昔、知識の探求を端的に表す比喩を聞いたことがあります。それは「真っ暗な部屋の中で自分を見つけ出すことと同じ」というものです。部屋の中にあるものを探り、物体や障害物に新たにぶつかるにつれ、1つどころかたくさんのドアノブに行き当たります。それらのドアノブの中には、鍵が掛かっているものがあったり、かなりの力を込めれば何とか開きそうなものもあるかもしれませんが、簡単に開くものが1つあり、そこからその部屋を出ることができます。すると数えきれないほどの部屋や廊下、玄関ホールの1つに居たにすぎないことに気づきます。これらはすべて探求し理解する必要があります。
今日のライフサイエンス研究では、建物の探索はほぼ終わっており、今度は各部屋の徹底的な調査に集中するのみという時点に達しています。各部屋の間に道筋が付いているのは確かです。それは腫瘍専門医が免疫学分野に助けを求め、またその逆もあり、互いがそれぞれの環境を理解する手助けをしようとしていることからも明らかです。しかし研究者は大抵の場合、文字通りの意味においても、比喩的な意味においても、1つの部屋に閉じ込められています。そして、自分自身の部屋がどのように構築されているか、何が入っているかを理解しようとし、さらに最も重要なこととして、崩壊が避けられなかった場合にそれを修復できるように、互いがどのように関係し相互作用しているかを理解しようとしています。生物学の研究者として、当社は、イメージング、化学、物理学の分野で画期的な技術的発見を成すことにより「部屋の明かりを灯した」巨人の肩の上に立っています。当社はまたこのような部屋の中で見つかった物体の一部をツールに変貌させ、酵素 (Cas9)、蛍光タグ (PE、APC)、リンカー (Biotin)、そして私のお気に入りである抗体など、発見のために操作し使用できるようにする方法を身に付けました。
私自身が電子工学のバックグラウンドを持ち、さらに家族にも電子工学に関わりのある者がいるため、私にとっては、生体分子の相互作用は複雑に相互結合した回路のように見えます。つまり、ジェネレーターや増幅器に直列または並列接続された減光スイッチに供給する電池、本物のネズミの巣のような配線や、その一部が壁の中に隠されている様子などのように見えます。そしてマルチメーターを使ってアンペア数、電流、抵抗をなどを測定する代わりに、遺伝子発現レベルでスイッチがいつ入ったり切れたりしたかを、タグ付けされた抗体を使って、または後でキナーゼを介して判断します。しかし有能な電気技師ならだれでも言うように、まずは手元の回路の正しいブレーカーが切れたことを電圧測定器で確認してから、取り付けの作業をするようにした方が良いでしょう。
科学的結論に自信を持つことに対しても同じことが言えます。経路のうち1つのノードが、システム内でのスイッチの切れた状態になっているか、あるいはダウンレギュレートされていることを示すことができたら、反対方向へのアップレギュレーションもあり得ることを示すこともできますか?可能な操作はすべて探索し、回路それぞれが機能するのに必要かつ/または十分なものを全て引き出す必要があります (これそのものも議論に値する概念です)。科学者である私たちはシグナル伝達カスケード全体を検討し、プロテアーゼとフォスファターゼ、両方の阻害剤、ノックアウトモデル、ノックインモデルなどを用いて回路の専門的技能を示し、さらに、回路内の上流ノードと下流ノードを試験することにより結果の裏付けを取ることが必要です。これらは、科学的な意味におけるコントロールにとどまらず、当社が論文の投稿や治療法の開発の前に、標的である経路/回路の配線を理解しており、すべてを掌握していることを示すために採用している条件でもあります。
簡単な作業でないのは確かです。ですので可能な限り、1つの抗体/ツールを多数のモダリティで使えば、プロセスを技術的にかなり簡略化できます。これにはまた、独立した個別の実験でツールを使用して最終的な結論に至る過程をたどるうちに、ツールに対する自信を植えつけていく効果があります。科学的な知見は、科学的な知見そのものを基盤として発展していきます。当社の抗体や関連ツール (ブロッキングペプチド、コントロールライセート、siRNA、阻害剤/活性剤) の持ち球が増えていくにつれ、CSTと世界中の研究者が描いてきたシグナル伝達の回路に対する知識も増えていきます。