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神経変性疾患とは?

神経変性は、ニューロンの機能と構造が徐々に失われ、認知症などの認知障害を引き起こすことが特徴です。ニューロンの細胞死やグリアの恒常性などが神経変性疾患の原因であり、これには加齢が関与しています。主に加齢によって発症する神経変性疾患にはアルツハイマー病 (AD) やパーキンソン病 (PD) があり、中枢神経系の細胞機能に影響を与える遺伝子変異によって発症するものにはハンチントン病 (HD)、若年性ADやPD、筋萎縮性側索硬化症 (ALS) があります。

神経変性疾患の主な発症プロセスには次のようなものがあります。

タンパク質の折り畳みの異常と凝集:折り畳みに異常のあるタンパク質が凝集することで神経原線維変化やアミロイド斑の形成が起こり、これがニューロンへの細胞毒性の原因となります。

図1 アミロイド斑アルツハイマー病経路

神経炎症:タンパク質の毒性凝集体、感染、外傷、自己免疫などによって中枢神経系に炎症が引き起こされます。通常、脳機能を保護するために免疫系 (ミクログリア、マクロファージ) やアストロサイトが中枢神経系から有害な刺激を取り除こうとします。神経変性疾患ではこのプロセスが機能していない可能性があります。

細胞シグナル伝達の変調:近年の研究によると、細胞間コミュニケーションの異常 (前シナプスの入力信号の乱れ) や、細胞内シグナル伝達の撹乱が神経変性疾患の病態形成に関与することが示唆されています。

細胞老化と細胞死アポトーシス、ネクロプトーシス、オートファジーなどの細胞死パスウェイ に関与するタンパク質の変異が、神経変性疾患の進行に関与しています。アポトーシスのシグナル伝達の障害、ミトコンドリアの機能不全、オートファジーの障害、ストレスや炎症によるネクロソームの活性化などは、ニューロンの細胞死の一因となります。

 

図2 デスレセプターの相互作用経路

図3 オートファジー相互作用経路

 


細胞運動性の障害:近年の研究から、ADに関与するいくつかのタンパク質が、ニューロンの遊走の制御に寄与していることが分かっています。細胞運動性の障害がどの程度神経変性疾患の発病に関与しているかを判断するには、継続した研究が必要です。さらに、免疫細胞がプラークや炎症部位に遊走するメカニズムの解明を進めることも重要です。
エピジェネティクス:近年、DNAのメチル化やヒストン修飾と、ADとPDとの紐付けが行われましたが、疾患への正確な影響ははっきりしていません。環境改善とエピジェネティクス変化による発症リスクに着目した研究が、神経変性疾患の治療法開発で成長している分野です。

神経変性疾患の研究領域

アルツハイマー病の研究

AD患者数は世界で5千万人にも上り、今後10年間でさらに増加することが予想されるため、世界的に医療保険財政を圧迫する要因となっています。ADでは加齢や遺伝子変異に起因する特徴的なタンパク質の凝集によって、神経原線維の変化やアミロイド斑の形成が起こり、ニューロンやグリアの細胞死、認知機能の障害がみられるようになります。このような病態では、アミロイド斑や変質した神経原線維に凝集したタンパク質などによって慢性炎症が惹起されます。この神経炎症がニューロン、アストロサイト、オリゴデンドロサイトの細胞死や疾患の進行に関与しています

ADの治療法は確立していませんが、病態の進行への関与がわかっている遺伝子変異やタンパク質を標的とした治療法の研究が進められています。

ADの病理学的特徴には、脳内のアミロイド斑 (プラーク) の形成と神経原繊維の変化があります。アミロイド斑はAmyloid βタンパク質などで構成され、神経原線維変化は主に高度にリン酸化されたTauタンパク質の凝集によって起こります。疾患の原因タンパク質が特定されたことで、これらを特異的に認識する抗体が開発されました。研究の場においてこれら製品が、Amyloid βやTau、その他神経変性疾患に関与するタンパク質の発現や沈着を解析する上で大きな役割を果たします。

図4 神経マーカーとグリアマーカー

パーキンソン病の研究

運動機能と、最終的には認知機能の障害がみられるパーキンソン病 (PD) も加齢と遺伝的要因によって発症しますが、ADに比べより複雑なタンパク質の凝集が起こります。PDの症例の大半は特発性ですが、一部では関連する遺伝子変異が見つかっており、これが新規治療法の探索を複雑にしています。

図6 パーキンソン病におけるドーパミンシグナル伝達経路

多発性硬化症の研究

多発性硬化症 (MS) は、脳や脊髄のニューロンを覆うミエリン鞘を免疫系が攻撃することで発症します。これによって、ニューロン間の情報伝達の悪化や軸索の損傷が起こります。MSの症状は身体的能力の低下として現れ、さらに、視覚、疼痛処理、発話の変化も起こします。性、人種、環境要因がMS発症のリスクファクターとなりますが、正確な要因は未だ判明していません。

現在、MRI検査がMSのバイオマーカーとして機能しています。バイオマーカーが利用できるようになったため、これを利用した治療法の開発が進められています。

筋萎縮性側索硬化症の研究

筋萎縮性側索硬化症 (ALS) では、脳と脊髄にある運動ニューロンの細胞死や変性がみられます。ALS患者には発話能力や随意運動の障害が起こり、最終的には呼吸能力を失います。ALSの原因は未だに判明していませんが、発症に関連する遺伝子変異が見つかっており、これらが精力的に研究されています。

ハンチントン病の研究

ハンチントン病 (HD) は致死性の神経変性疾患であり、精神障害、認知障害、運動機能障害がみられます。HDは遺伝性疾患で、原因遺伝子の染色体内位置決定からHuntingtin遺伝子の同定まで、遺伝性神経疾患の旗艦的研究として位置づけられています。Hantintin遺伝子にある、本来34コピー以下のCAGリピートが増加することが発症の原因となることが分かっています。CAGリピートが増幅した変異型ハンチントンタンパク質は凝集し、ミトコンドリアの機能と代謝に悪影響を与えてBDNFなどの神経栄養因子の発現を抑制します。

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