CSTブログ: Lab Expectations

Cell Signaling Technology (CST) の公式ブログでは、実験中に起こると予測される事象や実験のヒント、コツ、情報などを紹介します。

研究の総括:様々な論文で使用されるCST®抗CARリンカー抗体

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固形がんや血液がん、自己免疫疾患の治療に用いられるキメラ抗原受容体 (CAR) 細胞療法は、進化を続けており、実験的検証にはCARを導入した細胞の正確な検出とモニタリングが不可欠です。しかし、標的抗原を認識する抗体または抗イディオタイプ抗体といった、単鎖可変フラグメント (scFv) ベースのCARの発現をモニタリングするための検出試薬の開発と最適化には、非常に時間がかかる場合があります。さらに、これらの試薬は、特定の細胞表面の抗原または特定のscFvを持つCARのみを検出することしかできません。

CSTが提供する抗CARリンカーリコンビナントモノクローナル抗体は、CARを発現するように改変された細胞を、抗原の特異性にかかわらず特定および確認できる強力なツールです。scFvベースのCARの大半は、G4SリピートまたはWhitlow/218のいずれかのリンカー配列を含んでいるため、特異性の高い抗G4S抗体や抗Whitlow/218抗体を用いることにより、ほぼすべてのscFvベースのCARの細胞表面の発現をモニタリングできます。Anti-CAR Linker抗体の図

抗CARリンカーリコンビナントモノクローナル抗体は、scFvベースのCARの重鎖可変ドメインと軽鎖可変ドメインの間に存在するリンカー配列 (G4SまたはWhitlow/218) に結合します。

科学者は、CSTが提供する抗CARリンカー抗体をどのように研究に用いているのでしょうか?本ブログ記事では、CST抗CARリンカー抗体を使用し、様々な実験条件下でCAR改変免疫細胞を検出、解析、定量、精製している最新の論文を紹介します。皆様に関連する研究を見つけやすくするために、以下のCAR特性解析ワークフローのプロセスごとに分けて、CST抗CARリンカー抗体がどのように活用されたかを解説します:

 

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検出

迅速かつ容易なCARと標的抗原の発現の評価

解析

免疫細胞の活性化や増殖、生存率、シグナル伝達の調査

定量

CAR組換え遺伝子導入の導入効率の測定

精製

特異性の高いビーズベースまたはFACSベースのソーティングを用いたCAR陽性細胞の濃縮

臨床への応用

CAR-T細胞のがん微小環境 (TME) への侵入を直接調査

 

CAR陽性細胞をモニタリングするスクリーニングアッセイから精製または活性化するためのCAR-T細胞の標識まで、これらの研究は、リンカーベースの抗体検出アプローチの方法論と応用に関する価値のある知見を提供しています。

CSTが提供するCAR改変細胞の特性解析ソリューションの全製品リストもご覧ください。

CST抗CARリンカー抗体を使用した査読付き論文の紹介

以下では、CSTが提供するCAR改変細胞の特性解析ソリューションが、最新の査読付き論文でどのように使われているかを紹介します。本ブログは、2025年3月に公開されており、以下の論文は抗CARリンカー抗体の販売を開始してから2年以内の成果です。 

 

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EphA3-Targeted CAR T Cells in Glioma & Generate Curative Memory T Cell Responses

Lertsumitkul et al. (JITC 2024) | DOI: 10.1136/jitc-2024-009486

この論文では、著者らが膠芽腫やびまん性正中線神経膠腫などの悪性度の高い神経膠腫における標的として同定したEphA3 (Ephrin type-A receptor 3) に対する、第2世代CAR-T細胞療法の評価について詳述されています。腫瘍を特異的に標的化し血液脳関門を突破できる、EphA3を標的とするCAR-T細胞療法は、in vitroおよびin vivoにおいて優れた有効性を示しており、マウスモデルでは腫瘍を消失させることに成功しました。また、この研究では、EphA3を標的とするCAR-T細胞が長期的な免疫記憶を生み出し、腫瘍の再移植実験の際に、再び腫瘍を消失させることが分かりました。

使用事例:

定量: T細胞への遺伝子導入効率を測定するために、G4S Linker (E7O2V) Rabbit mAbクローンを用いて、EphA3を標的とするCAR-T細胞の存在と増殖を確認しています。


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Linker-specific Monoclonal Antibodies Present a Simple & Reliable Detection Method for scFv-Based CAR NK cells

Schindler et al. (Molecular Therapy 2024) | DOI: 10.1016/j.omtm.2024.101328

CAR-NK細胞は、CAR-T細胞療法を超える利点を持つ可能性を秘めており、同種細胞療法などの臨床試験に用いられています。この論文では、CAR-NK細胞の普遍的かつ感度の高い検出用ツールとしての抗CARリンカー抗体の機能を、他の一般的に用いられる検出法と比較するなどして評価しています。リンカー特異的モノクローナル抗体は、in vitroや全血サンプル、患者由来の腫瘍スフェロイドにおけるCAR-NK細胞を特異的かつ高感度で検出できるため、ほぼ普遍的かつ有効なscFvベースのCARの検出方法となることが分かりました。さらに、著者らは、リンカー特異的抗体は、CAR-NK細胞の機能的試験および濃縮に使用できることを示しています。

使用事例: 

検出: CARの発現を確認するために、Whitlow/218 linker (E3U7Q) Rabbit mAbクローンおよびG4S Linker (E7O2V) Rabbit mAbクローンを用いて、フローサイトメトリーで様々なCARコンストラクトの発現を検出しています。 

解析: Whitlow/218 linker (E3U7Q) Rabbit mAbクローンおよびG4S Linker (E7O2V) Rabbit mAbクローンを用いて活性化アッセイを行い、CAR-NK細胞を選択的に活性化できるかを確認しています (CSTが提供するT-cell activationキットもご覧ください)。

精製:Whitlow/218 linker (E3U7Q) Rabbit mAbクローンおよびG4S Linker (E7O2V) Rabbit mAbクローンを用いて、磁気分離によりCAR-NK細胞を濃縮しています (CSTが提供する磁気ビーズベースのCAR enrichmentキットもご覧ください)。著者らは、CAR-NK細胞は精製後も活性化せず、生存率が低下しないことを示しています。


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Magnetic CAR T Cell Purification Using an Anti-G4S Linker Antibody

Harrer et al. (JIM 2024) | DOI: 10.1016/j.jim.2024.113667

この論文では、抗G4Sリンカー抗体を用いた、磁気分離ベースの新しいCAR-T細胞の精製方法を紹介しています。このアプローチでは、CAR-T細胞の生存率や機能に影響を与えることなく、CAR-T細胞を高純度に濃縮できます。この精製方法は、CEAとHer2を標的とするCAR-T細胞および二重特異性タンデムCARを用いて試験されています。

使用事例:

精製:ワンステップのMACS (Magnetic-activated cell sorting) 法を行う前に、G4S Linker (E7O2V) Rabbit mAクローンを用いてCAR-T細胞を標識することにより、細胞の生存率を低下させることなく効率的にCAR-T細胞を精製できることを示しています (CSTが提供する磁気ビーズベースのCAR enrichmentキットもご覧ください) 。


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Synthetic Immune Checkpoint Engagers Protect HLA-deficient iPSCs and Derivatives from Innate Immune Cell Cytotoxicity

Gravina et al. (Cell Press 2023) | DOI: 10.1016/j.stem.2023.10.003

この論文では、免疫細胞の免疫チェックポイントタンパク質の活性化と細胞毒性の抑制を可能にする、細胞表面に発現する新しいクラスの合成分子 (エンゲージャー) を設計および試験しています。特に、著者らは、免疫チェックポイントであるSIRPa、TIM3、LILRB1を標的とし、NK細胞やマクロファージによる細胞障害を抑制するエンゲージャーを設計して試験しています。このアプローチでは、同種がん免疫または再生細胞治療薬に対する拒絶反応を抑制し、その有効性を向上させることを目的としています。

使用事例:

検出: G4S Linker (E7O2V) Rabbit mAb (Alexa Fluor® 647 Conjugate) #69782を用いて、フローサイトメトリーで細胞表面に発現するエンゲージャーの検出と定量を行い、標的分子と結合する前後の、合成エンゲージャーの発現ダイナミクスを調べています。 

検出: ビオチン標識抗G4SリンカーF(ab’)2フラグメントを用いて、フローサイトメトリーで、合成導入遺伝子 (SIRPa-EとCD64t) を発現するB2MノックアウトiPSCの免疫回避能力の変化を評価しています。


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Evaluation of Anti-CAR Linker mAbs for CAR T Monitoring after BiTEs/bsAbs and CAR T-Cell Pretreatment

Grahnert et al. (Biomedicines 2024) | DOI: 10.3390/biomedicines12081641

この論文では、抗CARリンカー抗体を用いて、二重特異性抗体 (bsAb) または二重特異性T細胞エンゲージャー (BiTE) のいずれかの治療を行った患者におけるCAR-T細胞療法の効果をモニタリングしています。従来の抗体ベースのCAR検出法では、CAR-T細胞とbsAb/BiTEが同じ抗原を標的とする場合に、偽陽性となる可能性があります。著者らは、現在臨床使用が承認されているBCMAおよびCD19を標的とするすべてのCAR-T細胞製品を含む検体を解析して、抗CARリンカー抗体が、BiTEまたはbsAbのいずれの処理にも影響されない特異性の高い検出法であることを実証しています。しかし、その感度は、臨床的に利用可能なCAR-T細胞療法ごとに異なります。

使用事例: 

検出: CSTが提供する抗CARリンカー抗体は、IdecelやTisa-cel、Axi-cel、Brexu-cel、Liso-celで処理した血液サンプル中のCAR-T細胞の検出において、高い感度と特異性を示しました。そのため、この手法は、抗原ベースの検出法を用いる際に免疫細胞エンゲージャーを同時検出することで生じるバックグラウンド染色とCAR-T細胞の染色を区別できる、信頼性の高い方法となります。しかし、G4S CARリンカーを含むCilta-celは、抗CARリンカー抗体では検出できませんでした。

 


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CD8α Structural Domains Enhance GUCY2C CAR-T Cell Efficacy

Baybutt et al. (Cancer Biology & Therapy 2024) | DOI: 10.1080/15384047.2024.2398801

この研究では、固形がんの免疫療法において、異なるCARコンストラクトがその効果にどのような影響を与えるかを調べるために、CAR改変細胞のヒンジドメインおよび膜貫通ドメインに関する試験を行っています。特に、著者らは、大腸がんに用いるGUCY2Cを標的とするCARデザインにおける、CD8ɑまたはCD28に由来するヒンジドメインおよび膜貫通ドメインを比較しています。その結果、各構造ドメインはCARの発現や分化、疲弊の表現型といった抗原に依存しない事象の違いには寄与しないものの、CD8ɑの構造ドメインを持つCARは、標的に対してより高い親和性を示すことが分かりました。

使用事例:

検出:G4S Linker (E7O2V) Rabbit mAb (PE Conjugate) #38907を用いて、フローサイトメトリーで細胞表面のVARを検出および定量しています。また、検出にはProtein Lも使用しており、リンカー抗体と同等の結果が得られたことが示されています。

検出:G4S Linker (E7O2V) Rabbit mAb (Alexa Fluor® 488 Conjugate) #50515を用いた以下の異なる2種類のフローサイトメトリー実験で、CAR陽性T細胞の標識および同定を行っています:

  • 透過化した細胞を用いた細胞内フローサイトメトリー実験によるサイトカイン産生の測定
  • 細胞表面マーカーを用いたT細胞の表現型解析による免疫記憶状態の決定と疲弊マーカーの検出

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Alexandra Foley
Alexandra Foley
Alexandra (Alex) Foleyは、複雑な研究を、実世界での応用するための魅力的な物語に翻訳することに情熱を持ったCSTのサイエンティフィックライターです。学部課程で分子生物学と英文学を学習した後のAlexのキャリアーは、ヘルスケアや科学における様々な領域に渡ります。Alexは、多くのトピックスについて学び、刺激的で魅了的なストーリを紡ぐことを楽しんでいます。

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