SARS-CoV-2 (重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2型、以前の呼び名はnCoV) に早急に打ち勝ち、エピデミックにストップをかけるには、診断と治療が特に重要です。2020 年 1月 31 日時点で、7社のSARS-CoV-2核酸検出キットがSARS-CoV-2の検出に承認されています。一方、効果的な治療法を開発するための努力も続けられています。
Shanghai Pasteur Institute of Chinese Academy of Sciencesの研究者であるHao Pei (およびその他) は、コンピューターシミュレーション解析を用いて、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質はSARSウイルスのそれの空間的構造と似ているため、これもヒト細胞表面受容体ACE2に結合することにより宿主細胞に侵入する可能性があると考えられると報告ました。一方MERS-CoVは、DPP4を用いて宿主細胞に侵入します。[1] ACE2は、レニン-アンギオテンシンシグナル伝達経路内のACE/AngII生物活性のバランスを取ります。この経路の阻害はSARSの効果を低減することができますが、これにもACE2が使われます。そしてマウスを使った実験ではSARS-Sタンパク質を起因とする肺損傷を低減しました。[2]
しかし、ACE2がSARS-CoV-2が宿主細胞に侵入する唯一の手立てであることを確認するには、さらに研究が必要です。SARS-CoV-2がACE2を通じて細胞内に侵入し、エンドサイトーシスが起きたら、カテプシンはその後スパイクタンパク質 (Sタンパク質) を分解し、ウイルスの核酸を放出します。幾つかのエビデンスから、カテプシンB/L阻害物がこのプロセスを遮断しうることが示されています。この研究では、SARS-CoV-2は膜貫通タンパク質であるTMPRSS2により直接開裂できることが分かり、TMPRSS2を使いウイルスの細胞への侵入が遮断されました。[3]
現在、世界有数のバイオテクノロジー企業や研究機関の一部がSARS-CoV-2に対するワクチン開発への参加を表明しています。可能性のある薬剤治療の臨床試験は、現在以下の戦略に基づき行われています。第一にウイルスを標的とする:一覧の抗ウイルス剤のバッチをスクリーニングするため、in vitro実験が行われており、ファビピラビル、ロピナビル、リトナビルなどこのうちの一部は臨床試験段階にあります。アデノシンアナログであるレムデシビルは、第III相臨床試験が開始されました。第二に宿主細胞を標的とする:Chloroquineやニタゾキサニドなどの小分子インターフェロンが試験されています [4]。さらにBaricitinib、Sunitinib、Erlotinibなどの阻害剤が人工知能プログラムを使って評価されています。これは、エンドサイトーシス、成長、ウイルス構築の宿主細胞機構を制限できる化合物を特定することを目的としています [5]。
CSTは、ウイルス疾患の発症を理解し、アッセイおよび治療薬の研究と開発を進めるのに役立つ、良く検証された研究用抗体と小分子化合物を有しています。
宿主タンパク質に対する抗体
標的 |
製品番号 |
製品名 |
アプリケーション |
交差性 |
注意 |
ACE2 |
#4355 |
一次在庫切れ |
WB, IP |
H |
SARS-CoV-2とSARS-CoVの宿主受容体 |
DPP4 |
#67138 |
WB, IP,IF |
H |
MERS-CoVの宿主受容体 |
|
#40134 |
IHC |
H |
|||
AAK1 |
#79832 |
WB, IP |
H M R |
宿主受容体エンドサイトーシス調節因子 |
|
カテプシンB |
#31718 |
WB, IHC, IF, F |
H M R |
コロナウイルスSタンパク質の加水分解に関与し、核酸を放出する可能性がある |
|
#59355 |
F |
H M R |
|||
#55279 |
Cathepsin B (D1C7Y) XP® Rabbit mAb (Alexa Fluor® 488 Conjugate) |
IF |
H M R |
||
#3373 |
WB |
H |
|||
#3383 |
WB |
H M |
|||
IgM |
#74293 |
WB |
H |
患者の血液内にSARS-CoV-2特異的IgMがあるかどうかを検出するSARS-CoV-2特異的抗体と共に使用可能 |
候補の化合物が薬剤の効果の理解に役立つ
製品番号 |
製品名 |
注意 |
#14774 |
オートファジーを阻害しin vitroでSARS-CoV-2を阻害できる細胞溶解親和性化学物質[6] |
|
#12328 |
PDGFR、VEGFR、KIT、FLT3を標的とする複数のチロシンキナーゼ阻害剤 |
|
#5083 |
EGFRキナーゼ経路におけるATP競合的阻害剤 |
|
#15022 |
エポキソマイシン関連プロテアーゼ阻害剤 |
インキュベーション期間、臨床初見、そして治療への反応の点からすると、COVID-19 (SARS-CoV-2の感染から生じる2019年コロナウイルス疾患) にはSARSとの共通点があります。最新のランセットの論文によると、99人のCOVID-19患者の大半においてリンパ球の絶対数値が減少していました。この結果は、SARS-CoVと同様にSARS-CoV-2も主にリンパ球、特にTリンパ球に影響を与えることを示しています。ウイルスの粒子は呼吸粘膜を通して広がり他の細胞を感染し、in vivoでサイトカインストームを誘発し、免疫応答を順番に産生し、末梢白血球と免疫細胞 (リンパ球など) を変化させると考えられています。一部の患者は急性呼吸窮迫症候群 (ARDS) と敗血症性ショックを起こし、最終的には多臓器不全に至ります。[7]
リンパ球の総数が大きく減少するということは、コロナウイルスは多数の免疫細胞を消費し、ヒトの体の細胞免疫機能を阻害するということを示唆しているとする研究もあります。Tリンパ球の損傷が患者の症状の悪化の重要な要因かもしれません。[8]
Southern People's Weeklyに掲載された、上海中山病院救命医療科のZhong Ming医師のインタビューによると、COVID-19はサイトカインストームと多臓器不全として後期に悪化し、心筋損傷マーカーが増加することが分かっています。疾患のこのような経過は、以前のSARSや鳥インフルエンザ患者とは異なります。SARS患者は、後期ではなく初期に深刻な症状を呈します。この情報は、Tリンパ球の損傷、マクロファージとNK細胞の機能障害が免疫応答の後期におけるサイトカインストームの起因となっていることを示唆しています。全体的に、宿主細胞と体内のその他の免疫細胞が、SARS-CoV-2による感染後どのように反応するかをより良く理解するには、さらに研究が必要です。
ウイルスとサイトカイン反応に関与する免疫調節経路
COVID-19の臨床画像上の特徴に関する後ろ向き試験では [9]、CTスキャンにより、疾患進行、重症化、および寛解などの段階において壊死性病変が生じていることが示されました。壊死経路の活性化が、肺機能の損傷の原因となる可能性があります。ACE2タンパク質の関与を念頭に置き、肝臓や腎臓などその他の内臓の損傷がないかを解明するためさらなる研究が必要です。
壊死関連経路
このエピデミックは最終的には収束します。世界各国が警戒体制をとっている現在の状況を考えると、エピデミックはそのうちに沈静化します。しかし、患者や医療従事者にとってはこの戦いは始まったばかりなのかもしれません。SARSを振り返ると、回復した人にとって肺の損傷は後遺症のほんの一部であり、ホルモンの大量投与による治療法またはその他の治療が原因と考えられる大腿骨頭の壊死など、より深刻な懸念を抱えることになりました。さらに、SARS患者と医療従事者が経験した心理学的なトラウマはSARSエピデミックが収束してからも長年続きました。[10-13]
壊死細胞死関連経路
17年間のSARSの後、SARS-CoV-2は再び私たちの生活や生産性に深刻かつ広範囲な影響を与えています。過去から学んだ教訓は忘れるどころか今後に生かしていく必要があります。COVID-19の疫学、回避、治療法に関してこれまでたくさんに知識を積み重ねてきましたが、このエピデミックを抑制する方法を前進させるには、これからもまだまだ研究を深めていかなければなりません。
参考文献:
[1] Xintian Xu et al. Evolution of the novel coronavirus from the ongoing Wuhan outbreak and modeling of its spike protein for risk of human transmission.SCIENCE CHINA Life Sciences, https://doi.org/10.1007/s11427-020-1637-5
[2] Kuba, K., Imai, Y., Rao, S. et al. A crucial role of angiotensin converting enzyme 2 (ACE2) in SARS coronavirus–induced lung injury. Nat Med 11, 875–879 (2005). https://doi.org/10.1038/nm1267
[3] Hoffmann, M. et al. The novel coronavirus 2019 (2019-nCoV) uses the SARS-coronavirus receptor ACE2 and the cellular protease TMPRSS2 for entry into target cells. bioRxiv, 2020.2001.2031.929042, https://doi.org/10.1101/2020.01.31.929042
[4] Guangdi Li et al. Therapeutic options for the 2019 novel coronavirus (2019-nCoV). Nature Reviews Drug Discovery, 2020, doi:10.1038/d41573-020-00016-0
[5] Peter Richardson et al. Baricitinib as potential treatment for 2019-CoV acute respiratory disease.The Lancet In press, 2020, doi: https://doi.org/10.1016/S0140-6736(20)30304-4
[6] Remdesivir and chloroquine effectively inhibit the recently emerged novel coronavirus (2019-nCoV) in vitro. Cell Research (2020) 0:1–3; https://doi.org/10.1038/s41422-020-0282-0
[7] Nanshan Chen, Min Zhou, Xuan Dong, Jieming Qu, Li Zhang. Epidemiological and clinical characteristics of 99 cases of 2019 novel coronavirus pneumonia in Wuhan, China: a descriptive study. The LancetIn press, corrected proof. Available online 30 January 2020. https://doi.org/10.1016/S0140-6736(20)30211-7
[8] T-cell immunity of SARS-CoV: Implications for vaccine development against MERS-CoV. Antiviral Research.Volume 137, January 2017, Pages 82-92. https://doi.org/10.1016/j.antiviral.2016.11.006
[9] Novel coronavirus pneumonia in Wuhan: clinical and imaging features, radiology practice, 2019. DOI:10.13609/j.cnki.1000G0313.2020.02.001
[10] Stress and Psychological Distress Among SARS Survivors 1 Year After the Outbreak,The Canadian Journal of Psychiatry, Vol 52, No 4, April 2007,DOI:10.1177/070674370705200405
[11]1-Year Pulmonary Function and Health Status in Survivors of Severe Acute Respiratory Syndrome,CHEST, 128, 3, SEPTEMBER, 2005,DOI:S0012-3692(15)52164-8
[12] Mental Morbidities and Chronic Fatigue in Severe Acute Respiratory Syndrome Survivors Long-term Follow-up, Intern Med. 2009;169(22):2142-2147. doi:10.1001/archinternmed.2009.384
[13] SARS 10 years later: How are survivors faring now? Global News, https://globalnews.ca/news/404562/sars-10-years-later-how-are-survivors-faring-now/