタンパク質はプリオンと同様に「種」を形成することができ、これがニューロンからニューロンに広がっていくことが示されています。神経原線維変化は最終的にニューロンにアポトーシスを誘導し、これによるニューロンの脱落が病態形成に関与すると考えられています。
リン酸化Tauタンパク質とTau総タンパク質の観察
リン酸化Tauタンパク質レベルとTau総タンパク質レベルの情報は、神経変性の診断と治療に役立てることができます。実際、Tauの総タンパク質レベルとリン酸化レベルは軽度の認識障害からアルツハイマー病への進行を予測する、高感度なバイオマーカーです。
Tauのリン酸化の状態は、タンパク質の細胞内分布に大きな影響を与えます。リン酸化したTauは、海馬ニューロンの神経細胞体や不死化したGnRHニューロンでみられます。さらにSer404がリン酸化されたTauは微小管を不安定化することと、この部位のリン酸化とアルツハイマー病の関連性を示す証拠も見つかっています。
Tau検出における抗体の重要性
細胞内在性のTauを検出できるモノクローナル抗体のほか、Tauの様々な部位のリン酸化 (Thr181、Ser199、Ser202、Thr205、Ser214、Thr231、Ser396、Ser404、Ser416など) を特異的に認識するモノクローナル抗体も開発されています。組織サンプルの神経原線維変化に凝集したTauの量は、ウェスタンブロッティング、免疫沈降、免疫蛍光染色、免疫組織化学染色で解析することができます。
神経変性の研究を支援するため、CSTの科学者はTauとリン酸化Tauの解析にご利用いただける抗体を多数開発しています。