2022年「前途有望な黒人科学者の表彰」の受賞者をご紹介できることを非常に喜ばしく思います。この表彰は始まってからわずか2年ではありますが、すでに影響力が感じられます。科学における平等性の価値を理解し、より包括的なコミュニティーを構築していく上で、科学者自身の声を聴くことは大変重要です。
この表彰はCell Press社との提携により生まれました。才能とやる気あふれる若い黒人科学者のキャリアを支援することを目的としています。米国内の学部学生1名と、大学院生またはポスドク1名の、計2名が表彰されます。審査のため、応募者には自身の科学への探究心を刺激するもの、生命科学への道を切り開いた経験、より包括的な科学コミュニティーにどのように貢献したいかなど、科学的な発見を通じて世界を変えたいと思う動機に関する小論文の提出が求められます。これらの小論文を、Cell Press社の編集者と生命科学界をリードする黒人の学術アドバイザーで構成される審査委員会で審査します。小論文は個人の声、物語の質、内容と創造性、明瞭さに基づいて審査されました。
本年の受賞者は、ジョージア州立大学のCharleese Williamsさん、ペレルマンペンシルベニア大学医学大学院のElle Lett博士 です。彼女らの小論文は非常に感動的なものでした。このような視点は、我々の文化の全容を反映したSTEMの未来を築くために必要なものです。
Charleeseさんの小論文を抜粋してご紹介します。
科学というものは、あらゆる人に届く道がありながら、一部の特権階級のみの手の内にある傾向があるように思います。時には自らの手で物事を進めなければならない場合もあります。これが、私がジョージア州立大学神経科学研究所の多様性、平等性、包括性 (NI-DEI) 委員会の聴講小委員会に参加した理由の1つです。全米で最も多様性に富んだ大学の1つであるジョージア州立大学 (GSU) でさえ、神経科学研究所 (NI) における多様性の欠如は深刻です。有色人種の意見に注目し、取り上げられることの少ない学生の経験を匿名で研究所全体に共有できるプラットフォームを作成する手助けができたことには、非常にやり甲斐を感じました。また、軽視された集団に属する神経科学者には必ずしもプラットフォームがありませんが、確かに存在することを知ることもできました。大多数に比べてどんなに少なくても、トランスジェンダーや同性愛者、障害者、有色人種、神経的に多様な人々は科学コミュニティーの中にいます。表現が重要であり、私たちが企画した講演会やポッドキャストがSTEMには属さないと感じている人たちに届くことを願っています。どのような研究分野に進んだとしても、科学者コミュニティのメンバーにとって安全な空間とサポートシステムを作ること、そして常に社会性を意識した考え方をすることが、私の最終的な目標です。[小論文の全文はこちら]
Elle博士の小論文を抜粋してご紹介します。
私は、才能のある学生のために州が資金を提供する公立寄宿学校であるノースカロライナ科学数学学校 (NCSSM) に通った後、ハーバード大学に進学しましたが、この間に、糖尿病などがなぜアフリカ系アメリカ人に特に多いのか、私の理解は変化しました。どちらにおいても、私は自分自身のアイデンティティーを自身が学んだ科学と結びつけるようになり、私自身や私の母、私の地域社会のメンバーなどの糖尿病患者の治療における選択肢を改善するために、インスリンを産生するβ細胞の研究 (Draney et al., 2018) に従事するようになりました。また、このような場で様々な背景をもつ人々との出会いがあり、彼らとコミュニティを共有することで、医療へのアクセス、社会資本、経済的資源などの様々な社会的条件によって、健康や機会へのアクセスを階層化されていることを学びました。このような社会的格差や、その原因となった累積的かつ歴史的な差別の形態が、自分の家族における世代間の糖尿病の発生に直接的に関係することを知りました。差別と体系的な人種差別への理解が深まるにつれ、私の科学的関心は細胞メカニズムのから社会構造へと移り、高度な生物統計学や社会疫学を修めるようになりました。[小論文の全文はこちら]
今回の受賞者は大いに刺激を与えてくれます。ぜひ小論文の全文を読み、インパクトを存分に味わってください。
この賞を初めて知られた方で、自身が「前途有望な黒人科学者」に当てはまると思う方は、2022年の秋に予定されている小論文の募集にぜひご応募ください。