細胞ライセートの調製は、抗体を使用してタンパク質の発現を特徴付ける技術など、様々なアッセイを成功させるのに重要です。 理想的には、ライセートの収集から解析までのサンプル前処理のすべてのプロセスを通じて、目的のタンパク質がきちんと保存されプロテアーゼやホスファターゼの活性から保護されねばなりません。ライセートの適切な保存と取り扱いは、劣化を回避しタンパク質を検出する能力を維持するために重要です。
ウェスタンブロッティングなどの実験のため、ライセートを収集し体系化する際に留意すべきいくつかのヒントを紹介します。
- 調製したライセートはできるだけ早く使用し、保存はできるだけ短期間にします。
- ライセートは可能な限り-80℃で保存します。長期保存が必要なライセートは、劣化を防ぐため、新しく準備したチューブで、利用可能な-80℃のフリーザーに移動します。
- -20℃で保存するとライセートの保存寿命は短くなるため、この温度での長期保存は推奨されません。CSTは、-20℃での保存は3か月にとどめることを推奨しています。
- 凍結と解凍の繰り返しサイクルの影響を受けやすい、特定の細胞株、処理、リン酸化部位があります。凍結と解凍のサイクルはできるだけ最小限にします。このための方法の一つは、大量のライセートは多くの小容量のライセートに分けることです。そうすると、いくつかのチューブは-20℃で保存し、残りのチューブは必要になるまで-80℃で保存できます。これにより、いくつかのチューブを使い切るまでに実施される冷凍と解凍のサイクルの数が抑えられ、劣化は抑制されることになります。
- ライセートが劣化している場合は、新しいバッチのライセートを調製します。
レーン1の劣化したライセート
- 新しく調製したライセートをソニケーションすると、核タンパク質や膜タンパク質が放出され、DNAがせん断されて、ライセートの粘度が低下します。組織ライセートのサンプルを扱う場合には特に有用です。CSTは、プローブチップソニケーターを中設定あるいは低設定とし、ライセートにプローブを10 - 15秒、3回以上完全に浸して振盪することを推奨しています。ソニケーションの各ステップの前後にはライセートを氷上で短時間冷却し、ライセートが泡立たないようにします。
- 一部の細胞株や組織はタンパク質を豊富に含むため、濃度の高すぎるライセートが生じる可能性があります。濃度が高すぎるライセートのウェスタンブロッティングでは、ゲルレーンの総タンパク質が多すぎるためうまく泳動されません。結果は筋状あるいはスメア状となり、下の画像のようになります。
レーン2の濃度が高すぎるライセート
- ライセートの濃度が高すぎる場合はSDS/DTTで1:1に希釈し、ライセートの総タンパク質濃度を半分にします。下の画像のライセートの希釈に示されるように、これは通常、ウェスタンブロッティングにてより明確なバンドをもたらします。
ラボを運営してきた年月に関わらず、実験に費やす時間、リソース、労力は貴重です。これらのライセート取り扱いガイドラインに注意を払うことによって、苦労して得たライセートの保存寿命が延長する、より適切な調製ができるでしょう。