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Cell Signaling Technology (CST) の公式ブログでは、実験中に起こると予測される事象や実験のヒント、コツ、情報などを紹介します。

SignalScanを用いた感染と免疫応答の研究

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感染力の強い重症急性呼吸器症候群コロナウイルス-2 (SARS-CoV2: Severe acute respiratory syndrome coronavirus-2) は、全世界で1億4100万人以上が感染し、300万人以上の死者を出したCOVID-19パンデミックの原因となっています (ジョンズ・ホプキンス大学)。SARSの近縁種 (遺伝子の類似性:79%) であるCOVID-19の感染は、多くの場合無症状ですが、感受性の高い個人の場合は呼吸困難や炎症、多臓器不全を引き起こし、死に至ることもあります。

SARS-CoV-2ウイルスは、スパイクタンパク質 (S) を介して宿主の細胞表面のAngiotensin-converting enzyme 2 (ACE2) 受容体に結合し、宿主細胞に侵入します。セリンプロテアーゼTMPRSS2がSタンパク質を切断することで、ウイルスはリソソーム膜に融合できるようになります。感染が有効な場合、ウイルスRNAから2種のポリタンパク質 (ORF1a、ORF1ab) のRNAが転写され、これらがウイルスの複製/転写複合体を形成します。ポリタンパク質は、ウイルスにコードされたプロテアーゼによるプロセシングを受け、16種類のタンパク質となります。これらによってウイルスRNAの産生や免疫系の回避の補助が行われます。Covid-19は、4種の主要な構造タンパク質、すなわち、S (スパイクタンパク質)、E (エンベロープタンパク質)、 M (メンブレンタンパク質)、N (ヌクレオカプシドタンパク質) を産生します。

Bouhaddou博士らの研究で、COVID-19の感染によって宿主の細胞内キナーゼCK2 (Casein kinase ll)p38MAPKの活性化、サイトカインの産生、有糸分裂キナーゼ活性の阻害による細胞周期の停止が起こることが示されています。またプロテオミクス解析では、COVID-19に感染したVero細胞モデルで、7種のウイルスタンパク質に49箇所のリン酸化部位が検出されました。Gordon博士らによるタンパク質 - タンパク質間のインタラクトーム研究では、27のウイルスタンパク質と332のヒトタンパク質の相互作用の可能性が示唆されました。

Cell Signaling Technologyは、COVID-19感染による宿主とウイルスのプロテーム変化をより良く検出して定量する、独自のSignalScanアッセイを開発しました。このアッセイはターゲットプロテオミクス (LC-MS/MS) 解析で25のトリプシン消化したペプチドを検出するように設計されています。SignalScan Peptide Mixには、COVID-19および宿主ヒトタンパク質に由来する安定同位体標識 (13Cおよび15N) したトリプシン消化ペプチドが含まれています。これらの安定同位体標品 (SIS:Stable isotope standard) ペプチドと高精度質量分析装置を組み合わせることで、宿主とウイルスの内因性ペプチドの同定が保証されます。このアッセイでは内因性ペプチドはSISと明確に識別され、定量することができます。またこのアッセイでは、ウイルスの主要タンパク質であるスパイクタンパク質とヌクレオカプシドタンパク質とともに、感染で刺激された宿主の免疫応答タンパク質であるInterferon αとβを検出することができます。さらにこのアッセイでは、宿主免疫応答の重要な構成要素であるJak1やStat1、Toll様受容体 (TLR:Toll-like receptor) に由来するペプチドの翻訳後修飾も検出できる点も重要です。

この混合物には、アミノ酸分析 (AAA) で定量した、安定同位体標識 (13Cおよび15N) された25種類のSISペプチドが、それぞれ96 pmol含まれています。SISペプチドがターゲットMS/MS解析のトリガーとして機能し、LC-MSアッセイの感度が向上します。ターゲットプロテオミクスでは生体サンプル中に存在するペプチドを一貫して観察し、感度を最大限に高めることができます。SISを利用した解析では、厳密な保持時間 (Retention time) のウィンドウを使用することなく、並列反応モニタリング (PRM:Parallel reaction monitoring) アッセイの感度が得られます。このターゲットプロテオミクスの手法で、タンパク質レベル、タンパク質の翻訳後修飾 (PTM)レベルでCOVID-19の感染を詳細かつ定量的に解析することができます。SignalScanテクノロジーは、PCR法に基づくCOVID-19感染の検出と、増殖性感染と宿主免疫応答の分子特性の解明の橋渡しをします。 

SignalScanのテクノロジーの詳細はこちら。

 

参考文献

  1. Gordon, D.E., Jang, G.M., Bouhaddou, M., Xu, J., Obernier, K., White, K.M., O’Meara, M.J., Rezelj, V.V., Guo, J.Z., Swaney, D.L., et al. (2020). A SARS- CoV-2 protein interaction map reveals targets for drug repurposing. Nature. オンラインで公開2020 年 4月 30 日
  2. Bouhaddou et al., 2020, Cell 182, 685–712 2020 年 8月 06 日 a 2020 Elsevier Inc.
Charles Farnsworth, PhD
Charles Farnsworth, PhD
Charles (Chuck) Farnsworth博士は、2024年に退職するまでの20年間、CSTのプロテオミクスアプリケーションサイエンティストとして務めました。博士は、PTMScan製品ラインの主任研究員であり、シニアプロテオミクスアプリケーションサイエンティストでもありました。また、Chuck博士は、タフツ大学で生化学を専攻し、ハーバード大学医学部で白血病リンパ腫協会の博士研究員として発生生物学とシグナル伝達を研究しました。退職後は、子供たちとのキャンプやバーモント州マッド・リバー・バレーでの星空観察など、好きなことに時間を費やしています。

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