この仮説に一致することとして、著者らは、インスリン依存的な細胞内シグナリングのApoEアイソフォーム依存的な変化を観察しました。APOE4マウスでは、インスリンに刺激されるリン酸化Aktが、APOE3マウスに比較して減少しました。Apoe -/-マウスに由来するニューロンの初代培養にApoE3もしくはApoE4のリコンビナントを添加し、インスリンの有無で比較した実験でも同様の結果が得られており、ApoEタンパク質がインスリンシグナリングを直接制御する可能性が示唆されました。これはなぜでしょう?
著者らは、ApoEがIRに直接結合する可能性を検証しました。リコンビナントタンパク質を用いたELISAアッセイを行った結果、ApoEのIRへの直接的な結合が観察されました。興味深いことに、ApoE4はApoE3に比較してIRへより強く結合することがわかりました。それでは、ApoE4依存的な下流のIRシグナリングの活性低下と、ApoE4とIRとの強い相互作用を結びつけるメカニズムはどのようなものが考えられるでしょうか?細胞表面に表出するIRは、循環しているインスリンレベルによって部分的に制御されています。興味深いことに、ApoE4処理により、細胞表面IRが全体的に減少します。さらに、ApoE4はインスリンと相乗的に作用し、ApoE3よりも細胞表面のIRを減少させました。重要なこととして、著者らは少なくとも培養細胞において、ApoE4特異的に初期エンドソームへIRが濃縮されることも観察していました。このことは、IRシグナリングを変化させるために、ApoEの特異的なアイソフォームが細胞内輸送機構へIRを捕捉させる何らかのメカニズムを示唆しています。
さらに、この論文では、特定のADに関連するApoEアイソフォームが、脳のインスリンシグナリングを障害し、病気の進行に寄与する新規のメカニズムについて記述・提案されています。しかしながら、いくつかの疑問が残ります。例えば、著者らはApoE4依存的なIRシグナリングの変化と、加齢によって促進されるIRの安定性へのApoE4の影響を観察しています。これらの変化は、ADマウスモデルにおいて観察される行動の変化や細胞の変化 (例えば、シナプスの機能不全) と相関があるのでしょうか?タイムラインの一致は、疾患への共通のパスウェイを示唆しているのかもしれません。さらに、IRパスウェイを活性化するような古典的な (急性の) インスリンが仲介するシグナルのエンドソームと、IRパスウェイを抑制するような慢性的なApoE/インスリンが仲介するIRのエンドソーム捕捉は、機構的な違いがあるのでしょうか?最後に、脳にあるある種の細胞は、他の細胞よりもIRシグナリングの変化に感受性が高いことも考えられます。今後の研究により、間違いなくこれらの見た目上は共通点のないパスウェイがひとまとめにされ、機構的な落とし穴であるADを理解するための道筋が明らかにされるでしょう。