翻訳後修飾 (PTM) は細胞のタンパク質機能を変化させるものですが、通常タンパク質表面の微小な化学変化によるものです。PTMを足したり引いたりするという、酵素が触媒するダイナミックなプロセスは、細胞内のシグナル伝達を媒介します。つまり、PTMはタンパク質同士のコミュニケーション手段であり、これによって細胞は内外からの情報に応じた反応が取れるようになる、と言い換えることもできます。
PTMを介した情報伝達ネットワークは、DNAの転写、細胞分裂、代謝といった、生命の根幹的な機能を調節しています。例えば、炭水化物を摂取すると、血糖値の上昇やインスリンの放出が起こります。放出されたインスリンが受容体に結合し、これによって細胞内でPTMを介した情報伝達経路が活性化され、グルコースの使用・貯蔵を決定するメカニズムが動き出します。
細胞内では、このような根幹的な機能を調節するために、およそ25,000のタンパク質が協調的に働いています。400種以上のPTMが知られており (リン酸化、アセチル化、ユビキチン化、メチル化など)、さらに、各々のタンパク質は複数の修飾部位をもつこともあります。よって、細胞は何十万ものPTM制御を介して、生命の根幹的な機能を調節していることになります。したがって、PTMについての正確で包括的な情報資源は研究者にとって必要不可欠なものとなっています。
PhosphoSitePlusとは?
15年程前、CSTの科学者達は、公表されているPTMについて研究成果やCST社内の研究成果を統合して、ひとつの中枢的な情報資源を構築し、サイエンティフィックコミュニティと無料で共有していくことを決めました。この先駆的な情報資源はPhosphoSiteと名付けられ、リン酸化修飾のアノテーションを付けることから始められました。このプロジェクトチームは、個々のタンパク質リン酸化修飾の部位や分子機能への影響、生理的な意義について述べられている最新の論文等を精査し、情報収集を行いました。
その後、リン酸化以外のPTMについても情報が加えられ、PhosphoSiteはPhosphoSitePlus®となりました。この手作業の情報取集は「ロースループット (LTP) キュレーション」と呼ばれており、2000年代初めから現在まで続けられています。PhosphoSitePlusは15年以上に渡って手作業で情報収集が行われ、何千ものPTM部位とその生物学的情報を含んでいる、世界で唯一の情報資源です。実に20,000を超える文献から得られた情報が含まれており、この点はPhosphoSitePlusがほかのPTM情報資源と大きく異なる特徴と言えます。大きく異なる特徴と言えます。2000年代後半、質量分析が進歩し何千ものPTM部位の特定と定量化が行われましたが、そのほとんどの生物学的理解は得られていません。また、CSTや公共の同様の情報資源には、「ハイスループット (HTP) キュレーション」として、およそ250の公表された質量分析のデータセットが統合されています。
今日、PhosphoSitePlusには約50万のPTM部位が登録されています。そのうちの90%をリン酸化、ユビキチン化、アセチル化が占めており、また、昨年一年間を通して急激に登録数を増やしたものには、SUMO化、モノメチル化、ユビキチン化があります。これらの豊富な情報に加え、PhosphoSitePlusには、分子機能、生物学的な加工処理、機能経路、進化的保存性といった、包括的なタンパク質の生物学的知見や、他の情報資源へのクロスリファレンスも含まれています。
がん由来細胞でみられる無秩序な増殖やその他疾患に関連した細胞の機能不全の最も一般的な原因として、情報伝達経路の破綻が挙げられます。そこで、CSTは疾患でみられる数千種類の遺伝子変異の情報を組み込み、利用者がPTMと遺伝子変異の関係を解析できるようにしました。したがって、PhosphoSitePlusは、潜在的なバイオマーカーや疾患のドライバーの情報を内包したユニークな情報資源としての側面も持っています。
CSTは、PhosphoSitePlusを皆様の研究を強力にサポートする情報資源にすべく、これからも尽力していきます。ご利用されたことの無い方は、是非一度、お試しください。